39 / 67
39
しおりを挟む
家から屋敷までは歩いて十分ほどで着いた。
真広にとっては見知った地元のはずだが知らない小道も多かった。
途中吠える犬はいるし、坂も多いが車通りはそれほど多くない。
屋敷に着くと真広はその大きさに感心していた。
「ここか。すごい庭だね」
「広い。おにごっこできる。かくれんぼも」
「見つける方は大変そうだ。迷子には気を付けないとね」
「大丈夫。うちは迷わん」
小白はしれっとそう言った。真広はそれを信じて頷いた。
「今からジョーシンに行ってブルーレイレコーダーを見てくるけど一緒に行くかい? それともここに残る?」
「トラのところ?」
「そうだね」
「トラは大きいねこだから悩むけどここにいる。牧師に会いたいから」
「そうか。まあ、じゃあ行ってくるよ。なにかあったら携帯に電話して」
小白はこくんと頷くが真広はまだ心配そうだった。
「それと怪我をしないように。させるのもダメだ。ああ、あと知らない大人について行っちゃいけないよ。外に出る時は車に気を付けないといけないし、危ない場所にも行っちゃダメだ。変な物も食べないように。いいかい?」
「わかった」
小白は半分くらい聞いてなかったがまた頷いた。
真広は心配そうにしながらもチャイムを鳴らして屋敷に入っていく小白の後ろ姿を眺めていた。小白が見えなくなって三十秒くらいしてから真広は家電量販店に行くため、車のある家まで歩き出した。その背中は少し寂しそうだった。
屋敷に入った小白は玄関で里香に挨拶した。
「来た」
「どうぞ。蒼真はまだ来てないよ。あの子も色々と行くところあるみたいだから」
「いらん」
小白はそう言うとリビングに向かった。広いリビングには寄付された本が置かれている。
小白は本棚を吟味し、その内の一冊を選んでつま先立ちで手を伸ばした。すると同じサイズの白い手とぶつかる。
小白が隣を見るとそこには見知らぬ女の子がつま先立ちで睨んでいた。
白い丸襟のワンピースに赤いリボンを結び、白の靴下にはワンポイントが入っている。リボン付きのヘアゴムでツインテールを構築していて如何にも女の子らしい子だった。
少女は鋭い目つきで言った。
「あんた男の子でしょ? だったら譲りなさいよ」
「うちは男じゃない。ねこ」
「ねこ? あんた女の子なの?」少女の表情が少し柔らかくなった。「そう。じゃあそれ読んでいいわ。わたしはもう五才だから」
「うちも五才だが」
小白はそう言いながらも本棚から絵本を抜き取った。それをソファーまで持っていき、座ると開いた。
少女も小白について行き、隣にちょこんと座ると笑いかける。
「わたし伊織桐乃。名前みたいな苗字と苗字みたいな名前でしょ?」
「しらん」
「あなたは?」
「小白。ねこ」
「へえ。小白ねこちゃんって言うんだ。かわいい名前」
桐乃は楽しそうに足をブラブラさせ、絵本を指さした。
「この本好き? おもしろいよね。どうなるか教えてあげようか?」
「いらん」
「わたしんち犬飼ってるんだよ。トイプードル。コロンっていうの。見に来る?」
「いかん」
「じゃあさじゃあさ」
桐乃がまだ話したそうにしていると小白は絵本をパタンと閉じて冷めた目で言った。
「だまれ」
桐乃は分かりやすくショックを受ける。そこへ小白が追い打ちをかけた。
「お前、友達おらんだろ」
図星を指されて桐乃は更にショックを受ける。
そこへ蒼真がやってきた。蒼真は部屋の隅で一人体育座りをする桐乃を見つけて不思議がった。
「……なにしてるんだ?」
そう言って蒼真はソファーでくつろぐ小白を見つけ、なんとなく理解する。
「小白にやられたのか……」
蒼真から小白の名前が出ると桐乃は耳をぴくりと動かして素早く詰め寄った。涙目で怒りながら小白を指さす。
「なんなのよあの子ッ!? いきなり来て大きな顔するなんてッ!」
「大きな顔はお前もだろ。まあ、たしかにあいつはすごいけど……」
小白は初めて座ったソファーで寝転び、自由気ままに絵本を読んでいる。それを見て蒼真は呆れていたが、同時にもう慣れていた。
「とにかく仲良くしろよ。お互いに」
桐乃は「イヤよ。あんなわがままで自分のことしか考えてない子なんて」と拒否する。
「よくそれを他人に言えるな……」蒼真は呆れながら小白の方を向いた。「小白もさ。あんまりここじゃ無茶するなよ。先生怒るとこわいんだからな」
