古い方・恋愛ジャンル(ほぼ女性向け) 短編まとめ場所

透けてるブランディシュカ

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〇07 他の誰でもない君の為に

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 それは一人の少年と機械人形の話。

 ルイという名前のある彼が、機械人形と心を通わせる話。



 ふと気が付いた時、ルイは異世界にいた。
 ルイの年は十代後半、普通を絵にかいたような少年だ。

 見た目に取り立てて奇抜な点はない。
 一目見て印象に残るチャームポイントもなかった。

「ここは、どこだ?」

 ルイは戸惑いの声を上げて周囲を観察した。
 ルイが立つ場所は、見知らぬ町の中だった。
 彼の記憶の中にはない場所。

 そこに、通りかかった少女が声をかけた。

「何かお困りですか?」

 ルイと同じくらいの歳の少女だ。
 整った顔立ちの、間違いなく美人と言える少女。

「ええと、とりあえず。ここがどこなのか教えてくれると助かるかな」

 その少女は魂のない人形だった。
 そんな事を知らないルイは、人間の少女を相手にするように話しかける。

 人形の少女はアールと名乗る。
 アールは、困っていたルイに手助け。
 そして、自らが経営を手伝っている宿屋へと彼を案内した。





 それから数週間が経過した。
 ルイは、アールに紹介された宿屋で世話になりながら働いていた。

 それは住む場所を提供してもらった恩と、朝昼晩の三食を提供してもらっている恩を返す為だった。

 人当たりの良いルイは、すぐにアールと仲良くなった。

「今度の定期点検は僕もついていくよ」

 その頃になると、アールが人形だと言う事を、ルイはすでに知っていた。

 しかし、ルイは出会った頃の様に、変わらず接し続ける。
 つまり、人間にするようにアールに接し続けていた。
 だが他の者達は違う。
 アールが人間でないと知るや否や、態度を変えていた。

「どうして、貴方の態度は変わらないのですか?」

 なのでアールは不思議に思い、その理由をルイへ尋ねた。

「それは、どうしてだろうね。僕にも分からないんだよ」

 ルイは早口で答えた。その場を目撃していた他の人からは、それは何かを誤魔化すように見えたが、アールは言葉通りに受け取った。

「なるほど、不調なんですね」
「そういうわけじゃないんだけどなあ」

 そしてアールは、ルイのその症状は原因不明の何かしらの不調なのだと判断した。

 その後、ルイとアールは業務が終わった後に外出する。
 外に出て、町を歩き、目的地へ向かった。

 それは、定期点検をする為に。
 人形の医者に、だった。

 診察が終わった後に告げられたのは、部分劣化という症状だった。

 それを聞いたルイは困った。

 働いている宿の稼ぎは良くないので、新しい部品を買えなかったからだった。

「でも、このままだと君が壊れてしまう。そんな事になったら僕は悲しいよ」
「私が壊れたら、別の人形を買えばいいのでは?」

 アールの言葉を聞いたルイは怒った。
 医者の元から宿に帰るまでの間、帰り道ではルイは一言も言葉を発しなかった。




 数日後。
 ルイは宿を出て、住んでいた町を離れた。

 それは、アールの部品を買う為の資金を、稼ぐ為だった。

 深い森の中に入って行き、ルイは高価な薬草を探す。
 時間をかけてあちこちを探し回り、半日ほど過ぎた頃、目当ての薬草を見つけた。

「これで、アールが壊れずにすむんだ」

 喜び勇む様な足取りでルイは宿へと急ぐ。
 しかし、道中で不注意の為に見落としていた崖で落下してしまった。

 けれど、運が良かったのか、ルイは死ななかった。
 クッションとなる茂みに落ちたからだ。

 ルイが目を覚ましたのは、夜だった。
 彼は驚いて周囲を見回したが、暗くて何も見えなかった。

「せめて薬草だけでも……」

 そこに、アールの声が響く。
 ルイを呼ぶ声が何度も森の中に響いた。

 アールはルイを探しに来ていたのだった。
 ルイを見つけたアールは、彼の様子をみて驚いた顔になった。

「どうしてこんな危険な事を。貴方に何かあったらと思うと、私は気が気ではありませんでした」

 怒りを表明するアールにルイはにっこりと笑いかけた。

「じゃあ僕も同じだよ。アールに何かあったらと思うと気が気じゃない」
「貴方に代わりはいないんですから」
「君にも代わりなんていないよ。さあ、一緒に帰ろう」

 アールは、個体の違いについて学んだ。

 同じ姿形、同じ能力を持っていても、アールは他の者達とは違うのだと、その時、学んだのだった。

 その後は、二人で支え合って町まで帰った。
 宿で二人は、一緒に主人に怒られる事になった。





 それからもルイとアールは二人で宿で働き続けた。
 新しい部品を取り換え、休むことなく働き続けたアールは、町で一番の働き者になった。

 ルイとアールはずっと仲良く二人で一緒に過ごした。



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