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〇53 愛してるからやらせてください ファンタジー

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 ついさっきまでひどい戦いだった。
 魔族軍の力をそぐために人類軍は決死の思いで戦っていた。
 それのに、今は剣を打ち合わせる音も、魔法がさく裂する音も聞こえない。

 それもそのはず。
 私達は、巨大ながれきの中に埋まっているのだから。

 外の音は聞こえないし、様子も分からない。
 変化と言えば、時折り振動がして、上からパラパラ砂ぼこりが落ちてくるだけだった。

 様々な状況を想定してきたけれど、こんな事になるなんて思わなかった。
 私達は脱出不可能な場所に閉じ込められてしまったようだ。

 ここから出るためには魔法を使わなければならない。

 けれど、私も彼もボロボロ。
 次に魔法を使ったら命を落としてしまうだろう。

「僕にやらせてくれ。君を死なせるわけにはいかない」
「いいえ、私がやるわ。あなたは生きてここから出るのよ」
「君を必要としている人はたくさんいるんだ」
「あなたを必要としている人だって」

 けれど、どちらが魔法を使うかでもめてしまって、状況がまとまらない。
 互いが互いより重要な存在だと思ってるから、どちらも譲らないのだ。

 言い合いに疲れた私達は、一息ついた。

 先程から振動が大きくなっている。
 落ちてくるのも埃ではなくて、小さながれきの塊になっていた。

 もうじき、ここは崩落してしまうだろう。

 そうなると、二人共死んでしまう。

 だから、そうなる前に。

 あなたに恨まれてもいいから、私は魔法を使うつもりだ。

「だったら、ここで一緒に死にましょう」
「それもいいかもしれないな」
「その時まで抱きしめていて、怖いわ」
「ああ、分かったよ」

 彼を抱きしめたのとは別の腕で、ワンドを握る。

 魔力を込めて、魔法を発動させるために集中した。
 ごめんなさい。

 でも、あなたの事を愛してるから。
 愛してるからやらせてください。

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