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透けてるブランディシュカ

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〇06 拷問姫と裏切れない騎士 02.06

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 赤が飛び散る。
 暗く冷たい世界に、鮮やかなその色は孤独だった。

 誰とも想いを共有できず。
 誰とも意思をかわせない。

 



 暗い地下室に監禁されてから、何日目かのその日。
 その騎士カインズ・シグマは、全身傷だらけだった。

 騎士を監禁したのは、騎士の主。

 一国の姫だった。

 名前をアーデルフェルト・ルゥ・アデナス。

 彼女は正気を失った人間。己の部下やメイドを何人も地下室に送り込み拷問にかける拷問姫であった。

「アーデルフェルト様」
「カインズ、カインズ。ああ、カインズ。私の役に立ちなさいな。貴方は私の物。私の騎士なのですから」

 可哀想な姫は数か月前の、反乱によって心が狂気に蝕まれてしまった。

 敵対する機会帝国の侵略を受けた、アーデルフェルトの精霊大国。
 嵐の様な勢いで進軍してきた敵軍は、災害のような不幸を散りばめながら精霊大国を蹂躙し、国の中枢部である翡翠宮に迫った。

 間一髪のところで、アーデルフェルトと騎士カインズ、その従者は逃げ出せたものの、王や妃兄弟たちは見せしめを受けて処刑されてしまったのだ。

「カインズ、カインズ。ずっと私の傍にいてね」
「はい、アーデルフェルト様のお傍に」
「カインズ、カインズ」

 愛おしそうに、愛情をこめてその名前を呼ばれる。

 数が月前であれば、一言声をかけられるだけでも嬉しく思った。名前を呼ばれようものなら永遠の忠誠を、胸の内で再び誓う程に高揚した美しい声音だと言うのに。「貴方はなんて」可哀想なお方なのだろうか。

 けれど、騎士と姫は一心同体。
 その任を受けた瞬間から、主の剣となり盾となる事を運命づけられた関係だ。
 たとえ主が主と言えないほどに心乱れていても、その傍を離れる事はできないのだ。

「アーデルフェルト様、こんな私が貴方のお傍にいてもいいのでしょうか?」
「カインズ、カインズ」

 支えになる事が出来ればと、時々思う。
 騎士としてではなく、ただ一人の男として、一国の姫という立場から想い人を解放できたらと。

 だがそれはおそらく必要されてはいないものだ。

 主が求めているのは、忠実に己を守り役目に則って傍にいてくれる騎士なのだから。

「大丈夫です。アーデルフェルト様。私はどこへも行きません。ずっと、永遠に貴方の傍におりますよ」
「ああ、カインズ、カインズ」

 この言葉は、想いはどれほど届いているか分からない。

 けれど。

 この身を傷つけられたとしても、貴方の心を分かち合う為に甘んじて痛みを受けよう。
 敬愛する主の心が狂気に堕ちていったとしても、共にその煉獄へと甘んじて向かおう。

 それがただ一人の男としてはできない事で、騎士としてのできる唯一の役目なのだから。





 孤独で鮮やかな赤。

 輝く色。

 けれど、暗く淀んでいて冷たい。

 その部屋には、ひどく似合いの。




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