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透けてるブランディシュカ

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〇15 婚約者はいつも私の為だと言っている。けれどそれ、自分の為ですよね?

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 私の婚約者は過保護だと思っていた。

 どんな時でも私と一緒にいたがるし、色々なものを確認したがる。

 かつての私は、その行為を彼が「過保護」だからと思っていた。

 好意があったがゆえの行動だと思っていたのだ。

 けれど、違った。

 それは私のための行為ではなく、自分の為の行為だったのだ。






 婚約者ができた。

 器用でも美人でもない私に婚約者ができた。

 相手はいつも完璧で、多くの人から称賛される男性だ。

 頭が良くて聡明。

 これ以上ないくらい、良い相手だろう。

 私は、婚約相手が木俣トキに、これで両親に良い報告ができると思った。

 二人とも体が弱い。

 病弱な両親は、色々なお医者様に見てもらっているけれど長くはないらしい。

 だから私が早く、しっかりした婚約者の元に嫁げるようにしたかった。

 だから、おれこれお見合いの場を作っていたのだ。

 その努力が実ってよかった。

 婚約の事で両親は、自分の事の様に喜んでいた。
 自分達が亡くなった後、最愛の娘を一人にしなくてすむ、と。

「おめでとうございます、お嬢様」
「おめでとうございます。こんなに喜ばしい事はございません。じいやは感激です」

 貴族である自分達に仕えてくれる人達もそんな事情を知っていたから、皆でそろって祝福してくれた。

「ありがとう。私が他の家にいっても、お父様とお母様をお願いね」

 だから、それからの私は、両親を安心させられた事を喜びながら、他の家に嫁ぐ準備をしていた。

 他の家に入るとマナーの違いやしきたりの違いで困る事があるそうだ。

 だから、しっかり相手の家にも、どんな違いがあるのか確認をとった。

 住む地域も違うから、向こうに風習や慣習があるのかも、しっかり調べたのだ。






 そうやって嫁いだ家では、初めは丁重にもてなされた。

 よく家に来てくれたね、と婚約者に歓迎されていた。

 しかし、結婚式を挙げてからは次第に行動を監視されるようになった。

 どこかに出掛ける時は必ず、夫か、夫の使用人がついてまわるようになった。

 護衛として誰かが付く事は珍しくはないけれど、そこに夫までついてくるなんて聞いたことがなかった。

 部屋から出る時ですらそうだ。

 お風呂に入る時も、どこに行くのか聞かれた。

 一人になれる時間は、自分に与えられた部屋の中でのみだった。

 私が文句を言うたびに彼は「お前の為だ」「お前がよその土地で恥をかかないようにするためだ」と言っていた。

 最初は私もその言葉を信じて、親切にしてくれているのだと思っていた。

 けれど日常の中で何かを間違えるたびに、勘違いするたびに鋭い叱責がとんできたため、違うのだと気が付いた。

 私のためなどではない。

 自分が恥をかかないために、私を見張っているのだと。

 彼はきっと他人から迷惑を被るのが嫌な人なのだろう。

 他の人を足手まといだと考えるような人なのだ。

 自分は完璧で間違えない。

 しかし、他の人はへたをするから、信用できない。

 そんな風に。







 その日常では、私宛の手紙や贈り物もすべてチェックされていた。

 目の届かない所でした会話も一言一句思い出して報告しろとまで、言われた。

 私は次第に心を病んでしまった。

 そんな状態がどこからか漏れたのだろう。

 両親が娘を返してくれと言ったらしい。

 けれど、夫となった彼は何もしなかった。

 両親が訪ねてきても、何も話さなかった。

 それどころか、門前払い。

 屋敷の中にすらいれなかった。

 やがて両親は、私の顔を見る事も、私と口を聞く事もなくこの世から旅立ってしまった。

 私はその時になって、初めて自分の愚かさに気が付いた。

 なんて事をしてしまったのだろう、と。

 だから復讐をして、夫の本性を皆にさらしてやろうと思ったのだ。

 本当に私の為を思っているなら、彼は、夫はきっと妻を助けるものだ。






 私は両親の葬式の時のわずかな時間だけ自由に行動できることになった。

 外聞を気にする夫に、人の目があるところで、わずかな時間でも良いから一人にさせてほしいと訴えたからだ。

「君の事が心配だから一人にはさせられない」なんていう夫は、私の心配などこれっぽっちもしてない。

 おそらく私が夫の不利になるような事をしないか、心配で仕方がなかったのだろう。

 そんな夫に「今日だけから」と言って自由時間をもぎとるのは、かなり苦労した。

 私は苦労して得た、その自由時間で復讐の準備を整えた。

 町の中の一番目立つ塔に行って、道行く人達に訴える。

 大声でこれまでの彼の所業を告白した。

 そして、人目を十分に集めた際に、その場にやってきた夫に告げたのだ。

「私のためを思っているなら、この手をとってくれますよね」と。

 今にも飛び降りそうな体勢で。

 本当に私の為を思って今まで行動していたのなら、ためらいなくこの手が盗とるはずだ。

 自分も一緒に落ちてしまうかも、など考えないはず。

 けれど、彼はそんな人ではなかった。

 最後まで私の手をとってはくれなかった。

 救いなんてどこにもなかった。

 悲しませたまま両親を死なせてしまった私は、この世界で一人ぼっちになったような気分になった。

 もうこれで、夫への断罪は終わらせた。

 なら、あとは復讐を完遂するまでだ。

 私は、両親と同じ場所に行ける事を願って、高い塔から飛び降りた。






 両親が微笑む優しいあの世の夢を見ながら、私はかつて両親と交わした会話を思い出していた。

『私達は、きっと長くない。あなたより早く死んでしまうだろうけれど、どうかそんな事は気にせずに幸せになってね』
『そうだ。愛する娘の幸せが、俺達にとって一番なんだからな』



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