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〇50 愛され体質の私が先生になったら、男子生徒から愛されるようになりました
しおりを挟む私は教師だ。
今日から新しい学校で、生徒達に授業を教える事になっている。
記念すべき初日。
失敗しないように、色々シミュレーションしてきたけれど。
うまくいくだろうか。
どきどきしながら教室の扉を開ける。
高校生の教室だ。
ここは、A組。
生徒の数は三十人。
男子生徒と女子生徒の数は、ほぼ同じ。
良い教師になるべく、頑張って生徒達の顔は覚えてきたけれど、絶対はない。
うっかり間違えないようにしないとな。
「みなさん、こんにちは。私は今日からこのクラスの担任をつとめる事になりました。よろしくね」
最初の挨拶は噛まずに癒えた。
まずまずの及第点。
生徒達は、みんな静かに聞いてくれていたし、この分ならなんとかなるかな。
その時は、そう思っていた。
まさかあんなにやっかいな事になるとは……。
世間では、生徒になめられてしまって、教師が何を言っても、言う事を聞いてくれなくなったケースとかあるけど。
私の場合は、ちょっと不安。
人より華奢だし、女性だし。
女性がなめらやすいというのは、あるんじゃないかと私は思っている。
同じ場面、同じ言動でも、男女だとどうしても感じ方や受け取り方に違いがでてしまうから。
だから、何かあった時は、毅然と対応しなくちゃ。
学級崩壊とか起こらないように。不良になる生徒がでてこないように。
新人の教師だっていっても、生徒達より年上なんだから、数年分でも人生の先輩なんだから。しっかりしてなくちゃ。
けれど、トラブルはいつも予想の斜め上の方向からやってくる。
人生って、ままならない。
「せんせー、補修なんてしないで一緒にあそぼーぜ」
一人目はちゃらい見た目をした、男子生徒。
髪は、金に染めて、腰にはちゃらちゃらと金属のアクセサリーをつけている。
制服のボタンはいつもとめてないし、シャツはズボンから出しっぱなし。
他の教師も手を焼いている問題児だ。
けれど、何でか私のいう事だけは比較的聞いてくれるのよね。
どうしてだろうって思っていたけど、まさか異性として見られていたなんて。
「卒業したら、俺と結婚しよ? 俺、せんせーみたいなタイプ初めてなんだ」
簡単にそういう事いわないでほしい。
今の時代、たとえそういう関係になくても、噂されたらそれまで。
歩き出したばかりの教師人生が、即刻終了してしまう。
「ねえ、せんせー。聞いてる? 今度の日曜日デートしようよ」
「しません。つきあいません。結婚もしません。お願いだから、何も言わないで、静かに補修をしてて」
二人目は、天然な男子生徒。
一人目と違って、しっかりしており、勉強も優秀。
学校の規則を破る事はない。
生徒会にも所属していて、良い生徒の見本のような生徒だ。
けれど、彼も私に好意を抱いているらしい。
「先生、高い所にある資料なら、私がかわりにとろう」
図書室で一緒に作業していると、彼が後ろからやってきて、本棚にひょいと手を伸ばす。
学生で年下なのに、成長期が終わっているのか、私より背が高い。
彼は、私がとりたかった資料をあっさりと手にして、「これできちんとあっているだろうか」と疑問を問いかけてくる。
私は首を縦にふって、それをうけとるのだけれど、なぜだか彼はその場から退こうとしない。
彼は小首をかしげて「おかしい。体が動かなくなったようだ。先生の傍から離れたくないみたいだな。一体なぜだろう」とそんな事を言ってくる。
天然こわい。
周囲に人がいなくてよかった。
こんな場面を見られたら、あらぬ噂を立てられてしまう。
彼に悪気がないところが、一周まわって質が悪いのよね。
「きっと、足がしびれたりしているのよ。私の方がここから退くから、ここでゆっくりしていってね」
「む? そうだろうか。おかしいな。何か違うような気がするのだが」
お願いだから、一生真相には気が付かないで。
そして最後の三人目。
彼は大問題だ。
この国では名前を知らない人はいないはずの、大企業の息子。
お金持ちのお坊ちゃまだ。
それなのに、なぜか普通の学校を通っている。
そして、普通の学校生活を送っている。
そんな彼も私に好意を抱いていて。
「先生、俺を見てください。こんなに素晴らしい服を見つけたんですよ!」
「そ、そうね」
キラキラした服を着て、ターン。
お金かかってそうな服だと人目でわかる。
ところかまわずお金持ちアピールしてくるのが困ったところなのよね。
おかげでこの生徒と回りの生徒との軋轢がひどい。
「またお金持ちアピールかよ」
「貧乏人の気持ちとか分からなさそー」
「金持ちってほんと目立ちたがり屋だよな」
今の所、私の関心を引く事に夢中になっているから、まだマシなのかもしれないけど。
このままだとまずい。
ただの調理実習で、キャビアだのフォアグラだの持ってきて、みせびらかされたり、試食をすすめられたりしても困るのよ。
「お願いだから、あなたはもうすこし周りを見て、なじむ努力をしてちょうだい?」
「なぜだ? 俺は自分に出来る事を最大限して、皆を楽しませようとしているだけなのに。ついでに先生にも楽しんでもらえればなお良しだ」
生徒に買収されて成績表で良い点数をつけているとか、生徒を贔屓していい物をもらっているとか、そんな噂を立てられたくないのよ。
お願いだから、もうちょっとその家柄のアピールおさえて。
はぁ、今日も疲れた。
そんな問題児たちとつきあった後、平日の夜はもうくたくただ。
家に帰ったら、全身に重りをのせられたようなダルさがやってくる。
「もう、他の学校に、他のクラスにかわりたい」
新しい、クラスを担当して間もない。
新しい教師生活をはじめて間もない。
というのに、私の心は挫けかけていた。
このままではだめだ。
私は、自分に活を入れて、インターネットで色々と「できる教師のコツ」とかを調べ始めた。
しかし、途中でお酒を飲んだからか、妙なサイトに向かってしまった。
そこでは、自分の体質なるものを診断してくれるらしいが。
何を血迷ったか、私はそのサイトの診断ボタンをぽちり。
出てきた結果が。
「愛され体質?」
これだった。
あなたは、つい最近愛され体質になりました。
異性から際限なく愛されるでしょう。
この体質は一度目覚めたら、一生ついてまわるものなので、覚悟しておくのがよろしいでしょう。
異性の間でトラブルが発生する可能性高くなるので、
公平な判断を求められる職業には就かない事をおすすめします。
教師になる前だったら、まるで信じなかった。
けれどーー。
教師としての日々を振り返る。
「せんせー。俺とつきあってよ」
「む? 今日は一段と可愛らしく見えるのだが、なぜだろう」
「先生、これを見てください。最高級の大理石でできた筆箱です!」
あまりにもファンタジーすぎるが、なぜか妙にしっくりきてしまった。
すると当然、言いたい事がある。
「遅いわよ!」
判明するのが遅すぎる。
どうしてもっと早く、分からなかったのだろう。
教師になって、数日ですぐやめますとはいかないのに。
「途中でそんな体質になるくらいなら、最初からなってるか、最後までならないでいてほしかったわ」
脱力した私はやけっぱちになって、その日は飲んだくれる事になった。
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