古い方・恋愛ジャンル(ほぼ女性向け) 短編まとめ場所

透けてるブランディシュカ

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〇39 国の重要人物である剣聖は、諦めず求婚し続けていた男に振り向いた

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 私は剣士だ。
 女性だけれど、剣と共に生きている。

 物心ついた時から剣を振り続けてきた。

 そのおかげで、生傷は絶えない。

 この体には無数の傷が刻まれている。

 だから、普通の女性のように、誰かと家庭を築くことはないと思っていた。

 第一、国がそれを許さないだろう。

 私は剣聖。
 剣を扱う者としての最上級の位を持っている。
 だから、自由な恋愛など望めるわけがない。

 人は高い位を持っているものを羨ましがるけれど、そんなにいいものではないのだ。

 剣聖は、国が危険にさらされた時、いつでも動けるようにしておかなければならない。

 私のいる国は大きな障壁でかこまれ、守られているけれど、敵の多い国だったから。

 万全の状態で剣を振れるようにしておかなければならない。

 だから、恋人も、子供も。

 剣が鈍るような大切な存在など作れるわけがないのだ。






 そう思って、過ごしていた。

 けれど、そんな私に求婚してくる男がいた。

「君が好きなんだ」

 告白はまっすぐだったが、とても普通だった。

 そう言いながら花束を差し出してくるのも普通だった。

 有名になると、たまにそういう人間がいるので、私は最初無視していた。

 けれど、彼は粘り強かった。

 忍耐力だけでは普通ではなかったらしい。

 それから、数年経ってもまだ、めげずに私に求婚してくるのだから。

 その頃になると、私は傷を負いすぎて、思う通りに動けなくなることがあった。

 国からは様々な任務を言い渡されたが、それらをこなすのが難しくなってくる。

 そうなると、見切りをつけられるのは当然で。

 その国は、ようなしになった危険人物を、自由にする国ではなかったから。

 様々な方法で亡き者にされかけた。

 せめて血を残せれば、また違った事になったかもしれないが、私はとある任務で受けた傷が原因で子供をつくれない体になってしまった。

 だから、きっと、いつかは国に殺されるのだろうと思っていた。

 そうなると知っていたなら、剣聖になどならなかっただろう。

 人並みの剣の腕にとどめて、ただの兵士や騎士で満足していたはずだ。

 でも、そうしなかったのは、以前の私が子供だったからだ。

 圧倒的な強ささえ、手に入れればどんな困難でもきりさけると、そう信じていた。

 力さえあれば、どうにでもできると。

 絵本の中の剣士に憧れていた頃は、そう思い込んでいた。

 現実はそんなにあまくないというのに。






 数々の刺客、ふいに行われる暗殺。

 日常の中で、心を休められる時はなかった。

 しかし、そんな私に手を差し伸べる人間がいた。

 それは、私にずっと求婚してきた男性だった。

「君を好きになった瞬間は、ただの一目ぼれだった。他に目をくれず、まっすぐに進み続ける君を美しいと思っていた」

 その男性は、国に唯一意見できる存在。

 大英雄の末裔だった。

 彼の意向は、誰も無視できない。

 それに、この国を守っている障壁は、彼がつくっている。

 彼の機嫌を損ねれば、敵の多いこの国はすぐに破滅してしまうだろう。

 国の中のどんな要人も、彼に逆らえない。

 それは国王だって同じだった。

 私は彼に、聞いてみた。

「あなたが好きになったのは以前の私の姿に過ぎない。ならもう、惚れ続ける理由はないはず」

 すると、彼は述べる。

「この気持ちはずっと変わらない。君の在り方も変わらない。強さが鈍ってなお、心折れないその在り方はまっすぐだから」と。

 彼は、以前の私も今も私も変わらない、と言った。

 心の在り方を見ているから、変わったようには見えないと。

「力の強さや、剣聖としての在り方なんて、どうでもいい。君のその心に惹かれたんだ」

 誰にも曲げる事のできない、まっすぐに生き続ける心の姿勢。

 それが彼の心の琴線にふれたのだという

 私は、彼の手を取った。

 今まで求婚の話はそれなりにあった。

 けれど、誰もが私の立場や、力を求めていた。

 なのに、目の前の彼は違う。

 私が私だから、好きなのだと言ってくれた。

 だから私は彼の気持ちに応えるのだ。






 その後、私達は結婚して、剣聖である事をやめた。

 彼は国王や国の者達にくぎをさし、安全を確保した。

 国にかかわる要人達は、やはり彼には逆らえなかった。

 そしたらあっけなく、身の回りで起きる不自然な事件や事故などの危険が減っていった。

 こんな事なら、私は最初に彼に求婚された時に、それを受けていればよかったと思った。

 いや、この今の姿があったからこそ、彼の言葉が響いたのだ。

 私自身ずっとを見てくれていた、彼の言葉があったから。



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