古い方・恋愛ジャンル(ほぼ女性向け) 短編まとめ場所

透けてるブランディシュカ

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〇135 婚約破棄された私は辺境へ攫われたらしいですけど、聖女として出世したので帰ったら見返してやろうと思います。

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 どうも、何の変哲もない私です。

 みくりと申します。

 名前も特に目立つところがない普通な私です。

 高校生をしてました。
 折り紙とあやとりが得意で、機械にさわるのが苦手な、流行においてきぼりされてる系の少女です。

 でも頑固者で、持久戦が得意。

 今日は、こんな普通な私の身に起こった出来事を説明していきます。

 あっ、お茶どうも。
 では、よろしくお願いします。






「君の価値はなくなった。だから婚約破棄する! もう用済みなんだ。さようなら」

 突然ですが、目の前で婚約破棄されました。

 異世界に転生した私。貴族令嬢である私は、どうやらその男性に利用されていただけの様です。

 社交界で、盛大に婚約破棄されたのが今。

 婚約したのは、私の家が珍しい家だったから、そのご利益にあずかろうという魂胆だったんですね。

 私の家、名刺要らずの、ちょっとした有名な家なので。
 何代か前に、救国の大聖女がいたとか云々。

 どうりで、日ごろから私に対する態度が冷たいわけで「女はでしゃばるな」とか「面白くもない事をいちいち喋るな」とか言うわけですね。

 彼は、そんな私の家柄だけを利用して、社交界で顔を広め、もっと他に条件の良い家の女を見つけたようです。

「次の婚約者は、君よりもっと美しく聡明だ。血筋も文句なし。安心してくれ、結婚することになったら、式場には招待してやろう」

 いえ、顔も見たくないです。

 むかついた元婚約者に、どんな罵詈雑言をなげつけてやろうかと悩みましたが、その機会は訪れませんでした。幸か不幸か。

「えっ?」

 気が付いたら、足元に聖女召喚の魔方陣が展開していたからです。

 強い光に飲まれた私は、次第に気を失ってしまいました。





 数週間後、隣国の辺境。

 超常の力が満ちるこの世界「フォース・エンパイア」
 そこでは、世界の破滅に抗うために、聖女召喚という儀式が頻繁に行われていました。
 その世界の各地では、邪悪な魔力が発生しています。
 その魔力が生物を狂わせているので、聖女の浄化の力が必要だから、だそうです。

 邪悪な魔力が湧きだすスポットは「エンドストリーム」という名前がついていて、フォース・エンパイアの各地に散らばっています。

 エンドストリームをどうにかできるのは、聖なる力をつけた聖女のみ。

 そういうわけでフォース・エンパイアでは聖女が優遇されています。

 聖女になると、どんなわがままも聞いてもらえますよ。

 欲しいものは何でも手に入ります。

 まあ、その分大変な面もありますが、そこはおいおい。

 異世界に転生した私は、色々あって住んでいた場所から攫われてしまいました。

 それと同時に聖女として、混沌の地(辺境・隣国)に召喚されてしまったのです。

 故郷の王都・社交会会場で、ちょっとした憤怒の感情に浸っていたら、いきなり辺境に飛ばされてびっくりしたよ。

 ちょっと前までは婚約者のいる貴族令嬢だったんですけど、今では「フォース・エンパイア」で聖女をやる事になってしまったのです。

 あとは、もう話の流れは、お分かりですね。

 そういう事です。

 聖女になった私は、その辺境の地方をなんとかするため、活動を開始。
 護衛役の人達をつれて、各地のエンドストリームをなんとかする旅に出ることになったのです。







「えんやこらっと」

 その日、私は聖女の仕事をこなしました。

 うら若き乙女がえんやこらって、どうなんでしょう。

 とにかく、これが一番気合が入るセリフなので、しょうがありません。

 気合を入れた私はエンドストームに向かって聖魔法を放ちます。

 すると、そこから湧き上がってきていた邪悪な魔力が霧散して、浄化されていきました。

 これで、仕事一つ終わりです。

 私に声をかけてきたのは、冒険心逞しい若い騎士達。

「お疲れさまです」
「どうかお休みになってください」
「何かあったら遠慮なく言ってくださいね」

 聖女につけられた護衛には、一応むっさいおっさん騎士もいるにはいる。

 けど、聖女に絡む度胸はなかったらしい。

 四隅で「お前、なんか話しかけろよ」「ならお前がやれよ」とか小突きあってる。

 偉い聖女の不興を買ったらとんでもないことになる、とそういった意識が働くせいなんでしょうね。
 たまに話しかけられても、おっかなびっくりとかいう態度ですし。

 だって「話し方が生意気よ!」「汗臭い騎士なんで邪魔、近寄らないで!」とか言う傲慢聖女がいますもん。

 でも、話しかけてくれるだけまだマシな方かなと。

 そんなだから、騎士達と距離が開く。
 他の聖女達の方には、目も向けたくもないといった態度なんですよ。

 このチーム、機能してない。

 実際、他の聖女はひどかったんです。

 少し前に話をした聖女、貴族の少女はわがまま放題だったし。

 ちょっと仕事やったらすぐ「疲れた。休みたい」とかいうし。

 重たい荷物は「持ちたくない」「騎士が持ちなさいよ」とか言って、手ぶら移動が毎回だし。

 適材適所って言葉は知ってるけど、小型写真機(異世界版のカメラっぽい何か)とか、カードとか玩具とかどうでもいい荷物まで預けてるのが、もうね。観光じゃないよ。我儘極まってるよね。真面目にやって。







