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真理恵は真広が運転する車の助手席で不安そうにしていた。
「本当にいるんでしょうか……?」
先ほどから風が強く、雨が横から車体を叩くように降っていた。
「いるさ。あの子は優しい子だから」
真広は小白を信じてそう言った。
雨は激しさを増し、ワイパーが忙しそうに動いていた。開けた道路に出ると横からの風に車体が押される。
真広は古い軽自動車をなんとか走らせ、目的地へと急いだ。
天気が悪くなるにつれ真理恵は小白の無事を祈った。誰かの心配を必死にする。こんな気持ちになったのは初めてだった。
一方の真広も不安と心配が混ざった表情のままひたすら前を見つめている。
備え付けのラジオからは予報外の大雨に関するニュースが流れていた。それを途中で遮って真広が車を駐めたのはフェリー乗り場の駐車場だった。
部屋で貝殻を見つけた真広は小白が母親に会おうとしているのではないかと考えた。
母親が倒れた時、小白は高野を呼びに行った。知り合いがいないからとにかく近い隣の部屋を選んだのだろう。
今度は高野が倒れた。なら小白が呼びに行ける知り合いは母親だけだ。
小白はねこになった母親を呼ぶために四国にある島まで行くつもりなのではないか。真広はそう考えた。
雨に濡れるのもお構いなしですぐさま車を降りた真広と真理恵はフェリー乗り場に急いだ。受付に行くと息を切らしながら尋ねる。
「すいません。ここに女の子が来ませんでしたか? 一人で」
真理恵は「帽子をかぶった子です」と付け加える。
「女の子?」
受付の一人は隣に座る同僚の顔を見た。その同僚は首を傾げる。
二人が場所を間違えたかと青ざめていると受付の奥から太ったおばさんがやって来た。
「来てましたよ」
「い、いつ?」
真広は受付に手をついて前屈みになった。
「三十分前でしたかね。風が強くなったんで船が遅れてるからしばらく待ってもらおうとしたんです。その間にお父さんとお母さんはって聞いたら黙って走って行きました」
「どこに?」
「さあ? 外に出たように見えましたけど。家に帰ったんじゃないですか?」
「外って……」
真広と真理恵はゾッとした。出口から見える外は大雨と暴風で荒れ狂っている。
「行かないと……」
真広はそう呟くと出口へと走り出した。
「兄さん!」と叫んで真理恵もそのあとを追う。
フェリー乗り場の周囲は海沿いの公園になっており、防波堤で砕けた波が襲いかかる。
雨が強く、当然誰もいない海浜公園を真広と真理恵はびしょ濡れになって走った。
さっき言ってた女の子が本当に小白かは分からない。だがもしそうなら。その可能性が一%でもあるのなら、それが二人を走らせる。
娘のためなら自分がどうなってもいい。心の底からそう思えた時、二人は親子がなんなのかを本当の意味で知れた気がした。
二人が少しも見落とすまいと辺りを見渡しながら走っていると目の前にいくつかの遊具が現れた。
一瞬、雨宿りができそうなところはなさそうだと真広は思ったが、奥にある大きな滑り台が目に付いた。傾斜があって長いのでその下は雨風が届かないかもしれない。
もしかしたらと思った瞬間、真広は息を切らし、ぜえぜえと喉を痛めながら近づく。
祈りながら滑り台の裏側を覗くと、そこには捨てねこのように小さく丸まる小白がいた。
「いたんですか!?」
立ち止まる真広の後ろから真理恵が遅れてついて来た。真理恵は兄の返事を待たず、自分で滑り台の裏を確認し、安堵すると涙を流しながら小白を抱きしめた。
「ああ、よかった……。本当によかった……」
真理恵はその場でへたり込む。その胸の中で小白は目を左右に動かした。
「…………その……………………」
小白はなにか言いそうになったが、口をつぐんだ。
そしてそれは真広も同じだった。大きく安堵の息をつく。そして静かに言った。
