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〇132 婚約破棄されたけど、下なんて向きません!だって私は悪い事はしてませんから
しおりを挟む貴族令嬢である私には婚約者がいる。
けれど、この婚約者、性格に難があった。
へまをした使用人をかばったら、「貴族らしくない」と言われ。
平民の友人と目立たない所でつきあっていたら「立場を考えろ」と言われ。
権力をふりかざす婚約者をいさめたら、「妻となる人間のくせに」と言われる。
私は我慢の限界だった。
だから、彼の執務室に乗り込んで、説教を行ったら。
「お前と婚約関係を維持するメリットはもうなさそうだな。お前はもう婚約者じゃない。後悔するなよ」
と、婚約破棄になった。
彼の家の方が立場が上だ。
だから、婚約が進めば私の家の名前も広まるはずだった。
そのためきっと、多くの人は愚かな事をしたというだろう。
しかし、私はそうは思わない。
貴族であるよりも大事な事は人である事なのだから。
ドレスを着て、装飾品を身に着ける。
向かったのは社交の場。
大勢の貴族たちがいるその場所に顔を出すと、私が行く方向には必ずヒソヒソ声が発生した。
「ああ、あれが例の」
「馬鹿だよな」
「愚かな事を」
そして、蔑むような視線も注がれる。
社交場に入ったとたん。
その場にいた人間達が次々とこちらに関心を向ける光景のは、ある意味壮観だった。
気の弱い令嬢だったら一秒で逃げだしたくなるだろう。
けれど、私は下を向かない。
誰かに恥じるような事は、何一つしていないのだから。
話しかけてくる相手がいない社交会場で、遠巻きにされながら時間をつぶす。
最初はこんなようなものだ。
しかし、人の噂なんてすぐに消えてしまう。
その時のために、新しい顔はいないか、社交場の人間関係に変化はないか、じっくりと観察しておかなければならない。
そんな風に壁際でじっとしていたからだろう。
一人の貴族令嬢が目に入った。
俯いて、心細そうな様子でいる。
見ると、彼女も私と同じように、周囲の人から距離をおかれていた。
悄然とした様子の彼女をそれ以上放ってく事ができなかったため、話しかける事にした。
「どうしたの? そんな暗い顔をして」
私に話しかけられたそのご令嬢は、一瞬ほっとした顔をして、小さな声で色々と訳を話してくれた。
彼女はどうやら、私と同じような経緯をたどって、婚約破棄されたらしい。
いつもつくしてくれる使用人をかばって、婚約者に頬を打たれ。
いつもこっそり遊んでいる平民の子供をかばって、婚約者に突き飛ばされ。
いつもお世話になっている男性のおまわりさんをかばって、婚約者に浮気者呼ばわりされた、らしい。
怪我をさせている分、そちらの方が悪質だった。
そんな彼女と、彼女の婚約者だ。
二人の付き合いが、うまくいくわけがない。
結果彼女は、婚約破棄されてしまったという。
「私が悪いんです、もっとうまく自分の言葉を口にできていたら」
彼女はそう言うけれど、慢性的に人に暴力を振るうような相手に対してそれは難しいと思った。
いくら言葉選びを工夫しても、説得できないのではないだろうか。自分の事を絶対に正しいと思い込んでる事が多いからだ。
私は彼女の身内ではないので、励まし続ける事はできないかもしれない。
これからずっと寄り添ってあげるのは無理かもしれない。
それにここで、聞いた話だけでは、知ったような口も叩けない。
しかし、見て見ぬふりはしたくない。そう思った。
それが人として大事な事だからだ。
私は両手でそっと、彼女の顔をあげさせた。
足元ばかりを見ていた視線を動かしてやる。
「下を向かないで」
「えっ」
「貴方は、人をかばった事を後悔しているの?」
「いいえっ、それはないです!」
「やり方がどうだったかまでは分からないけれど。貴方がそう思った事は間違ってないわ、だからそんな風に自分を小さく考えるものではないわよ」
それは、同じ境遇にいる者としてのアドバイス。
人として立派な生き方をしている彼女に、こんな所で躓いてほしくないと思った。
彼女はほんの少し顔を赤くしながら、「ありがとうございます」とはにかんだ。
「おたがい新しい相手を見つければいいの。がんばりましょう」
「はいっ」
その後も色々と話をした。
やる事が似ているからなのか、お互いの趣味や好きな事に共通点があったので、話がはずんだのだ。
誰かに遠慮して、自分の気持ちを押し込めて生きていくと、自分の人生を曇らせてしまう。
本当は色鮮やかだった魂の色から、色彩が抜け落ちてしまう。
だから、自分に恥じない生き方をすることが大切だ。
周囲には未だ噂話に興じる者達が多いけれど。
「前を向いていれば、きっと良い事が見つかる。新しい出会いも」
ほら、蔑むような色を見せる瞳とは違った、綺麗な瞳の男性を見つけた。
噂がおさまった時に、やる事が増えた。
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