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〇145 私を婚約破棄した貴方の事なんて、全然まったく愛していませんわっ!
しおりを挟むこの男は私を婚約破棄した、酷い男だ。
でも、そう思っているのに、私の抵抗はまったく意味をなさなかった。
私は、目の前の男の顔を見る。
「あっ、貴方なんて全然全く愛してなんていませんっ」
元婚約者の顔がどんどん迫ってくる。
「あっ、あんなに盛大に私との婚約をなかった事にした貴方の事なんて、貴方の事なんてっ」
私は耐え切れず、その男を押しのけて叫んだ。
「――全然まったく愛してませんわっ!」
記憶を遡った私は、つい先日あった事を思い出していた。
私の婚約者、ドライン様は大勢の貴族が集うパーティーで私との婚約を破棄した。
「君を婚約者にしたのは、間違いだった。これからは赤の他人だ。もう話しかけないでくれないか?」
それは唐突な事で、まったく前触れなんてなかったに等しい。
だから、私は三日くらい茫然とした後、立ち直って復讐を考えたのだ。
だって、本気でドライン様の事を好いていたから。
彼は優しい人だったし、細かい気配りもできる良い人だった。
つっけんどんな物言いをしてしまう、素直になれない私の事も理解してくれるような人だった。
だから、愛していた分裏切られたショックが大きくなって、復讐を計画するようになったのだ。
「まず、あのすかした私好みのハンサム顔にトマトを投げつけてやるわ。それからあの伸びに伸びきった高くてかっこいい鼻をフライパンで叩いてつぶしてやるんだからっ」
でも、よくよく考えると不自然な所があった。
それは、婚約破棄をする瞬間、彼が悲しそうな瞳をしていたという点だ。
それがどうにも気にかかってしまい、復讐というよりは、いたずらみたいな計画しか立てられない。
このままじゃ、気分良くざまぁができない。
「このままじゃ、思う存分ざまぁができないわね。仕方ないわ、もう彼の行動を調査してみましょう!」
思い立ったが吉日。
という事で、私はドライン様の友人に聞き込み調査をしていった。
大抵の人物は「話す事などない」「彼の婚約者でもなくなった君と喋る事などあるのか?」と門前払いをくらった。
けれど、彼の一番の親友を当たった時、アタリを引いたようだ。
「彼には黙っていてほしいと言われたんだが、実は……」
そこから教えられたのは驚愕の事実!
とある日、ドライン様はある一人の令嬢が、きっしょい男に付きまとわれている事を知ったらしい。
それで、見て見ぬ振りができなかった彼は、そのか弱いご令嬢を助けたのだけど、それできっしょい男の恨みをかってしまったらしいのだ。
家に刃物が届いたり、嫌がらせで小動物の死骸が玄関におかれるようになったりしたとか。
しかも、ドライン様のところの使用人が狙われて、怪我をするような事もあったらしい。
不審者は狡猾だった。
証拠も残さずに、今までの行動をやりとげていた。
日に日に危険度が上がっていく不審者の行動。
それでドラインは、婚約者である私の身にも危険が及ぶと思ったのだろう。
だからドライン様は、あんな大勢の前で、婚約破棄をしたのだ。
私はもう、ドライン様と縁のない人間だと知らせるために。
「なんて事、私の為だったと言うの!」
私は彼の事を信じきれなかったことを深く後悔した。
ともあれ、真実は明らかになった。
ならやるべき事は一つだ。
「ドラインと仲直りしてくれるのか?」
「いいえ、復讐よ!」
「は?」
だからこそやっぱり納得できない。
私は彼に復讐をしてざまぁしなければ。
「うふふふふ、この程度の事で私の愛が尽きるだなんて思っているなんて、ドライン様ったら一体私の何を見てきたのかしら。そんなに私の愛を疑うなら、見せてあげるわ。この私の愛が天に届くほどの物だってことを!」
目の前で一人の男性が冷や汗をかいていたけれど、私の視界にはさっぱり入らかなった。
私はドライン様を信じられなかったけど、ドライン様だって同じだ。
私の愛の深さを信じてくれなかった。
なら、やる事は変わらない。
私は再び復讐計画を練った。
そして、数日後。
私は、ドライン様の屋敷をうろついている、きっしょい男を縛りあげていた。
「くっ、なぜだ! なぜ俺が分かった、巧妙に毎日違う人物に変装していたというのに! 髪の毛一本落としていないというのに!」
ふいをついて襲いかかり、私の手でロープぐるぐる巻きの刑にされた不審人物は、心底理解できないといった風に叫んだ。
私はそんな男を靴で踏みつけながら答えを話す。
「そんなの決まっていますわ。あなたの目よ。私、人の目から感情を読み取るのが得意なの。一般人は、そんな風に敵意をギラギラ宿しながら歩いてたりしないわ」
「くそっ」
というわけで、あっさり捕まえた男を、ドライン様の屋敷に放り込む。
使用人たちが「えっ(驚愕)」みたいな顔して「あっ(察し)」という目になって、「またか(諦観)」という風になったが今はどうでもいい(でも後でじっくりお話しましょうね(#^.^#))。
その流れでドライン様の部屋に乗り込んで、婚約の証明書(白紙)を突き出した。
「さぁ、ドライン様! これでもう私達の仲を阻む悪人はいなくなりましわよ!」
「君がそうやって無茶をするだろうから、婚約破棄をして遠ざけたんだが。解決してしまったようだな」
ええ、やってやりましたわ。
これで私の愛の深さを証明できましたわよね。
「これに懲りたら、私の気持ちを試すような真似はやめてほしいですわ、まったく。今度婚約破棄したら、あなたの嫌いなトマトを、そのお綺麗な顔にぶつけてやりますわよ」
「試したつもりはなかったんだ。でも、本当に心配だったから」
ドライン様は私をぎゅっと抱きしめて、耳元で甘く囁いた。
「そっ、そんな事したって騙されませんわよ。そっ、そんな、はうっ!」
至近距離で微笑まれて、精神が揺さぶられたせいか、キュンの過剰摂取で死にかけた。
「この件が解決したら、必ずまたよりを戻すつもりだった。君も同じ気持ちでいると思ったからできたんだ。でも、傷つけてしまったようだね。許してほしい」
「ゆっ、許しませんわっ!」
「駄目かな」
上目遣い禁止っ。
超私好みのイケメンしたドライン様の顔が近づいてきて、額にキスをした。
「近づかないでくださいな、それ以上近づいたら絶交! そう絶交です!」
しばらくあれこれ抵抗したのに、ドライン様はちっとも私を離そうとしなくて、私は気絶寸前だった。
その「何を言っても、君の本当の気持ちは分かっているよ」って顔やめてください!
私はなけなしの意地をまとって叫んだ。
「もうっ、嫌いですっ。私を婚約破棄した貴方の事なんて、全然まったく愛してませんわっ!」
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