「うそつきのくせにえらそうだな」
小白はボソリと毒づいた。
「うそって?」
「ねこ。見つけられなかった」
「そんなのしょうがないだろ。ねこなんだから。自由なんだよ」
「…………一理ある」
二人の会話を聞いていた桐乃はもう一度チャレンジしようと小白に話しかけた。
「ねこが好きなの? 名前がねこちゃんだから?」
「名前は小白。種族がねこ。二度と間違えるな」
「な、な、なによそれ!」桐乃は小白をびしっと指さした。「うそつき! この子うそつきだわ! うそはついちゃいけないんだから!」
「言われてるぞ。クソガキ」
蒼真は「お前だろ」と呆れる。小白はムッとして桐乃を見上げた。
「うちはうそつきじゃない。ねこだから。ねこになるから」
「なに言ってるのよ! 人間がねこになれるわけないじゃない!」
小白は一瞬ハッとしてからすぐ桐乃を睨んだ。
さっきまで威勢が良かった桐乃はたじたじになる。
「な、なによ……。本当のことでしょ…………」
小白はぎゅっと口をつぐんで絵本を閉じ、そして絵本をソファーに置いて立ち上がると桐乃の前まで行き、立ち止まった。
桐乃は隣にいた蒼真にしがみつく。蒼真は自分を巻き込むなとギョッとした。
桐乃が叩かれると思って目を瞑ると小白はぷいっとそっぽを向いてリビングの出口に向かった。
「行ってくる」
蒼真は意味が分からず眉をひそめた。
「どこに?」
「ねこの会議。うちはねこだから呼ばれてる」
「……そっか。いってらっしゃい」
「うん。マヒロが来たら待っとくように言っておいて」
そう言うと小白はリビングから出て行った。
リビングに残った蒼真は自分にしがみつく桐乃をチラリと見て、溜息をついた。
「……マヒロって誰だよ?」
真広にとっては見知った地元のはずだが知らない小道も多かった。
途中吠える犬はいるし、坂も多いが車通りはそれほど多くない。
屋敷に着くと真広はその大きさに感心していた。
「ここか。すごい庭だね」
「広い。おにごっこできる。かくれんぼも」
「見つける方は大変そうだ。迷子には気を付けないとね」
「大丈夫。うちは迷わん」
小白はしれっとそう言った。真広はそれを信じて頷いた。
「今からジョーシンに行ってブルーレイレコーダーを見てくるけど一緒に行くかい? それともここに残る?」
「トラのところ?」
「そうだね」
「トラは大きいねこだから悩むけどここにいる。牧師に会いたいから」
「そうか。まあ、じゃあ行ってくるよ。なにかあったら携帯に電話して」
小白はこくんと頷くが真広はまだ心配そうだった。
「それと怪我をしないように。させるのもダメだ。ああ、あと知らない大人について行っちゃいけないよ。外に出る時は車に気を付けないといけないし、危ない場所にも行っちゃダメだ。変な物も食べないように。いいかい?」
「わかった」
小白は半分くらい聞いてなかったがまた頷いた。
真広は心配そうにしながらもチャイムを鳴らして屋敷に入っていく小白の後ろ姿を眺めていた。小白が見えなくなって三十秒くらいしてから真広は家電量販店に行くため、車のある家まで歩き出した。その背中は少し寂しそうだった。
屋敷に入った小白は玄関で里香に挨拶した。
「来た」
「どうぞ。蒼真はまだ来てないよ。あの子も色々と行くところあるみたいだから」
「いらん」
小白はそう言うとリビングに向かった。広いリビングには寄付された本が置かれている。
小白は本棚を吟味し、その内の一冊を選んでつま先立ちで手を伸ばした。すると同じサイズの白い手とぶつかる。
小白が隣を見るとそこには見知らぬ女の子がつま先立ちで睨んでいた。
白い丸襟のワンピースに赤いリボンを結び、白の靴下にはワンポイントが入っている。リボン付きのヘアゴムでツインテールを構築していて如何にも女の子らしい子だった。
少女は鋭い目つきで言った。
「あんた男の子でしょ? だったら譲りなさいよ」
「うちは男じゃない。ねこ」
「ねこ? あんた女の子なの?」少女の表情が少し柔らかくなった。「そう。じゃあそれ読んでいいわ。わたしはもう五才だから」
「うちも五才だが」
小白はそう言いながらも本棚から絵本を抜き取った。それをソファーまで持っていき、座ると開いた。
少女も小白について行き、隣にちょこんと座ると笑いかける。