 さてさて、聖女らしくない私ですが、だからといってこの地方の人間くたばれとか、そんなひねくれた事を思うわけがありません。

 そんなの知らんわ。とっとと帰る、とふてぶてしくなれたら良かったんですが、残念ながら小市民。

 不満を感じつつも、現状をどうにかするために頑張りますよ。

 ええ、聖女とかガラじゃないですけど。
 まあ、貴族令嬢もガラじゃなかったんですけど。
 何せ、婚約破棄されたくらいですし。

 いけない、額に青筋が。
 別の事を考えよう。

 とりあえず改善すべき点は、まず……。

 聖女たちの意識の改革。

 騎士達の歩み寄り。

 ですね。

「とりあえず、手っ取り早く功績をあげて引退。実家に帰るために頑張りますか! あとあのムカつく野郎をざまぁするために!」






 という事で、色々やってみた。

 巡回ルートの変更。
 聖魔法の共同行使。

 に手を付けていったのだ。

 真面目って良いよね。
 日ごろから頑張っていると、こういう時に他の人が話を聞いてくれるんだもん。

 騎士達と相談して、計画をたてました。

 まず手をつけたのは、巡回ルートの変更。

 危機感の足りない同僚の傲慢聖女達に、困っている村や町を巡回してもらった。

 今までは安全な所ばっかり優先してたけど、そうはいかない。

 シビアな現実を目の当たりにした、聖女達は「こんなに困っている人達がいたなんて」と愕然としている。

 彼女達は、間違っていた自分の考えを突きつけられた。そして、結果少なくとも反省出来る子だったというのが分かった。

 良かった。

 根は悪い子じゃなかったんだね。

 一歩目で躓いてたら、もうどうしようかと思った。






 で、次は聖魔法の共同行使。
 私がちょっと研究して編み出した大規模聖魔法を、騎士と一緒に使わせてみる事にしたのだ。

 同じ作業をすると、連帯感が生まれるというのを期待して。

 結果は上々。

「聖女様、お疲れ様です」
「ふんっ、貴方達もまあまま頑張ったじゃない」

 若干ツンデレ方向に舵をとった聖女もいるが、全体的な協調性が高まった。

 その最中ひとに研究成果を見せたら、「えっ、一人でこんな特殊な魔法を編み出したの!?」って顔を何人かにされたけど、どうでもいい事よね。

 だって、他にもちょっと研究したら簡単に新しい魔法編み出せたし。「魔物を操る魔法」とか。





 あとはまあ、出来る事といったら、「一緒に騎士と行動する」という経験を積む、くらい?

 綺麗に連携が決まると爽快感があるし、仕事の効率も良くなる、という事を感じてもらったら、きっともう大丈夫だ。

「最初の頃と比べてずいぶん早く終わりましたわね」
「ええ、不思議ですわね」

 彼女達は自然と一つのチームになっていた。

 そんな事を繰り返していると、なぜだか出世してしまったらしい。

 私は大聖女となっていた。

 大聖女、先代か先々代かくらいのご先祖様と同じ身分になってしまった。結構な身分らしい。

 そしたら、さすがにそんな人物をいつまでも、外でうろうろさせられない、という事で重要施設配属になった。

 その際には、いつもお世話になっていた騎士も一緒にだ。

 聖女になった時に、最初に話しかけてきてくれた人でもある。

 落とし物を拾うというべたな出会い方をした。

「これからもよろしくお願いします。聖女様」
「貴方と一緒にいられて心強いわ」

 よく話すし、気があう人だったので大助かりだ。

 その後は、聖女見習いを育成する側になっていて、新人をビシビシしごくような立ち位置になった。

「大聖女様は、厳しい」と評判だ。

 あれ、故郷に帰るのが遠くなっているような。







 そんなこんなで日々お仕事を頑張っていると、たまに大事件に遭遇する事がある。

 新人聖女達がポカをやらかしたとかなんとか。個人的な事のために魔物の密漁に加担していたとか。

 魔物の素材は、薬になったり武器の素材になったりするので、非常に高価だ。

 だから、小遣い稼ぎがしたくて、禁止されている事に手を染めてしまったのだろう。

 内輪だけの事件ですめばまだマシだったけど。

 その出来事がスクープになり、町に広まってしまったらしい。

 聖女は聖人。もしくはそのもの、というイメージがある。聖女がそんな事をしていた、なんて話が広がったら大変だ。

 だから、私はその罪を代わりにかぶってあげる事にした。

 うん、そしたら、国から追放されてしまった。

 まあ、いいかな。

 他国の人を勝手に召喚して、聖女として働かせる国だし。(表向きに公表されてはいないけど、聖女として働いている者の一部はそうなのだ)

