古い方・恋愛ジャンル(ほぼ女性向け) 短編まとめ場所

透けてるブランディシュカ

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〇26 カロル・ディア

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 養女であるディアナ・アークレイン。
 彼女は、自らをひきとってくれた名家に恩がある。
 だから、「常に優秀であれ」という望み応えてきた。

 代々優れた剣士を生み、国に貢献してきたアークレイン家。

 誉れある家が彼女に望む基準は、はるかに高い。

 しかしディアナには才能があった。そのため、彼女は勉強も運動も常に一番の成績をたたき出す事ができた。

 けれど、才女である事とひきかえに青春らしい思い出を捨てなければならなかった。

 優等生でいなければならない。そんな日々に嫌気がさしていたディアナは、ある夜にカロという男性に出会う。
 屋敷の庭に迷い込んできた赤毛の少年カロル。
 銃を手にした彼は、「悪かったな、あんたに迷惑はかけない」といって庭から出ていこうとするが。

 彼は、追手に追われているらしかった。
 そんな彼を助ける為にディアナは、庭に現れた怪しい集団たちに向けて剣を抜いた。

「おいおい、名家のお嬢様が剣なんて扱えるのか?」
「馬鹿にしないで。剣技の成績はいつも一番なのよ」

 それが、彼女の運命を変える出会いになろうとは、その時はまだ思いもしていなかった。




 ディアナは、怪我をしたカロルをしばらく屋敷で世話をすることにした。

 家族には内緒でだ。

 品正方向の優等生で知られているディアナにもルールを破る冒険心はあった。

「物好きなお嬢様な事だな」
「お世話されてる側が憎まれ口をたたかない。追い出されたいのかしら?」
「へいへい。悪かったよ。お世話されますっと。ついでに怪我した右腕が動かし辛いから、あーんでもしてくれるか?」
「左腕に仕事させない」

 軽口をたたくカロルはいい加減な性格で、何かにつけてバカバカしい会話に発展してしまう。

 けれど、ディアナにとってはそれが新鮮だった。

 そんな彼女は、学校では相変わらず優等生でいるが、周りの人間はそんな彼女の変化に気が付いていた。

「最近ディアナさん、よく笑うようになったわね」
「何か良い事でもあったのかしら」

 カロルのいる生活は退屈しない。

 ならば。

 ――――もしこの学校にカロルがいたら、楽しいだろうか?

 息が詰まりそうな学校生活の合間にディアナはそう考える。

 そんな彼女の思考を読み取ったのか、それともただ暇をもてあましていたのか。

「よっ、来てやったぜ」
「貴方、その制服どうしたのよ!」
「殴って奪った」

 当人が学校に紛れ込んで生徒のふりをした出来事は、彼女の肝を冷やすのに十分貢献した。

 けれど、彼女はそんな日々を不思議と楽しく思っていた。





 ディアナが通っているのは騎士学校だ。
 そのため、騎士になるための試練がある。

 大事な試験を控えたディアナは、その合格の為にカロルに稽古のお願いをした。

「その銃の腕前、一体どうやって培ったの?」
「まあ、色々あってな」

 アークレインの家を離れて、秘密の特訓場で戦いの指南を受けるディアナはカロルの腕前に舌を巻いた。
 名家の娘として英才教育を受けたディアナより、はるかに実践の立ち回りを分かっていたからだ。

 特訓を繰り返すディアナ達は、自然に町をめぐる時間も多くなった。

 二人は、特訓前や特訓後に店によったり、散歩をしたりする。

「あむ、はむ。あむあむ」
「女なのに、肉まるごと食うのが好きとか」
「なに、何か文句ある? やる事いっぱいあって疲れるのよ」
「まあ、その気持ちは分からんでもない。体動かした後、食いたくなるもんな」

「てわけで、この先に綺麗な花園があるんだ」
「へぇ、そうなの」
「まぁ、墓地が近いけどな」
「それってどうなの? 誰も人寄らないんじゃないの?」
「だから、いいんじゃねーか。穴場で」
「そういうものかしら?」

「てか、何でお前の住んでる町をよそ者の俺が案内してるんだ?」
「そんな事、私に言われても」
「お前、自分が住んでる町知らないの?」
「悪い? 必要なところ以外足を運んでないのよ」
 
