古い方・恋愛ジャンル(ほぼ女性向け) 短編まとめ場所

透けてるブランディシュカ

文字の大きさ
124 / 150

〇124 婚約したつもりはないなんて言ってくる婚約者にやり返すため、味方を増やしてこちらから婚約破棄してやります

しおりを挟む

 私の婚約者は、目の前でうなだれていた。

 今さらながらに、後悔しているようだ。

 一時の感情で、大きな決断をしてしまった事に。

 後悔してももう遅い。

 私との婚約を、なかった事にした。

 それは間違いだったのよ。

 私は屋敷から彼を追い出した。





「君と婚約したつもりはない」

 なんて言って、あの日貴方はしらをきった。

 婚約を破棄したら、どちらもダメージを受けるから。

 だから、婚約した事そのものをなかった事にしようと思ったのかしら。

 でも、そんな話が本当に通ると思っているの?

 婚姻の管理は教会が行っている。
 この世界で人と人が結ばれる事は、神様がお祝いするような大切な事だから。

 それに、この地方をおさめる領主様に確認すればすぐに分かる事なのに。

 彼には愛人がいた。

 私とは正反対の、派手でお喋り好きな女性だった。

 私といるのはつまらないからって、思ったんでしょうね。

 彼は、私といる時間より、愛人といる時間を大切にしていた。

 でも、その人お喋り好きだったので。

 内緒の隠し事をするには向いていないわ。

 貴方が浮気していることは、あっという間に噂になっていた。

 社交場に赴くたびに、人々の視線を感じるようになった。

 中には、直接聞いてくる人もいたわね。

 貴方は気が付いていなかったのかしら。

 そうよね。

 昔から、人の事には鈍感だったもの。

 早く歩く貴方の後ろで、私がついていこうとしていても気が付かない。

 私が話しかけようとしていても、他の人とのお喋りをやめない。

 貴方の身に嬉しい事が何かあったなら、私はずっとその日は貴方のお喋りに付き合わされたわ。

 私の話はつまらないと言って耳を傾けないのに、自分の事を聞いてもらえないと怒るのよ。

 




 だから、もうそろそろこの関係が終わるんじゃないかって、うすうす予感していたわ。

「あいつとは婚約を破棄するよ」なんて愛人にもらしていたらしいじゃない。

 それも噂になっていたわよ。

 だから、私は皆に聞いてもらう事にしたの。

 私と一緒にいるときの、日ごろの婚約者の態度を。

 身内の至らない出来事を言うのはとても恥ずかしい事だけれど、他の人の同情を引いて、味方を増やしてこの関係を終わらせることが、一番ダメージが少ないと思ったから。

 そうして準備をしていたら、思った以上の事をしでかしたのね。

 愛人の事を打ち明けて、愛せなくなったからと、婚約を白紙に戻したのなら、まだ良かったのに。

 そうすることなく、婚約した覚えはないだなんて。

 だから、私は何度も念を押したのに。

「本当にそう思っていらっしゃるの」
「あっ、ああ! 君はただ僕と付き合っていると妄想しているにすぎない」
「嘘をつく事は、自分だけでなく家の名前にも泥を塗る事になりますわよ」
「嘘じゃない。俺は君なんか知らない」

 彼は、どうしようもなく愚かだった。

「分かりましたわ」

 だから私は決別したのだ。
 さりげなく周囲に散らばって、聞き耳を立てていた味方達が、証拠の言葉を聞いたのを確認して、一つの関係の終わりをしめくくった。

「では、他人にならせていただきます」





 後日、教会や領主様に確認して、婚約者が偽りを述べていた事が発覚した。

 愛に対して真摯ではなかった事。
 これから家族になるはずだった者達に真摯ではなかった事は重い罪だ。

 司教様達から説教を受けたのち、然るべき罰が言い渡されるだろう。

 それを受けて、私は彼と交わしていた婚約を破棄した。

 その時に彼は「俺と君の仲だろう。あれは他愛のない冗談だったんだ。許してやるのが妻になる者の」などと言って、こちらの家にすがりに来たので「私は自分の発言に責任を持てない人は願い下げです」と言って屋敷から追い出しておいた。

 彼がいくら婚約はしていないと言っても、正式な書類上では婚約は交わされているのだから。

 こちらから婚約を破棄させてもらったのだ。

 今回の件で少なからず私の家もダメージを受けた。

 婚約者の性格を見抜けなかった非は、言い逃れ出来ない。

 けれど、何もせずに関係を終えていたよりは、幾分かましになっただろう。

 私は理性的に彼に対処し、出来る限りの証拠をおさえ、そしてやり返したのだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...