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〇22 とぎれとぎれの血痕
しおりを挟む私は取調室で、とある男性、いや殺人事件の犯人と向かい合っていた。
その犯人は、一向に自分の罪を認めようとしなかった。
取り調べをしようとしても、口を閉ざしたまま。
足をくんで、不遜な態度をくずさない。
それだけでなく、なぜ自分がこんな事をされなければならないのだという顔をしている。
現場の証拠から、その男性が犯人だと言う事はもう分かりきっている事なのに。
今さら無言を貫いて、どうするつもりなのだろう。
「被害者は最後まで生きようとしていたんですよ」
私は机を叩いた。
無意識に、そうしていた。
しかも、相手によく聞こえるようにと身をのりだしていた。
不用意に相手に近づくのは危ないというのは頭から抜け出ていた。
ある事件の通報をうけて、現場にのりこんだ。
そこでみた光景が頭をよぎった。
あの被害者は生きようとしていた。
生きるために、懸命にあがいていた。
「聞いてるんですか!」
近くにいた先輩が制止の声を放つけれど、私の耳には入ってこなかった。
「血痕がとぎれとぎれだったんです。傷口を手でおさえていたから、血液の出血をすくなくしようとした。途中で自分の服をやぶいて止血もしようとしていた。生きようとしていたんですよ。精一杯。だってその人にはまだやりたい事がたくさんあったんだから」
私は精いっぱい被害者の無念を訴える。
けれど相手の心には響いていないようだった。
「子供さんの誕生日パーティーに行く約束を叶えようと思って、がんばって外に出て人を呼ぼうとしたんです。電話のコードが切られていた。スマホのは遠くにあったから。貴方はそんな生きる事に一生懸命な人の命を奪ったんです! なんとも思わないんですかっ!」
私は未熟だと思う。
こうして、理不尽な殺され方をした人がいたら、憤らずにはいられない。
警察官はもっと冷静でいなければならないというのに。
頭に血が上った私は取調室から退室させられた。
後の取り調べは他の警察官が行う様だ。
落ち込む私の元に先輩がやってきた。
「すみません迷惑かけちゃって」
「まったくだ。もう少し冷静にならないといけないな」
「それは分かっていますが」
頭では分かっているのに、という奴だ。
どうしても事件の現場を見たり、それに関わる人物をみたりすると自制が効かなくなってしまう。
私は警察官に向いていないのでは、と思った。
「俺もそんな事があったな」
「えっ、先輩もですか?」
引き続いて落ち込んでいたら、意外な言葉を聞いてしまった。
この先輩はいつでも冷静で、頼もしくて、とてもすごい人なのに。
そんな人でも私みたいなことがあったというのだ。
「連続殺人犯が、年端も行かない子供に襲い掛かっているのをみて、きれちまったんだよ。それでつい過剰にタコ殴りに。病院で全治一か月だった」
「私よりすごい事やってますね」
その話の内容が予想以上の内容だったので、二倍びっくり。
よくクビにならなかったものだと思う。
「まあ、その時犯人は凶器を持っていたし、俺に振りかぶろうとしていたってのもある、あと助けた子が俺に有利になるような事を頑張って証言してくれたからな」
今は凄い先輩も昔はそんな所があったと知って少しほっとしてしまった。
「克服できますかね、私のこの癖」
「できるさ、俺ができたんだから」
先輩にそう言われて、なんだか少しだけ気持ちが楽になった気がする。
私は伸びをして、この後の事を考えた。
「はぁ、上司からまたお小言もらっちゃうな」
「それくらい喜んで受けろよ、期待してくれてる証拠だ」
「そうでしょうかね」
どれくらいで成長できるか分からないけれど、いつかこの先輩みたいに誰かから頼もしくてかっこよくて素敵な警察官だと、そう思われるような存在になれたらいいなと思った。
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