「……とにかく、車に戻ろう」
「本当にいるんでしょうか……?」
先ほどから風が強く、雨が横から車体を叩くように降っていた。
「いるさ。あの子は優しい子だから」
真広は小白を信じてそう言った。
雨は激しさを増し、ワイパーが忙しそうに動いていた。開けた道路に出ると横からの風に車体が押される。
真広は古い軽自動車をなんとか走らせ、目的地へと急いだ。
天気が悪くなるにつれ真理恵は小白の無事を祈った。誰かの心配を必死にする。こんな気持ちになったのは初めてだった。
一方の真広も不安と心配が混ざった表情のままひたすら前を見つめている。
備え付けのラジオからは予報外の大雨に関するニュースが流れていた。それを途中で遮って真広が車を駐めたのはフェリー乗り場の駐車場だった。
部屋で貝殻を見つけた真広は小白が母親に会おうとしているのではないかと考えた。
母親が倒れた時、小白は高野を呼びに行った。知り合いがいないからとにかく近い隣の部屋を選んだのだろう。
今度は高野が倒れた。なら小白が呼びに行ける知り合いは母親だけだ。
小白はねこになった母親を呼ぶために四国にある島まで行くつもりなのではないか。真広はそう考えた。
雨に濡れるのもお構いなしですぐさま車を降りた真広と真理恵はフェリー乗り場に急いだ。受付に行くと息を切らしながら尋ねる。
「すいません。ここに女の子が来ませんでしたか? 一人で」
真理恵は「帽子をかぶった子です」と付け加える。
「女の子?」
受付の一人は隣に座る同僚の顔を見た。その同僚は首を傾げる。
二人が場所を間違えたかと青ざめていると受付の奥から太ったおばさんがやって来た。
「来てましたよ」
「い、いつ?」
真広は受付に手をついて前屈みになった。
「三十分前でしたかね。風が強くなったんで船が遅れてるからしばらく待ってもらおうとしたんです。その間にお父さんとお母さんはって聞いたら黙って走って行きました」
「どこに?」
「さあ? 外に出たように見えましたけど。家に帰ったんじゃないですか?」
「外って……」
真広と真理恵はゾッとした。出口から見える外は大雨と暴風で荒れ狂っている。
「行かないと……」
真広はそう呟くと出口へと走り出した。
「兄さん!」と叫んで真理恵もそのあとを追う。
フェリー乗り場の周囲は海沿いの公園になっており、防波堤で砕けた波が襲いかかる。
雨が強く、当然誰もいない海浜公園を真広と真理恵はびしょ濡れになって走った。
さっき言ってた女の子が本当に小白かは分からない。だがもしそうなら。その可能性が一%でもあるのなら、それが二人を走らせる。
娘のためなら自分がどうなってもいい。心の底からそう思えた時、二人は親子がなんなのかを本当の意味で知れた気がした。
二人が少しも見落とすまいと辺りを見渡しながら走っていると目の前にいくつかの遊具が現れた。
一瞬、雨宿りができそうなところはなさそうだと真広は思ったが、奥にある大きな滑り台が目に付いた。傾斜があって長いのでその下は雨風が届かないかもしれない。
もしかしたらと思った瞬間、真広は息を切らし、ぜえぜえと喉を痛めながら近づく。
祈りながら滑り台の裏側を覗くと、そこには捨てねこのように小さく丸まる小白がいた。
「いたんですか!?」
立ち止まる真広の後ろから真理恵が遅れてついて来た。真理恵は兄の返事を待たず、自分で滑り台の裏を確認し、安堵すると涙を流しながら小白を抱きしめた。
「ああ、よかった……。本当によかった……」
真理恵はその場でへたり込む。その胸の中で小白は目を左右に動かした。
「…………その……………………」
小白はなにか言いそうになったが、口をつぐんだ。
そしてそれは真広も同じだった。大きく安堵の息をつく。そして静かに言った。
「……とにかく、車に戻ろう」
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