 潮時だ。そろそろ故郷にかえりたくなったので。

「私の事は気にしないで。未来ある若者をかばうのは当然のことよ。さようなら、これからも頑張ってくださいね」
「そっ、そんな私達のためにそこまで! ごめんなさい。この御恩は忘れません! 絶対に素晴らしい聖女になってみせます」

 そんなに感極まった顔されると罪悪感が。
 利用してごめん。

「行ってしまわれるのだね」

 国を出るときは、長く一緒だった騎士にも声をかけられた。

「どうしても帰りたかったの。ごめんなさいね」

 彼にだけは、ずっとお世話になっていたから、本当のことを話した。

「俺はあなたともっと一緒にいたかったんですが。いいえ、なんでもありません。忘れてください」






 そんなこんなで、やっと帰郷。

 実家の貴族屋敷の扉を叩いて、家族達と再会しました。

「生きてたのね! 良かった!」
「心配してたんだぞ!」

 懐かしい!

 とても嬉しかったけれど、私にはやる事がある、復讐だ!

 幸か不幸か、私は(元)大聖女だ。

 ただでは転んでやらない。

 この経験を利用して、私を利用したあげくずいぶんな態度で婚約破棄してくれたたあの男にやり返してやらなければならない!

 休息もそこそこに計画を立てていると、来客を告げる使用人の声が。

 どうやら私のお客さんらしい。

 えっ? 今故郷に帰ってきたばかりなのに?






 追放されたと言えど、聖女としての力は残っている。

 だから、工夫すれば色々な事ができた。

 さっそく私は、故郷に帰る前に見繕った魔物を引き連れて、元婚約者である男の屋敷へとおしかけた。

 まずは、蝶の魔物で使用人たちを眠らせる。鱗粉が眠り薬になるのだ。

 そして、スライムっぽい軟体生物を使って、あの男の部屋の鍵をあけた。(鍵穴に流し込んで、鍵になってもらった)

「なんだ? 今の時間は部屋に誰も入れるなと」

 部屋の中に、あの男はいた。
 偉そうにソファーの上でふんぞり返っていたようだ。

 だから私は、あっけにとられているその男ににっこりしながら「ごきげんよう」と魔物をけしかけた。

 小型の狼っぽい魔物だ。

 普通の犬くらいの大きさしかないが、これでも十分に人を殺せるだろう。

 魔物は、するどい牙をみせびらかすように、「グルルっ」とうなる。

 元婚約者は死にそうな顔になる。

「ひっ、ひぃっ!」

 そうそう、その顔が見たかった。

 ちょっとすっきりしたけど、まだまだ足りない。

「よくも婚約破棄してくれましたわね。よくも利用してくれましたわね。復讐しに来たので、さっくり殺されてくださいな」

 だから、「グルルアっ」とうなった魔物が、巨大化して大きくなった。

 人間を丸呑みするような大きさになったその魔物が、大きな口をあける。

 元婚約者は恐怖で耐え切れなかったようだ。

「ぎゃぁぁぁぁ!」と叫んで気絶した。

 白目をむいて泡を吹いている。

 私は良い気味だったので、その姿を写真にとった。餞別にと、後輩聖女がくれた品物で。
 ありがたく利用させてもらいました。
 よし、後日町でこの写真をばらまこう。

 うん、すっきりした。

 私は、部屋の外で待機していた人物に声をかける。

「ありがとう。こんな個人的な事に協力してくれて」
「いいえ。俺にとっても他人事ではありませんから」

 その人物はずっとお世話になっていた騎士だ。

 彼も、私と同じように国を出て、この国にやってきていたのだ。
 帰郷したその日に、お屋敷を尋ねて来たお客さんでもある。

 別れの時に、彼ならば大丈夫だろうと思って故郷の家の事を教えていたから、ここまでたどり着けたとか。
 それで、先日ばったり再会。

 魔物を操れる魔法があるといっても、もしもの時に逆襲されたらまずいので、彼に協力してもらったのだ。

 まあ、従順に操れてるから杞憂だったようだけど。

「他人事じゃない? ってどういう事?」
「そのままの意味ですよ。貴方の心を奪う可能性の男を、放っておけなかったのです」
「あら、そんな事いって。勘違いしてしまうわよ」
「していいんですよ。勘違いにしてほしくないですから」

 そういって、彼は私を抱きしめた。




 
 その後、私と彼は結婚した。

 二人そろってほとんどゼロからの新生活になるが、今までも何とかやってこれたので、まあ何とかなるだろう。


 
 
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