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〇97 先輩を甘やかして俺の好きにしてもいいですか?
しおりを挟む小さな少年、ナナはある日迷子になっていた。
それは、両親が外出している間に、こっそり家を出て冒険していた結果、帰り道が分からなくなってしまったためだった。
次第に辺りが暗くなり、夜が近づいてくる。
見覚えのない町の中で、ナナは心細い思いをしていた。
そんな中、一人の少女が声をかける。
ナナよりいくつか年上の少女は、心細く思うナナの手をつないで、警察に送り届けたのだった。
ナナは無事に、その後家に帰る事ができた。
ナナの中でそれは、淡い初恋になって思い出のアルバムにしまわれる事になる。
それは普通なら、それだけの思い出であり、一生更新される事がないものだ。
しかし、その少女とナナは再会する。
ナナが地元を出て、進学した学校で。
シホ先輩と下級生から慕われている少女、ナナからみたら二つ上の先輩がその少女だった。
ナナは、シホに自分の事を覚えているかと話しかけた。
しかし、シホは覚えていないようだった。
ナナはがっかりした。
しかし、所属する委員会が同じであったため、接点は途切れなかった。
シホは生活委員会で、生徒達をよく見て、指導していた。
しかも委員長だったため、多くの書類と向き合う事ばかりだった。
そんなシホの姿を見つめている内にナナの中で、淡い初恋で終わった感情が、新しい恋へと変化していくのだった。
シホは人から頼られる事が多くて、頑張りすぎるところがあった。
ナナには、シホのそんな所が好ましかったが、心配な所でもあった。
その予感は的中する。
シホは、頑張りすぎて無理がたたった。
それで、熱を出して倒れてしまったのだった。
ナナは、シホのお見舞いへ向かう。
すると、シホはベッドの上で眠っていなければいけないのに、家族の世話をしていた。
シホは、家の中では散々な扱いをされていた。
遊ぶ事も許されず、勉強する時間も最小限で、家事手伝いをやらされていたのだった。
ナナは憤る。
ナナの家は、平凡ながらも一般的な普通な家庭だった。
けれど息子の事をいつでも思っていた。
ナナが進学する時には、安全を祈ったお守りをくれた。
だから、シホをとりまく環境が許せなかった。
そんなひどい所からシホを助けたいと思った。
シホが無理をしなくてもいいように、シホが人を頼れるように、人に甘えられるように。
そう願ったナナは、シホに約束をする。
その家からシホを解放できるようになったら、自分を一人の男として意識してほしいと。
それからナナは、猛勉強をして、上位の成績で学校を卒業。
シホの家から離れた所にある有名な大企業の入社テストを受けて、家も確保した。
そして、あらためてシホに告白。
シホは、こんな自分でいいのかと言った。
身内が世間一般のそれと違っていていいのかと、誰かの頼みを聞く事でしか人とのかかわり方を知らない自分でいいのかと。
しかしナナは答える。
「身内なんて関係ない。俺が好きなのはシホ先輩だから」と「誰かの頼みを聞けるのはそれだけ優しいという事で自分がないという事ではない」と。
そして、続ける。
「そんな先輩だから惚れたんです。そんな中でも誰かを恨まず、前を向きつづけていた先輩だから、また好きになったんです」
ナナは、指輪を差し出した。
何か月も使わずにとっておいた初めての給料で買った、安物の指輪を。
いずれ、もっと高い物をかうまでの役割を与えた、決意の証としての指輪を。
しかし、シホはその指輪を生涯ずっと使い続ける事になる。
結婚してからシホの指から、その指輪の姿が消えた事は、一度もない。
「これから先はずっと、先輩を甘やかして俺の好きにしてもいいですか?」
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