「わたし伊織桐乃。名前みたいな苗字と苗字みたいな名前でしょ?」
「しらん」
「あなたは?」
「小白。ねこ」
「へえ。小白ねこちゃんって言うんだ。かわいい名前」
桐乃は楽しそうに足をブラブラさせ、絵本を指さした。
「この本好き? おもしろいよね。どうなるか教えてあげようか?」
「いらん」
「わたしんち犬飼ってるんだよ。トイプードル。コロンっていうの。見に来る?」
「いかん」
「じゃあさじゃあさ」
桐乃がまだ話したそうにしていると小白は絵本をパタンと閉じて冷めた目で言った。
「だまれ」
桐乃は分かりやすくショックを受ける。そこへ小白が追い打ちをかけた。
「お前、友達おらんだろ」
図星を指されて桐乃は更にショックを受ける。
そこへ蒼真がやってきた。蒼真は部屋の隅で一人体育座りをする桐乃を見つけて不思議がった。
「……なにしてるんだ?」
そう言って蒼真はソファーでくつろぐ小白を見つけ、なんとなく理解する。
「小白にやられたのか……」
蒼真から小白の名前が出ると桐乃は耳をぴくりと動かして素早く詰め寄った。涙目で怒りながら小白を指さす。
「なんなのよあの子ッ!? いきなり来て大きな顔するなんてッ!」
「大きな顔はお前もだろ。まあ、たしかにあいつはすごいけど……」
小白は初めて座ったソファーで寝転び、自由気ままに絵本を読んでいる。それを見て蒼真は呆れていたが、同時にもう慣れていた。
「とにかく仲良くしろよ。お互いに」
桐乃は「イヤよ。あんなわがままで自分のことしか考えてない子なんて」と拒否する。
「よくそれを他人に言えるな……」蒼真は呆れながら小白の方を向いた。「小白もさ。あんまりここじゃ無茶するなよ。先生怒るとこわいんだからな」
「うそつきのくせにえらそうだな」
小白はボソリと毒づいた。
「うそって?」
「ねこ。見つけられなかった」
「そんなのしょうがないだろ。ねこなんだから。自由なんだよ」
「…………一理ある」
二人の会話を聞いていた桐乃はもう一度チャレンジしようと小白に話しかけた。
「ねこが好きなの? 名前がねこちゃんだから?」
「名前は小白。種族がねこ。二度と間違えるな」
「な、な、なによそれ!」桐乃は小白をびしっと指さした。「うそつき! この子うそつきだわ! うそはついちゃいけないんだから!」
「言われてるぞ。クソガキ」
蒼真は「お前だろ」と呆れる。小白はムッとして桐乃を見上げた。
「うちはうそつきじゃない。ねこだから。ねこになるから」
「なに言ってるのよ! 人間がねこになれるわけないじゃない!」
小白は一瞬ハッとしてからすぐ桐乃を睨んだ。
さっきまで威勢が良かった桐乃はたじたじになる。
「な、なによ……。本当のことでしょ…………」
小白はぎゅっと口をつぐんで絵本を閉じ、そして絵本をソファーに置いて立ち上がると桐乃の前まで行き、立ち止まった。
桐乃は隣にいた蒼真にしがみつく。蒼真は自分を巻き込むなとギョッとした。
桐乃が叩かれると思って目を瞑ると小白はぷいっとそっぽを向いてリビングの出口に向かった。
「行ってくる」
蒼真は意味が分からず眉をひそめた。
「どこに?」
「ねこの会議。うちはねこだから呼ばれてる」
「……そっか。いってらっしゃい」
「うん。マヒロが来たら待っとくように言っておいて」
そう言うと小白はリビングから出て行った。
リビングに残った蒼真は自分にしがみつく桐乃をチラリと見て、溜息をついた。
「……マヒロって誰だよ?」
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
【完結】瑠璃色の薬草師
シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。
絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。
持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。
しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。
これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる