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〇73 落ちこぼれの私は剣聖と両想いだったようです
しおりを挟む魔法栄える大国に、名のある家があった。
その家の名前は名家ユアハート。
名家ユアハートは、優秀な魔法使いの家だった。
代々、凄腕の魔法使いを生み出し、国の役に立ってきた。
それは今代も同じで、ユアハート家に生まれた三人の子供は、全て優秀な魔法使いになっていった。
しかし、その家に生まれた一人の娘、コハクだけは、魔法が使えない落ちこぼれだった。
才能がないと分かった日、父親は冷たい目でコハクを見つめ、ため息をついた。
母親は、失望した顔でコハクを産んだ事を後悔した。
ユアハート家にふさわしくないと両親に見放されるばかりでなく、他の兄弟達から虐められる日々を送っていた。
「あんたなんて、この家に必要ないのよ!」
「なんで生まれてきたんだろうな」
「視界に映らないで、気分が悪いわ!」
そんなある日、コハクがつづっていた秘密の日記が、部屋の中からなくなってしまう。
それは、他の兄弟達による嫌がらせだった。
真っ青になったコハクは、その日記を探して見つけるが、時すでに遅く。
国一番の剣の腕を持った男性、剣聖アクアに中身を見られてしまった後だった。
その日記に、
「お姉さまやお兄様にいじめられて森の中に置き去りにされた時、魔物から助けてくれた剣聖アクア様が好き」
と、アクアへの想いを綴っていたコハクは絶望してしまうが……。
「嬉しいよ。俺も君の事が好きだったんだ」
なぜか相手から、そう告白されてしまうのだった。
コハクとアクアが出会ったのは一年前。
アクアが国を揺るがす大罪人を討伐した後だった。
大がかりなパーティーが開かれたため、ユアハート家の人間も参加する事になった。
しかし、期待外れのコハクを相手にするものはおらず……。
他の兄弟達が楽しく過ごしているのを見ながら、コハクはひとり寂しくしていた。
そんな中、コハクは人に囲まれて笑顔を浮かべているアクアを見つけた。
アクアは長い間笑顔を絶やさず、人の相手をしていたが、コハクには辛いように見えていた。
それもそのはずで。アクアは、大罪人を討伐した後ろくに休む事ができずに、パーティーに参加させられていたからだ。
とうとうふらついて倒れそうになったアクアだが、それをささえたのはコハクだった。
イジメられるのをふせぐため、コハクは誰にも気づかれずに、気配を消す事に長けていた。
だから、人の輪の中心にいたアクアにも近づく事ができたのだ。
アクアは、焦る。
ここで自分が倒れそうだとばれたら、国の実力者に隙があるという所を、大勢に見せてしまう……と。
しかしコハクは、アクアの不調を誰にも言わなかった。
「どうしてユアハート家の落ちこぼれがこんなところにいるんだ?」
「お前なんかが近づいて良い方じゃないんだぞ!」
「はやくどっかいけ。背中だろうが何だろうか、落ちこぼれの手で剣聖様に触るんじゃない!」
落ちこぼれの存在にようやく気付いた他の人達が騒ぎ出すものの、コハクは何も言わずにその場を去っていったのだった。
そんな一年前の事を理由にあげたアクアは、コハクに求婚。
すぐに式をあげて、コハクを自分の家に迎え入れた。
すると、今までコハクの事を落ちこぼれ扱いしていた者達が、手のひらを返した。
コハクに取り入ろうと、お世辞を言ったり、贈り物をしてくるようになった。
コハクは戸惑い、困ったが、それはまだましな方だった。
自分の方が優れているのに、とコハクを目の仇にして嫌がらせをしてくる者がいたからだ。
「あんたなんかアクア様にふさわしくないのよ!」
そんな罵詈雑言を浴びせ、泥水をかぶせたり、虫の入った贈り物をしてきたりした。
コハクはその通りだと思っていたため、何もやり返さなかった。
「私はアクア様にふさわしくないわ。だから彼女達が嫉妬するのも当然ね」
しかしその事を知ったアクアが激怒し、嫌がらせをしていた者達の家に乗り込んでいった。
一人一人に罰を与え、けじめをつけさせ、ふるえあがらせたアクアは、家で何も知らずに待っていたコハクの元へと向かう。
部屋の中、汚れた雑巾の入っていた贈り物の箱を確かめていたコハクは、突然のアクアの来訪に驚く。
アクアは、「ふさわしいとか、ふさわしくないとかで俺は愛する人を選んだりしない。君は違うのか?」と問いかける。
コハクは「全てばれてしまったんですね」と、内緒にしていた事と、心配させてしまった事を謝った。
「いいえ、違います。私がアクア様を好きになったのは、私にふさわしいからではありません」
「そうだろう? ならもう、悲しい事は考えないでくれ」
コハクがアクアを好きになったきっかけは、怖い思いをしていた時に助けてくれたからだ。
想いを記している間も好きでいた理由は、多くの人を助けられる立派な人だからだった。
そして、今も好きでいる理由は、いつも自分を気にかけてくれる優しい人だから。
コハクは、初めて自分から勇気をだして、アクアの頬に口づけをした。
「これからは誰かに何かを言われても、反論できるようになりたいです。だから私に勇気をくれませんか」
「君が望むなら、好きなだけ欲しいものを与えよう」
そして、アクアもお返しにとコハクの唇にキスを落とした。
コハクはそれからはもう、自分の事を「剣聖にふさわしくないから釣り合わない」とは考えなくなった。
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