16 / 150
〇16 頭が悪いからと言われて一方的に婚約破棄されました
しおりを挟む私フレンダは、婚約していた男性から、一方的な婚約破棄をくらった。
婚約を白紙に戻す作業は、こちらとあちらの親同士で進めていたらしい。
婚約者のドラインは手紙で「婚約破棄する事にした」の一言だけ述べなかった。
当然それでは納得できなかったので、私はドラインの屋敷へ乗り込んでいった。
「ドライン様! どうして婚約破棄を! それも一方的に! ひどいですわ!」
「正当な破棄だ。フレンダ。お前は何被害者ぶっているんだ!」
しかし、私の文句を聞いたドラインは、「何をバカバカしい事を」という態度をくずさない。
やむにやまれぬ事情で、好きな相手を諦める事ができないとか、家の事情でやむなく、とかいう理由があったなら、私もそれなりの対応を考えたのに。
「お前があまりにも無能だから、婚約破棄した。それだけの事だろ」
「無能だなんてひどい!」
涙がこぼれてきた。
私は今日までドライン様の婚約者として、ふさわしいように努力をかなさねてきたというのに。
確かに、なかなか結果が実を結ばなかったけれど、そんな言い方はあんまりだ。
「勉強はすすまない。礼儀作法もなかなか身につかない。そんな馬鹿な人間、傍に置いときたいか? もっとましな奴と婚約するんだった」
「結果が重要なのは分かります。でも、私だって、もっと努力をつめばっ」
「いや、無理だ。馬鹿は一生馬鹿のままなんだ。その余計な努力をしている時間で、他の人間はもっと様々な事ができるんだぞ。だから俺はお前を切り捨てる事にした」
私は床に崩れ落ちる。
努力しても無駄。
それが事実だとしたら、私はなんのためにこれまで努力してきたというのだろう。
ドライン様に「邪魔だ。帰れ」と言われ、私は屋敷から追い出された。
ここまで送ってくれた馬車の男性に「今日は歩いて帰ります」と言って、とぼとぼと道をゆく。
危ないけれど、色々な事がどうでも良かったのだ。
そのうち、ふらふら歩いていたからだろうか。
道端の小石に躓いて転んでしまった。
しかもその拍子に、怪我もしてしまう。
その痛みのせいで先ほどの事を思い出してしまって、また涙がでてくる。
しかし「あの、大丈夫ですか?」そこに声をかけてくれる男性がいた。
平民の男性だった。
偶然通りかかったのだろう。
彼は私が怪我しているのをみて、鮮やかな手並みで手当てをしてくれた。
「はい、これで大丈夫です。こういうのは慣れてますから」
「ありがとうございます」
彼はこちらの顔色が良くない事を見て、何かあったのだと悟ったのだろう。
「これも何かの縁でしょう。辛い事があったなら、吐き出してみてはどうですか。愚痴を聞くくらいしかできませんが」
その優しが嬉しくて、私は何も考えずに今日あった事を語りだしていた。
道端で話す事、十数分。
全てを聞き終えた平民の男性は「なんてひどい奴なんだ」と怒り出した。
そして、「あなたは悪くないですよ」と励ましくれる。
その優しさが嬉しかった。
名前をなのって、別れようとしたけれど、彼が思い出したかのように言ってくる。
「実は、フレンダさんの屋敷で新しい使用人を募集していると聞いた事があるんです、こんなに可愛らしいお嬢様がいるなら、受けてみてもいいかななんて」
「えっ」
言い出した彼は、顔を真っ赤にして「わっ、忘れてください!」と訂正。
その様がおかしくて、つい笑ってしまった。
「ありがとう。貴方のおかげで元気がでましたわ。何か働くなら、そのお仕事が成功すると良いですね」
「はっ、はい!」
彼とは、今度こそ別れて歩き出す。
暖かな時間をくれてありがとう、と思いながら。
彼が私の屋敷に働きにくるかは分からないけれど、もし来たならばその時は、うんと歓迎してあげようと思った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる