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〇98 王子様、今のあなたは真実の愛という響きに酔っているだけにすぎませんよ
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私の婚約者である王子は、どうやら真実の愛という言葉が好きなようだ。
「俺は真実の愛を見つけたんだ。愛のない婚約者との日々より、彼女との日々を優先する!」
王子は、社会勉強のため学校に通っている。
その学校には私も共に通い、王子の生活をサポートをしていたのだが。
王子は私を拒絶した。
学園のパーティーの日にそれをはっきりと、言われた。
王子はどうやら、愛のない私とは一緒にいたくないらしい。
私の代わりに王子の隣にいるのは平民の女だった。
女は王子の背中で怯えたような顔をしている。
「王子、どうか私のために怒らないでください」
その女は、猫をかぶっている。
と、私は直感的にそう思った。
王子に対する違和感は前からあった。
一か月前から急に王子がよそよそしくなって、この平民の女の姿が王子の周辺で見られるようになった。
その頃から王子は、王族らしくないふるまいをよくするようになった。
護衛をまいて一人で町をうろついたり、毒見役もかいさず食べ物を食べたり。
私があれこれ忠告したものの、聞き入れてはくれなかった。
何かあったらどうするのか、とさんざん述べてきた。
けれど、王子は自由に生きたいんだ、と言って耳を傾けてはくれなかった。
そんな王子は、この学園パーティーの最中、ひとしきり「真実の愛」とやらのすばらしさを語ってから姿を消した。
私の前どころか、護衛や他の者達からも姿を消してしまった。
「真実の愛」とやらを育むには、王宮での生活が不便なだけらしい。
だから一般市民にまぎれて、好いた女と生活するつもりなのだろう。
周りの者達は慌てたが、私は冷めた気持ちで考えていた。
どうせひと時の妄言に過ぎない。
酒を飲んでよっぱらっている状況にすぎないのだ。
じきに王子は現実を知るだろうから。
世界はそんなに甘くない。
恵まれた環境で育った者が、そう簡単に平民の生活に順応できるとは思えなかった。
俺は混乱していた。
こんなはずではなかった。
一体なにが駄目だったのか。
「真実の愛」を見つけた俺は幸せになれると思ったのに。
親同士が決めた婚約からやっと解放されると思ったのに。
自分の事を好いてくれる女性と一緒になれる事ほど、幸せな事はないと思ったのに。
なぜ、ボロ小屋の一室で隙間風をうけて、こごえていなければならないのだろう。
平民にまぎれて生活を送る事になった俺は、まず自分が持っている宝石や装飾品を売った。
そのお金で生活しながら、これからの身の振り方をゆっくり考えていくつもりだったのだが。
詐欺師に騙されたり、盗人に取られたりして、瞬く間になくなってしまった。
これでは生きていけないと、働く事にしたが、身元のはっきりしない者はどこも雇ってはくれなかった。
雇ってくれる所があっても、そこでは体力が必要だったり、特別な技能が必要だったりして、うまく働いていけなかった。
そんな事が続いた日に、何よりも大切だった少女が失踪。
なけなしのお金と、「こんなはずじゃなかった」という手紙と共に消えていた。
俺は、寝泊まりしていたボロ小屋の中に一人で残されていたのだった。
一体何を間違えてしまったのだろう。
空虚な思いで、何もする気になれずにぼうっとしていたら、ボロ小屋を提供してくれていた人間の声が外からした。
その人物が、誰かと話をしている。
「と言う事で、王子を保護させていただきました。それであのお礼のお金は――」
どうやら俺に親切を働いたその人物は、はじめから内緒にしてくれるつもりがなかったらしい。
国に知らせるつもりで俺達をボロ小屋に住まわせたのだろう。
護衛だった者達が、ほどなくしてボロ小屋の扉を開けた。
俺は、世間の厳しさを知ってがっくりとうなだれた。
身も心もボロボロになった状態で、元の場所に戻った後。
その後婚約者とよりを戻す事になったが、上下関係はひっくり返ってしまった。
俺は一度捨てた女性に頭が上がらなくなった。
「酔いはさめましたか? 国のために愛のない結婚をする事も必要なのです。愛だけがある結婚生活なんて誰も幸せになりませんよ王子」
「俺は真実の愛を見つけたんだ。愛のない婚約者との日々より、彼女との日々を優先する!」
王子は、社会勉強のため学校に通っている。
その学校には私も共に通い、王子の生活をサポートをしていたのだが。
王子は私を拒絶した。
学園のパーティーの日にそれをはっきりと、言われた。
王子はどうやら、愛のない私とは一緒にいたくないらしい。
私の代わりに王子の隣にいるのは平民の女だった。
女は王子の背中で怯えたような顔をしている。
「王子、どうか私のために怒らないでください」
その女は、猫をかぶっている。
と、私は直感的にそう思った。
王子に対する違和感は前からあった。
一か月前から急に王子がよそよそしくなって、この平民の女の姿が王子の周辺で見られるようになった。
その頃から王子は、王族らしくないふるまいをよくするようになった。
護衛をまいて一人で町をうろついたり、毒見役もかいさず食べ物を食べたり。
私があれこれ忠告したものの、聞き入れてはくれなかった。
何かあったらどうするのか、とさんざん述べてきた。
けれど、王子は自由に生きたいんだ、と言って耳を傾けてはくれなかった。
そんな王子は、この学園パーティーの最中、ひとしきり「真実の愛」とやらのすばらしさを語ってから姿を消した。
私の前どころか、護衛や他の者達からも姿を消してしまった。
「真実の愛」とやらを育むには、王宮での生活が不便なだけらしい。
だから一般市民にまぎれて、好いた女と生活するつもりなのだろう。
周りの者達は慌てたが、私は冷めた気持ちで考えていた。
どうせひと時の妄言に過ぎない。
酒を飲んでよっぱらっている状況にすぎないのだ。
じきに王子は現実を知るだろうから。
世界はそんなに甘くない。
恵まれた環境で育った者が、そう簡単に平民の生活に順応できるとは思えなかった。
俺は混乱していた。
こんなはずではなかった。
一体なにが駄目だったのか。
「真実の愛」を見つけた俺は幸せになれると思ったのに。
親同士が決めた婚約からやっと解放されると思ったのに。
自分の事を好いてくれる女性と一緒になれる事ほど、幸せな事はないと思ったのに。
なぜ、ボロ小屋の一室で隙間風をうけて、こごえていなければならないのだろう。
平民にまぎれて生活を送る事になった俺は、まず自分が持っている宝石や装飾品を売った。
そのお金で生活しながら、これからの身の振り方をゆっくり考えていくつもりだったのだが。
詐欺師に騙されたり、盗人に取られたりして、瞬く間になくなってしまった。
これでは生きていけないと、働く事にしたが、身元のはっきりしない者はどこも雇ってはくれなかった。
雇ってくれる所があっても、そこでは体力が必要だったり、特別な技能が必要だったりして、うまく働いていけなかった。
そんな事が続いた日に、何よりも大切だった少女が失踪。
なけなしのお金と、「こんなはずじゃなかった」という手紙と共に消えていた。
俺は、寝泊まりしていたボロ小屋の中に一人で残されていたのだった。
一体何を間違えてしまったのだろう。
空虚な思いで、何もする気になれずにぼうっとしていたら、ボロ小屋を提供してくれていた人間の声が外からした。
その人物が、誰かと話をしている。
「と言う事で、王子を保護させていただきました。それであのお礼のお金は――」
どうやら俺に親切を働いたその人物は、はじめから内緒にしてくれるつもりがなかったらしい。
国に知らせるつもりで俺達をボロ小屋に住まわせたのだろう。
護衛だった者達が、ほどなくしてボロ小屋の扉を開けた。
俺は、世間の厳しさを知ってがっくりとうなだれた。
身も心もボロボロになった状態で、元の場所に戻った後。
その後婚約者とよりを戻す事になったが、上下関係はひっくり返ってしまった。
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