ザ・ライト文芸(女性向け) 短編まとめ場所

透けてるブランディシュカ

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〇49 ハッピーバースデー 押し付け

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――「ハッピーバースデー」って言葉すごい押し付けって感じがするんですよね。

 うちの高校の後輩がそんな事を言ってきた。

 文芸部の部室で、地味な執筆作業をこなしている最中だ。

 ふとした瞬間に、その後輩が誕生日について話してきたのだ。

 私は「いきなりなんだ?」と言葉を返す。

「いえ、ただの雑談なんですけど、ハッピーバースデーって言葉がしゃくにさわるな、と」
「ただの雑談で誕生日を祝う言葉に負の感情をぶつける人間が、そうそういるだろうか」
「こまかい事は気にしないでください」

 後輩は、ちっとも進んでいない原稿を見て、ため息。

 うちの部活にはノルマがある。月に一度、顧問の教師がお題を出すので、それに一つ作品を執筆しなければならない。

 そけれど、いつもすらすら完成させるはずの後輩が珍しく詰まっていた。

「君は、誕生日に何か恨みでもあるのか?」
「別にないですよ、そんなの」

 嘘だな。

 と、直感的に思った。

 クールを気取っているこの後輩は、自分が思っているよりも感情が表に出やすいタイプだった。

 今もイライラしているのを示すように、机の表面に指をとんとんしている。

「恨みがあるというわけじゃなく……」
「要するに、なんでハッピーとバースデーが当たり前の様にセットで扱われているのが、疑問でたまらないと、君はそう言いたいのか?」
「まあ、そんなところです」

 新たな命が生まれてくる瞬間は喜ばしいもの。

 多くの人がそう思うだろう。

 しかし、世界はそんなに単純ではない。そう思わない人間だっているのだろう。

 望まれない命が、生まれた瞬間にどんな扱いを受けるか。

 それは彼女の背中にあるあざに関係しているかもしれないし、そうでないかもしれない。

 プールにさそった時、着替える際に一瞬だけ見たそれを脳裏から払う。

「ならば君は私の誕生日は祝ってくれないつもりか?」
「そんな事はないです。先輩の誕生日なら祝うに決まってるじゃないですか、いつもお世話になっているのだから」
「アンハッピーなバースデーなんて、わざわざ覚える必要のない言葉だ。私は君の誕生日を祝いたいし、祝わせてほしい」

 だから、と私は用意していた新刊をさしだす。

 後輩が欲しがっていたものだ。

 今日がその日だから。

「ハッピーバースデー。これはバースデープレゼントだ。ぜひ私の時も同じように祝ってくれ」
「そういう言い方卑怯ですよ、先輩」

 ほんの少し頬をふくらませた後輩から視線を離す。

 自分の誕生日を祝う気になってくれるなら、自分を祝えと言うくらい恥ずかしい事でもなんでもない。

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