 それらは、他愛もない日々ばかりだ。
 けれど、町の中に凶悪は犯罪者が潜伏している、国の極秘部隊がその人物を追っている。そんな話を聞いた日から何かが崩れていくのだった。

 家に帰ったディアナの元に、極秘部隊の人間がやってきた。

 そして、彼等はこの庭に犯罪者が逃げ込んだことを確認したという。

 ディアナはシラを切る他なかった。

 極秘部隊の人間は、ディアナを疑っている。
 数名の人間がディアナと交戦したと、証言したからだ。

 カロルを保護した時の事だろうと、ディアナは検討を付ける。

「あの時は、私が助けた人がそんな危ない人だとは思わなかったの。その人はもう逃げてどこかに行ってしまったわ」
「そうですか。見かけた時は必ず我等に連絡を。有力な証言を持ち寄られた際には、優秀な人材がいると国に一言声をかけておきましょう」

 それは、魅力的な提案だった。
 アークレイン家の娘として、とびつかないわけにはいかない提案。

 けれど、ディアナは真実を確かめたかった。




 カロルとの特訓の成果が出た。
 騎士の試験に合格したディアナだが、気分は浮かないままだった。

 そんな中、合格者に向けたパーティーが開かれた。
 出席するディアナの元に駆け付けたのは、どこからか忍び込んだカロル。

 彼は、ディアナに祝いの言葉を送る。
 そんなカロルの言葉は心からのもののように聞こえた。

 ディアナは、彼の素性についての話をしようかしまいか迷っていた。

 何かの間違いであってほしい。
 しかし、カロルが本当に犯罪者だったら?

「どうした? 浮かない顔だな。何か悩みでもあるのか?」
「何でもないわ」

 ディアナは、結局は何も言い出せないまま別れてしまう。





 そんな疑惑が残るカロルとの再会は早かった。

 ディアナは授業の中で、本職の騎士の任務に同行して、職場体験する事になった。

 そんな彼女は能力の高さを見込まれて、騎士と共にとある犯罪者のアジトへ強襲をかける事になるのだが。

 そこで出会ったのはカロルだった。

 攫った子供を売りさばく人身売買の組織に、彼はいた。

 恐ろしい想像が、現実になってしまった。

「良い人だと思っていたのに!」
「残念だな。お前とはもうちょっと遊んでたかった」

 互いの命を賭けて戦う、ディアナ達。

 しかし、その戦いの最中、カロルは他の犯罪者に切り捨てられて生き埋めにされてしまう。

 ディアナもその巻き添えを食らってしまった。

 けれど奇跡的にも、偶然にできたスペースで彼らは生きていた。

 だが、そんな奇跡はつかのまのもの。

 崩落の予兆を見て、ディアナ達はここで死ぬだろうと予感していた。

「俺だって好きでこんな事してるわけじゃねぇよ」

 そこでディアナは、カロルから打ち明けられた本心を聞く。

 病におかされた妹の薬代をかせぐために、仕方なく犯罪者として活動していたのだという。

「何があっても、悪い事をしたのはごまかせないわ」
「だろうな。だから俺は助けてくれなんて言えない。けれど、ここに捕まってる子供達はそうじゃないだろ」
「ええ、そうね」

 ただ巻き込まれただけの子供達が、理不尽な状況で命を落としていいはずがない。

 ディアナ達は最後の力を振り絞って子供たちを助ける事にした。

 自分達がいる空間。そこを支えている瓦礫を一つずつ移動させていって、子供達がいるスペースが潰れないようにしたのだ。

 最後に天井が揺らぐのを見てディアナは愚痴をこぼす。

「夢も叶えないで、恩も返せないで、犯罪者なんかと運命を共にする事になるなんてね」
「そうつれない事いうなよ。美人のお嬢様と人生の最後の瞬間に一緒にいられるのは、俺としてはけっこうな贅沢だし」
「そういう事ばっかり。いつもそんな馬鹿みたいな事いってると、好きな人ができた時に誤解されるわよ」
「確かに誤解されてるしな」

 何一つ努力の結果が報われる事のなかった少女。

 ディアナ・アークレインの生涯はここで終わる。

 彼女の家は、また新たな養子を選びその人物に一番を期待する事になる。

 ディアナの兄にあたるその人物は、妹がいた事など知らずに騎士になる。

 アークレインの家は、その兄のおかげで家名を強くしていった。


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