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透けてるブランディシュカ

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〇27 わけも分からず乙女ゲームのヒロインに振り回される悪役令嬢の話。

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 私の名前は、ローザ・ローラ・ローレル。

 私には、婚約者がいるけれど、どうやら浮気されているらしい。

「ご主人様、婚約者のローザさまがやってきましたよ」
「なんだ、ローザか。空気の読めないやつだな。今いいところだったのに」

 彼は、自分が雇ったメイドと毎日楽しく過ごしているのだとか。

 新鮮な毎日を提供してくれるからってメイドに目移りした?

 後ろ盾も何もない庶民のそのメイドは、騒がしいだけの人間なのに。

 口がまわるようだし、人望もあるようだけれど、どこがいいのかさっぱり分からない。

 婚約者の屋敷でお世話になっているそのメイドは、他の使用人にも大層人気があるようで。

「私の婚約者に色目を使わないでくださらない」
「そんなつもりはっ、ローザ様ひどいです」

 私がその子に何か言うと、すぐ誰かがかばいに飛んでくるし、メイドが困った顔して泣きそうな様子をみせれば、同僚達が慰める。

 私はそのメイドが嫌いだ。

 ドジだから庇護欲をそそる?
 一生懸命だから、応援してやりたくなる?

 一体なにをねぼけたことを言っているの?

 この世界では、努力より結果が全て。
 後ろ盾もない。権力もない。富もない。
 何の利益も、もたらさない庶民の少女に入れ込んで、一体何になるというの?

 私達のような貴族令嬢は、結果を出すために必死に勉強しているというのに。

 どうしてあんなぽっと出のメイドに婚約者をとられなければならないのかしら。

 あのメイドはなぜか勘がいいらしく、ことごとく人の困りごとを解決してはいるようだけれど、そんなのただ運がいいだけなのに。





「あうっ、駄目ですよ。ご主人さま」
「ふっ、そういうお前は物欲しそうな顔をしているじゃないか」

 たまに訪問してみれば、婚約者はあのメイドにばかりかまっている。

 私というのもがありながらおかまいなし。

 婚約者の心はいつも私には向いていなくて、その視線を追ってみれば、いつも忌々しいメイドが存在している。

 ある日、婚約者が婚約指輪を作っているようだと聞いて、少しは目が覚めたのかと思ったけれど。

 それは、私のためのものではなかった。

 メイドのだった。

 私達の関係は、所詮親が決めた婚約関係。

 始めは愛などなかった。

 けれど、良い妻であろうと必死に礼儀作法を覚え、相手にふさわしい教養を身につけようと努力はしてきたのに。

 それに、共に過ごす時間からほんの少しの愛情を持ち始めていたのに。そんなところで、ぽっと出のメイドにかっさらわれるなんて。

「屋敷にはもう来るな。これ以上俺達の周りをうろつくなと言っている。あいつが怯えるだろう」
「そんなっ。私というのもがありながら、あのどこの馬の骨とも知れない女を選ぶというんですの?」
「ああそうだ。他の人間を馬の骨だなどと呼ぶ女に興味が持てないもんでね」

 私にそんな乱暴な言葉を吐かせたのは、貴方だ。

 一緒にいても私の事を一切見つめてくれない貴方が原因なのだ。

 それなのに、私には何も謝る事なく、婚約を破棄するとまで言って来た。

 もう私は、嫉妬でおかしくなりそうだった。

 だから、全てを取り戻すために行動に出る事にした。






 私は、野盗をお金で雇って、メイドを攫わせ婚約者から引き離した。

 そして、散々脅しをかけたあと、「私の婚約者に近寄らないで」と言って野に放った。

 けれど、メイドはまだ婚約者から離れなかった。

 事件の事や私に言われた事は言わずに、何もなかったかのように平気な顔をして日常を送っている。

 だったら、と。今度は多額のお金や宝石で釣ってみた。

 庶民なら一緒遊んで暮らせるほどの金品だ。

 これがほしければ婚約者の前から姿を消せと言ったのに、メイドは離れなかった。

 しまいには、自分で刃物を持って脅すことまでした。

 けれど、メイドは何をしても逃げ出さなかった。

 異常だ。
 普通の人間の神経ではないと思った。

 そうこうしているうちに、私の悪行が婚約者にばれてしまったらしい。

 招待状で騙してあの忌々しいメイドを沈没船に無理やり乗せて、亡き者にしようとしたけれどその行為がばれて、犯罪者として牢に繋がれる事になってしまった。

 私の人生、どうしてここまでおかしくなってしまったのか分からない。

 ぽっと出の人物に人生をだめにされてしまうなんて。

 こんな事になるなら、祝福すればよかったというのだろうか。

 何の結果も出せない、庇護されるだけのメイドが、婚約者とくっつくのを?

 理不尽な状況におかしくなりそうだった私は、看守と取引して脱獄。

 あの憎きメイドの元へ急いだ。

 しかし、メイドはまるで私が来ることを分かっていたかのようだった。

「ふふっ、今までお疲れさまでした。悪役令嬢さん。このイベントをこなせば、彼はようやく私のものになるわ」

 ドジでそそっかしい言動を捨てたその様子は、まるで別人のようだった。

 私はようやく自分が今まで、何かとてつもなく恐ろしい物を相手にしていたのだと気が付いた。

「安心して、彼は私が主人公になりきってちゃんと幸せにしてあげるから。きゃぁぁぁぁ! 誰か助けて! ナイフを持った女の人が部屋にっ!」

 冷静な口調でその言葉を述べた相手は、一転して恐怖にひきつった声で悲鳴をあげる。

 そのあまりの変貌ぶりにあっけを取られていた私は、かけつけた者達に取り押さえられてしまった。

「だっ、騙されてはいけませんっ! その女は、何か良からぬ存在。悪魔のようなものですわ!」

 私は必死にそう主張するけれど、彼等が耳を貸す事はなかった。

 悪魔のようなメイドにすがりつかれている元婚約者は、私を冷たい目で見てきた。

「人を悪魔呼ばわりするとは、堕ちるところまで堕ちたようだな。一生牢屋の中で閉じ込められて色。お前の顔などもう二度と見たくない」
「そっ、そんなっ。いやっ。どうしてこんなことにっ!」

 元婚約者の背中にかばわれながら、にやりと笑うメイド。

 その顔を見つめながら、私は再び牢へ連行されていった。

 罪が大きすぎた。

 もう出る事はできないだろう。

 ならばせめて。




 誰か知っている人がいるなら、どうか教えてほしい。

 一体あの少女は、なんなのかを。



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