路地裏のアン

ねこしゃけ日和

文字の大きさ
46 / 67

46

しおりを挟む
 蒼真と小白は一緒に屋敷を出て夕日に照らされる坂を下った。
 坂を下ると二人は分かれ道の前で立ち止まる。蒼真の住むアパートはここより更に下って歩かないといけない。
「じゃあな」
「うん」
 小白が頷いて振り返ると蒼真はその背中に声を掛けた。
「なあ」
 小白は声に気付いて振り向くと蒼真はいつもより真剣そうに言った。
「ねこもいいけどさ。人間も悪くないとオレは思う。まあ、大変だけどさ」
 いきなり思いも寄らないことを言われて小白はぽかんとしていた。
 蒼真はぶっきらぼうに「それだけ」と言うと走って坂を下っていった。
 小白は一人その場で立ち止まり、小さくなっていく蒼真の背中を見つめていた。
 小さく揺れていた小白の心は次第にその振れ幅を大きくし、小白はなにがなんだか分からなくなってくる。
 よく分からなかった。だからきちんと意味を聞きたかった。
 小白が蒼真のあとを追おうと思い、重心を前に傾けた時だった。
 後ろから声がした。
「ねこはいつだって人の理想だわ」
 小白がハッとして声の方を向くと道路を挟んで右側に小さな赤いねこいた。
 ポストの上に座って小白の方を見ている。
「アン!」と小白が叫んだ時だった。
 アンはなにかに気付いたように坂の上を睨んだ。
 すると坂の上からトラックが下ってきて一瞬アンの姿が隠れる。
 トラックが通り過ぎるとそこにはアンの姿がなかった。
 小白はびっくりすると共に不安になった。辺りを見渡すがアンはどこにもいない。
 どうしようと思って蒼真のいた方を見てみるがこちらもいなかった。
 さっきまで夕日に照らされて燃えるように赤かった坂は少しずつ青みを帯びて暗くなっていく。
 そこに低い声が静かに落ちた。
「ねこは決して祈らない」
 小白が声の方を振り向くと近くにある民家の屋根に黒い影が背筋を伸ばして見えた。
 それは端正な顔立ちをしたスリムな黒いねこだった。緑色の瞳に小白の顔が映る。
「なぜならねこに神はいないからだ」
 いきなりのことに小白は驚いてさっきまでいたはずのアンを探した。
「アン! アンはどこ?」
「あれなら逃げたよ」と黒ねこは言った。「あれは希望しか語らない」
 黒ねこは怖がって口をぎゅっとつぐむ小白を微動だにせず見下ろし続ける。
「お前はどうだ?」と黒ねこは尋ねた。「祈るのか、祈らないのか」
「う、うちは…………」
 答えられない小白を見て黒ねこは振り返った。その背中には白い十字の模様があった。
「それが分かったらまた会ってもいい。お前の答えが持てたのなら。借り物は所詮借り物だからな」
 牧師はそう言うと民家の裏側に飛び降りて見えなくなった。
 一人残された小白は俯き、今も自問していた。目の前に伸びる影が次第に闇へと溶けていく。
「うちは………………」
 小白が顔を上げた時にはさっきまで残っていた明るさは完全に消え、辺りは夜になった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...