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〇125 婚約者が俺を立てろとうるさいので、別れて王子と幸せになります
しおりを挟むネイティという女には、婚約者の男性トーラスがいた。
ネイティは自分の考えを人に押し付けるようなことはなく、他人の価値観を受容できる人間だった。
しかしトーラスは、彼女とは正反対の性格であった。
しかも、自分の思い通りにいかないとすぐに周囲にあたり散らす男だった。
ある日、トーラスはネイティに怒鳴り散らす。
「さっきの言動はなんだ。俺より目立ちやがって! お前は俺の婚約者なんだぞ。俺を立てるのが普通だろうが!」
「けれど、目の前で子供が倒れたのなら、助けるのが当然のことではないですか」
トーラスは物凄い剣幕で怒ったが、ネイティは一歩も引かない。
そんなネイティ達は、たった今外出から帰って来たばかりだった。
ネイティは婚約者として、トーラスの仕事を手伝ったのだが、帰りに問題が起きた。
走らせていた馬車の前に子供が飛び出してきたのだ。
間一髪馬車は停車したため、子供がひかれるようなことはなかった。
しかし、驚いて転んだせいでその子供が怪我をしたので、ネイティが手当をしたのだ。
その手当は迅速で、すばやいものだったため、周囲の人達が感心したほどだった。
しかし、そのことをトーラスはよく思わなかった。
「気に食わないな。それだったら、俺にその方法を教えればよかっただろう」
見栄を優先するトーラスにネイティは反論する。
「そんな事をしていたら、傷が悪化してしまいます。一刻を争う状況だったらどうするのですか」
互いの話しはずっと平行線のままだった。
二人の価値観は正反対で、譲り合うところなどまったくなかったのだ。
ネイティは賢く聡明であった。
周囲の状況をよく見て、適切な対応ができる優秀な人間だ。
だが、トーラスはそんなネイティの行動を許す事ができなかった。
ことあるごとに苦言を呈してくる。
花嫁修業として結婚をする前に、トーラスの屋敷で過ごすネイティは、すぐにそこの屋敷の者達や、トーラスの知り合い達となじんだが、そのこともよく思われなかった。
「俺より使用人に慕われているなど許せん。お前は金輪際使用人と会話するな!」
「俺より物知りだと! その知識は披露するな。俺の面目を潰す気か!?」
「お前がさっきの奴の名前を教えなかったから、社交界で恥をかいただろうが。ああいう時は、お前が機転をきかせろよ」
トーラスは、自分よりも優位に立つ彼女の事を毛嫌いし、目立つなと命じていた。
ネイティはトーラスの事が好きではなかったが、彼に逆らう事ができなかった。
なぜなら、彼に弱みを握られていたからだ。
病気の妹に最新の医療を受けさせる。
それを条件にトーラスと婚約をしていたからだ。
「妹のためよ。我慢しなくちゃ、仕方ないわ」
反対にトーラスは、ネイティの家の名前が欲しかった。
トーラスの家は成り上がりで、歴史の少ない家だった。
だから、没落したとはいえ元名家で歴史のあるネイティの家の名前が必要だったのだ。
「ネイティ。お前の家の名前を必要としてやっているんだから、少しは俺の役に立って見せるんだな」
ネイティはトーラスに言われた通り、彼より目立たないように生きていく事を決めた。
その日々は数年間続いた。
しかし、数年後に事情が変わった。
国の王子がネイティに一目ぼれしたからだ。
その王子が、ネイティの妹の治療にも支援すると名乗り出た。
浮気をするばかりのトーラスと冷え切った関係を保っていたネイティは、とある社交界で王子と出会った。
初めての社交界デビューで緊張して、気を失った令嬢を介抱していたネイティを見た王子が、一目ぼれしたのが始まりだった。
王子はその時のことをネイティに話した。
「動揺する者達ばかりのなか、とっさにためらう事なく動けるあなたはすばらしい。どうか私と婚約していただけないだろうか」
そして、自らの恋心を伝えたが、ネイティは最初は断った。
「しかし、私にはすでに婚約者がいるので」
始めは王子の申し出を断ったネイティ。
しかし、トーラスの横暴は日に日に増すばかりで、ネイティの心は揺らいでいく。
「王子に目をかけられていい気になっているんじゃない! 罰としてお前はしばらく外出禁止だ!」
トーラスのその言葉によって、ネイティはとうとう一歩も外に出られなくなってしまった。
その状態を知った王子は激怒した。
「添い遂げる約束を交わした女性に、なんという仕打ち。これは許してはおけない」
ネイティを助けるために行動を起こした王子は、トーラスの働いた不貞を発見。
その罪を明らかにして、トーラスを断罪した。
それで、ネイティとトーラスのは解消された。
そのため、ネイティは晴れてトーラスと別れる事ができた。
トーラスから解放されたネイティは、王子と婚約を結ぶことになる。
妹の医療費も王子がなんとかしてくれる事になり、最新の医療を受けられるようになってからはどんどん状態が良くなっていった。
妹は自力で歩けるほど回復し、ネイティの庇護がなくても、自由な生活が送れるほどになった。
トーラスはネイティと妹の医療について約束を交わしていたが、最低限の治療しか受けさせていなかったらしい。
それらの行いのツケがまわったのだろう。
ネイティと婚約を解消した後のトーラスは、様々な悪い噂が広まり、誰にも見向きされなくなっていった。
誰とも婚約できずに、一人で過ごす日々を送っていく。
そして酒浸りの日々を送るようになって、健康を害し、ベッドから起きられない体になっていった。
ネイティに向けて、婚約関係を戻すように手紙を送るが、それらはすべて読まれる事なく送り返されるだけだった。
一方ネイティは、自らの聡明さと優しさで、王子をサポートする良き妻として有名になった。
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