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透けてるブランディシュカ

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〇62 甘え上手な妹の代わりに残酷王子の元に嫁いだら、なんか親切王子だった。

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 私には妹がいる。
 綺麗で可愛くて、愛嬌があって、美人で、とにかく綺麗で、多くの男性から愛される要素満載の少女。

 そんな妹には婚約者がいる。
 いや、いた。

 残酷王子なんていうあだ名がついているぶっそうな、この国の王子が。

 人目につかない所でペットを殺しているとか、使用人を手にかけているとか、そんな噂にまみれたやばい人。

 成人した後、婚約者のいる家に嫁がなければならない。
 だから、成人した妹もそうなるはずだった。
 だが、相手は残酷王子なんてあだ名がつく男性だ。
 妹は当然嫌がった。

 残酷王子は、貴族の社交界で笑う妹に一目ぼれしたとかそんな理由で縁談を申し込んでいた。
 誰にでも良い顔をしている妹の、見た目は一級品。
 見初められてしまったのが運の尽きだと思ったが、どうしても嫌だったらしい妹は両親に泣いて訴えかけた。

「お母様、お父様、私はあんな恐ろしい人の元にはお嫁にいきたくありません」

 最初はいくら妹に優しい両親でも渋っていた。

 婚約の決まった妹をどうにかするなんて、できやしないし、やってのけたら大罪人になってしまうからだ。
 王子を騙すなんて、立派な詐欺だ。
 運が悪いと牢屋送り、どころか死罪になってしまうだろう。

 でも、妹があの手この手で情に訴えかけるから、両親は折れてしまったらしい。
 両親は私に「あなたが妹の代わりになりなさい」と言ってきた。

 思えば、昔からそうだった。

 美しい妹は、人の心を動かすのが得意で、何か困った事があれば誰かに泣きついて他の人間に解決させていた。

 高い木にのぼった猫が可愛そうだから助けてあげたい、という可愛げのあるお願いならまだしも。

 なになにののおもちゃがほしいとか、だれだれとつきあいたいとかそんなお願いまで平気で人にする始末。

 そんな妹の姿を見ていた私は、昔から呆れるしかない。

 でも、妹は妙に世渡りが上手だったから、皆その悪行を許してしまう。
 今までのそんな事が積み重なったから、私が身代わりになる事になってしまったのだろう。

 両親にあれこれ言われた私は、妹と同じような恰好をさせられて、残酷王子に差し出されてしまった。

 結果は。

「ごきげんよう、私があなたの婚約者ですわよ」
「誰だお前」

 ですよね。

 一応抵抗はした。
 友人に両親のたくらみをばらしたり、家から逃げ出そうとした。

 しかしそのたびに、両親が口止めをしたり、用心棒とか護衛とかを雇って彼らに私を見張らせていたのだ。
 
 そういうわけで、逃げ出す事ができなかった私は、残酷王子に面会せざるを得なくなった。

 美しい妹と比べて、私の顔は大層普通だ。

 だが、かろうじて似てると言えば似てる範疇らしい。

 昔、妹が具合が悪くなってやつれた時などは、私とよく間違えられたとか。

 だから今回も、病気でふせってやつれてしまったという話になっていたらしい。

 始めは残酷王子も気が付かなかったそうだ。

 でも、近くでじっくり見たらごまかせなかった、と。

 私は素直に、事の成りゆきを話した。

「まことにお恥ずかしい話なのですが実は」

 その話をすべて聞き終えた残酷王子は、一つ頷いて「分かった。大変だったな」と言った。

 思ったよりまともだった。

 残酷王子は、実は残酷ではなかったらしい。

 怪我したペットを手当したり、気を失った使用人を介抱しているところを誰かに見られ、事実を曲解されて、誤った噂がひろまったようだった。

 残酷王子の顔はちょっと強面で、普通に話していても威圧感を感じてしまう。

 もしかしたら、そのせいでありもしない出来事が噂になってしまったのだろう。

 そんなわけで、意外にも大変な目に遭わなかった私は、残酷王子に保護される事になった。

 のちに王子が実家に抗議の文書を送ったら、青ざめた顔の両親が震えながら謝りに来たとか。
 でもそれだけで済ませたのだから、王子は優しい。

 実家に戻る気になれなかった私は、そのまま残酷王子と結婚した。王子も私を気に入ってくれたようだ。

「何か困った事はないか? 必要なものがあるなら遠慮なく私に言うといい」

 残酷王子については、残酷ではなく逆に親切だったので、親切王子と呼ぶことにした。
 貰われた身なので、恩を返したい。今までの悪評はただの嘘だったというのを、今度の社交界で広めていくところだ。

 妹は、社交界のご婦人方に大変評判な見目麗しい貴公子の元へ嫁いだらしい。
 なんでも薔薇が似合う美男子だとか。

 しかし、実は大変礼儀作法に厳しい人間であったらしく、今まで甘やかされて育ってきた妹は貴公子に怒鳴られてばかりいるらしい。

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