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〇129 気持ち悪いので馴れ馴れしく接しないでくださいませんか?私を豚の様だと捨てたのは貴方でしょう
しおりを挟む呪いを受けて、病気になっていた私、リリヤ。
私はベッドから起き上がれなくなってしまった。
見た目が変わってしまっていたし、何があるかわからないため、安静にしていなければならなかったのだ。
そんな私の姿を見た婚約者は「まるで豚のようだ」と言った。
そして、三日も待たずに婚約破棄。
けれど、両親が探し出した解呪士の努力あって、私はその呪いを解く事ができた。そんな私は、すっかり元の体を取り戻していた。
そこに、私を捨てた婚約者が言い寄ってきたのだった。
久しぶりの社交場に出ると、自然と人の視線が集まった。
あちこちから「ほう」と息が漏れるのを感じた。
それらは、別に特別な事でも何でもない。
前々からよくあった事だ。
私はどうやら、人より見た目が良いらしいから。
こちらに声をかけようとした男性達がいたが、それらをかきわけてこちらに歩み出たのは、元婚約者だった。
「俺は信じていたよ、必ず君が呪いを克服してくれるだろうと」
そういって、馴れ馴れしく触れてこようとしたので、手をはたいて拒絶した。
私は忘れない。
ベッドに横たわる私を、嫌悪のまなざしで見てきた彼の表情を。
「馴れ馴れしくしないでください」
「そんなつれない事を言うな。婚約を破棄したのは間違いだったんだ。またやりなおそうじゃないか」
けれど、彼はめげなかった。
性懲りもなく絡んでくる。
歩いて移動しても、並び立とうとして、こちらについてくる始末だ。
「機嫌をなおしておくれ。あんなものはただの冗談だ。婚約破棄は、弱っていた君を奮起させようという計画だったんだよ」
ありえない。
ベッドの上で横たわる私を見ていた彼の目は、汚れた家畜を見るような目をしていた。
いいや、家畜にも失礼。
彼の瞳は、普通なら家畜にだって、そんな目を向けはしないだろうという瞳をしていた。
それになにより「何の価値もなくなったな」と呟いていなかったかしら。
貴方は聞こえていないと思ってるんでしょうけれど。
その時私は、寝ているふりをしながらきちんと聞いていたのよ。
「今さら婚約者面しないでいただけます? せっかく話しかけてこようとしていた殿方が逃げていってしまいますわ。みんな貴方よりはマシそうなのに」
彼はさすがにその言葉で、一瞬顔を歪めた。
だが、しつこくそれからも話し続けてくる。
私は、人より多少容姿が優れている。
そのため美人を隣に侍らせることが自分のステータスになる、と勘違いしている彼にとって、良い相手なのだろう。
彼をどうあしらおうかと考えていたら、一人の男性がさっと歩みでてきた。
さきほどからこちらに語りかけようか、語りかけまいか迷っていた他の男性とは違う。
堂々とした態度で。
「失礼、実は家同士の付き合いで、大切な話があるのでね。相談があるんですよ。こちらを優先させてもらっても良いだろうか」
私は彼の誘いに乗って、話を合わせた。
「そういう事だから、残念ね。先約があるもの」
声をかけてくれた彼と共に、元婚約者をその場に置き去りにしていく。
背後から「くそっ、俺が話しかけてやったのに」という呟きが聞こえた。
演技をするならするで、もう少しうまく行わなければ。
あんなのでは、社交界では生き残れまい。
それから、声をかけてくれた貴族の男性フィーディーとはよく話すようになった。
私の見た目と彼を比べて「釣り合わない」と言う者は多かったけれど、だからどうしたと言いたい。
いくら見た目が良くたって、人生何があるかわからない。
見た目も大事だろうが、何より大切なのは内面だ。
けれど世の中には、見た目こそ全てと考える人間がいる。
元婚約者のように。
私が手に入らない人間だと思い知った彼は、私の美貌を台無しにしようとしたのだろう。
とあるパーティー会場に訪れた際。
彼は吹き抜けになっている会場の二階から、一階へ物を投げた。
それは、まだ熱をもっていた。
その正体は、焼けた薪だった。
そんな危険な物を私めがけて落としてきたのだ。
とっさに一緒にいたフィーディーがかばってくれたので、私は軽傷ですんだが、彼は顔の一部にやけどを負ってしまっていた。
「こんな顔では、ますます美しい貴方につりあわなくなってしまう」
「私は、見た目だけで人を選ぶような愚かな事はしないわ。貴方とはずっと一緒にいたいと思っているのに。だからそんな事は言わないで」
だから見た目を気にして身を引こうとしていた彼を案じて、私はフィーディーと正式に婚約を交わす事にした。
そして、フィーディーに怪我を負わせた元婚約者を断罪しようと思ったのだった。
私は時間をかけて、パーティーの参加者達の元を訪ね、目撃証言を集めていった。
あの当時、二階にいた人間は少なかったが、何人かが現場を見ていたらしい。
それは、会場の設営を行った者達が、定期的に安全確認で各所を見回りしていたためだ。
しかし、彼等はなかなか証言してくれなかった。
彼等もそれなりに名前のある家の出だが、それでもパーティーに招待されるほどの格ではない。
だから、力のある貴族に疎まれることは避けたいと考えたのだろう。
「どうしても証言してもらえないの?」
「みっ、見ていないものは見ていないとしか言えませんっ!」
説得は難航した。
しかし、流れが変わったのは、治療を終えたフィーディーが出歩くようになってからだ。
彼に対する同情が集まり、ぽつぽつと証言してくれるものがあらわれた。
彼自身が頭を下げたのも大きかっただろう。
「このままあの男性を放っておいたら、また被害が出るかもしれない。大切な人が怪我をするような事にはなってほしくないし、この顔のような傷を負ってほしくない。だから証言してほしい」
それが決め手となって、元婚約者の犯行は明るみになった。
法の場で罪が明らかになった彼は、その場にいた者達に取り押さえられながら牢屋に連行されていった。
「くそっ、よくも貶めてくれたな」
「貶めた? 貴方がやった事をただ明るみにしただけですわ」
こちらを睨みつける彼は「見た目は美しくても、心は悪魔の様だな。元婚約者に慈悲もないとは。一生呪いが解けずに、あのまま豚のように醜くいればよかったんだ」と言い放った。
すると、フィーディーが彼に近づいていってその頬をひっぱたいた。
「その言葉は、見た目だけに気を取られて、女性に恥をかかせたお前が言う事じゃない。彼女に謝りなさい」
しかし彼は、謝罪を口にするどころか、フィーディーに掴み掛かろうと一層暴れ始めた。
とりおさえていた者達の誰かが油断していたのだろう。
元婚約者は彼を振り払って、フィーディーに殴りかかろうとした。
だから私は近くに置いてあった椅子を彼の顔面目がけて思いっきり投げ飛ばしたのだ。
辺りどころが悪かったのだろう。
鼻をくだいた彼はその場で気絶して倒れていた。
「大丈夫かい」
すぐにフィーディーがこちらにかけよってくる。
「その言葉はこっちのものよ。貴方は大丈夫?」
「見ての通りさ」
その後、元婚約者はすぐにその場から連れていかれた。
一応医務室で手当てされた後に、牢屋に入れられたらしいが、顔面の形がちょっと変わってしまったらしい。
でも、もはや私達にはなんの関係もない事だ。
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