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透けてるブランディシュカ

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〇111 真実の愛を見つけたらしい自国の王子が失踪してしまったんですが

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 平民の私が、まさかそんな所で王子を見つけるとは思わなかった。

 王子を見たのは、この国で行われた一年前の大々的な行事以来だ。

 遠目からだったが、あの時の王子は健康そうに見えた。

 しかし、目の前の王子はあの時と違ってかなりやつれている。

 奴隷用の檻の中に入っているから、それも当然だろうと思ったが。

「あの、大丈夫ですか?」

 私は王子に声をかける。

 すると、王子はぶわっと涙を流して泣き始めた。

 そして「こんな事になるとは思わなかったんだ」、と懺悔し始めた。







 その国の王子は愛どころか恋を知らなかった。

 なぜなら、まだ十にも満たない年の少年だったからだ。

 そんな少年は、とある大貴族の少女と婚約を結ぶ事になる。

 それは、国の発展の事を思って下した、両親の決断だった。

 しかし問題があった。

 王子の婚約相手である少女はとても我儘で傲慢な少女だったのだ。

 婚約の挨拶を行うために、婚約者の屋敷へ向かった王子は、使用人にやつあたりする貴族令嬢を見てドン引き。

 すぐに王や妃である自分の両親に、「あんな婚約者は嫌だ」と告げた。

 恋も愛も知らない王子だが、人間的にできていない者とは、恋も愛も出来ない事くらいは知っていた。

 世の中には駄目な人間の方が燃えるという特殊な人もいるが、王子はそうでなかった。なので、普通に嫌がった。

 しかし、王と妃は、「国の為に我慢しなさい」と王子に言う。

 けれど、王子はずっとその婚約に納得できないままだった。





 そんな王子は、一年後とある少女と出会う。

 それは王子が住むお城にやってきた下働きの少女だ。

 角を曲がった際に王子がうっかりぶつかってしまった事が原因で知り合った人間だった。

 普段なら護衛がまわりいるため、そういった時は彼等が王子の身を守るため、そんな事はありえなかった。だが、その日はたまたた護衛の目が外れる瞬間があった。

 その時に出会いを果たした王子は、「ごめんなさい王子様。お怪我はありませんか?」自身の身を心配してくれて、謙虚な姿勢で謝る少女の態度に胸を打たれた。それが理由で自然と、相手の事を好くようになった。

 それから、王子は何度かその少女に会いに行き、話をするようになる。

 少女は誠実であり、明るく前向きであった。

 我儘で傲慢な婚約者の件や、今まで親しい女性の友達がいなかった件もあってか、王子はすっかりその少女に夢中になった。

 恋物語をよみ、女性の恋心を掴もうと研究するくらいには。





 日常の中で、様々な恋物語を読んだ王子は思った。

「胸がドキドキして、顔が真っ赤になる。これは恋をしている証拠。僕は真実の愛を見つけたんだ!」と。

 王子は物語にあるそれと同じような症状が自分に出ているのを知って、自分が愛や恋というものを経験しているのだと知った。

 だからその感情を実らせたいと思った。

 そこで、堅実に少女との仲を深めて、両親に認められる方法を探せばまだよかったのだが。

 王子は思い詰めていた。

 我儘で傲慢な婚約者と一緒になる事を強くすすめてくる両親の事を思い、「きっとこの恋は応援してくれないはずだ」と結論付けた。

 王子の両親は内心では「王子があそこまで嫌がるなら、婚約者を他にかえてもいいかも」とは思っていたが、王子はまったく知らない事だった。

 そのため、王子は使用人の少女とかけおちする事にしたのだった。

「真実の愛を見つけたから、その愛のために生きる」と書置きを残して。

 悲しい事に使用人の少女も子供だったため、王子が強く言った言葉を止められなかった。

 上の立場の者へ強く反発する事は、自分の首を絞める事でもあったからだ。

 その後、当然の様に騒然となる城の中。

 王子の逃避行の噂はどこからか一般市民達に漏れて、多くの人が事情を知る事になった。






 王子に強く反対する事ができない使用人の少女は、何度も遠回しに王子に向けて「城に戻った方がいい」と伝えた。

 しかし真実の愛に夢中になっている王子に、遠回しな言葉では伝わらず。

 王子の逃避行はどんどん続いていくのだった。

 そんな王子は、平民にまぎれて生活をしようとしたが、うまくとけこめない。

 身分の高い者特有の所作が出て人々から注目をあびてしまったり、世間の情報を知らない事で詐欺師に騙されたりして、苦労していた。

 そして、ついに決定的な事が起こる。

 お金持ちの子供として目をつけられた結果、ならず者に狙われてしまったのだ。

 そこでみぐるみをはがされた王子達は、奴隷商に売られて奴隷市場に運ばれる事になった。






 落とし物を探して普段いかない場所に偶然やって来た平民の女性が奴隷たちを見て、そこにいるのが王子だと気づいたのは、王子が売られる直前だった。

 その後、泣きだす王子をなだめた平民の女は、奴隷商に事情を説明。

 他国から来た奴隷商は目を向いて、「そんな事あるんかいな」とたまげていた。

 他人の空似を疑ったものの、知っている情報や教養の深さから王子本人だと判明。

 王子と、そして近くの檻に入れられていた使用人の少女は、かけつけた騎士に引き取ってもらう事になった。

 その後、なんやかんやあって、王子の婚約は破棄され、王子の逃避行にまきこまれた使用人の少女もおとがめなしになった。

 その後、真実の愛にのぼせていた王子が、恋愛事に慎重になったのは言うまでもない事だった。

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