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〇63 雨女と晴れ男の恋愛
しおりを挟む「また雨が降ってきた」
慣れた様子で傘をさす。
そんな大会はないけれど、傘をさすスピードを競うなら、誰にも負けない自信がある。
だって、人生単位で傘をさす数が多い。ほかの人間とは経験が違うもの。
私はまた慣れた様子で、傘から体を出さないように、縮こまりながら雨の町を歩いていく。
会社に出勤しないと。
「リサって雨女だよねー」
中学一年生の時。
友人にそう指摘されてから、はっきりと意識するようになった。
私はおそらく雨女。
出かけようとするたびに雨が降る。
外を歩くたびに雨が降る。
建物の中にいるのは、何ともないのに。
なぜか私は、外にいると雨に降られてしまう。
「リサは、雨に好かれている雨女だから、プールの授業のときはリサにお願いしよっかな~。私プール苦手なの~」
喜んでくれるのは、ごく一部の人だけ。
「なんだ。また雨かよ。せっかくの修学旅行なのに」
雨を降らせてしまう体質?のせいで、周りの人間からいつも文句を言われていた。
家族と旅行にでかければ、家族から。
「リサちゃんったら、子供の頃から雨を呼んじゃうのよね。だからお庭で遊ばせるときは、洗濯物を干せないの」
クラスメイト達と遠足に出かければクラスメイト達から。
「また、雨だよ。だれー。このクラスの雨女」
社会人になれば、仕事仲間から。
「大事な書類が濡れちまうぞ。面倒だなぁ」
好きで呼んでるわけじゃない。
でも、みんな雨女を嫌って、うとましく思っている。
だから私は、ばれないようにいつも細心の注意を払って、びくびくしながら過ごさなければならなかった。
言われる度に私はうんざりだ。
色々調べてみるけれど、解決策は何も見つからず。
三十年近くも、雨と一緒に過ごしてきている。
なぜ、こんな体質になってしまったのだろう。
私の家族は皆なんともない、普通の人間なのに。
やめられるものなら、やめたい。
誰かにばれないように、気を張ってすごすのは、もうたくさんなのよ。
自分の体質にうんざりしている中、出かけるとよく天気を晴れにしてしまう晴男に出会った。
「今日からこちらの部署でお世話になります。よろしくお願いします! あっ、自分晴れ男なんで外で営業するときは連れていってもらえると、役に立てますよ」
最初の挨拶でそんなことを言ったときは、冗談だと思ったが。
「いや、例の新人すごいね。さっきまで土砂降りだったのに、すぐ晴れちゃったよ」
晴れにするという体質は本当だったようだ。
「あはは、ありがとうございます。いろいろな人からお礼を言われるとうれしいですね。この体質のおかげで、仲良くなれた人は数えきれません」
その男性は、私とは違い、多くの人から喜ばれてきていたらしい。
もしかしたら、その人と一緒にいれば私の体質は効果を発揮しなくなるのでは。
そう思った私は、その男性に様々な誘い文句をかけた。
やがて仲良くなった私達は、休日にもよく一緒に出掛ける事になったのだが。
男性がなぜか顔を赤らめて予定の確認をしてきた時は首をかしげざるをえなくなった。
「あっ、あのっ。クリスマスの日の予定は、空いてますかっ!?」
緊張しているのだろうか。
私の体質の事はばれていないはずだし、彼は人見知りでもなさそうなのに。
不思議に思いつつも当日を迎える。
雨女である私は、雨の中出かけた。
晴れ男の待つ、待ち合わせ場所に。
天気は曇り、いつもの通りだ。
晴れにも雨にもならない。
真ん中の、半分の天気。
しかし、良い事であるのは確か。
私の体質は、まったく逆の体質である彼といる事で中和?されるらしい。
それで、そんなく曇りのなか、二人で街をめぐって、遊びをして。
最後にディナーへ。
すると先ほどまで曇りだったのに、急に天気が変わった。
店のガラス窓の向こうで、通りを歩いている者達が空を見上げて、「空が綺麗」とか「星が見える」とか話しているように見えた。
視線を少し上げてみれば、街のビルの間に星空が見えた。
今まで曇りだったのが、いきなり晴天になった。
一体なにが起こったというのだろう?
と、思っていたら彼に告白されてしまった。
「好きです! つっ、つきあってください。一生幸せにします!」
みれば、彼は林檎みたいに真っ赤な顔をしていた。
私が、「そんなつもりじゃなかったのに」と言ったら、彼はしょんぼり顔になり、天気は雨で土砂降りに。
そこで思った。
この天気は体質でなく、私達の心によって影響されているのだと。
それからもめげなかった晴れ男は、私をデートに誘った。
最初は、晴れ男の体質に興味があっただけだけど、彼の事はそんなに嫌いじゃなかった。
だからデートを重ねる事にだんだんと良い雰囲気になっていった。
だからそこで私は、これからも一緒にいたいと晴男につげた。
「一度あなたの告白を断っちゃったけど、こんな私でいいかしら」
「もももっ、もちろん!」
すると彼は、笑顔になり。
曇りだった空が一瞬しいて晴れあがる。
頭上からさっそうと退いていく雲。
その間から零れ落ちてくる光は、私達だけを照らすスポットライトのように見えた。
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