アリエルとアリル

透けてるブランディシュカ

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02 落ちこぼれの姉は黙々と事態に対処している

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 ナイフを突きつけている不審者とアリル。

 中庭に集まった生徒達は、その二名にしか視線を注いでいなかった。

 それは当然の事だ。

 アリエルは、彼らにとって、どうでも良い存在だったからだ。

 彼等がそのような態度をとるのは今に始まった事ではなかった。

 それは以前から繰り返されていた事だったのだ。



 アリエルは、落ちこぼれだ。

 礼儀作法ができず、魔法もうまく使いこなせないのだから。

 貴族の証である魔法は、その血筋さえ受け継いでいれば、大抵の者はきちんと行使できる。

 しかし、アリエルはその魔法が不得意だった。

 そのため、学園の者達から見下されていたのだ。

 学園の者達は知らない。

 アリエルが家庭教師をつけてもらえず、ビジョンスター学園に入学するまで、満足に勉強できなかったことを。

 一般的に教養を身に着け、勉学に励む年になっても、家庭内ではアリルのみが優遇され、アリエルには誰一人期待しなかったことを。

 そして、アリエルは一般的な魔法でないのならば、そこそこできるということを。



 騒ぎ続ける生徒と、アリルに対して喚く不審者。そしてそれを宥めようとするアリル。

 状況が混とんとしてきたところで、アリエルは人の視線を感じて遠くへと視線を向ける。

「?」

 その先は、学園から離れた時計塔の上だ。

 王都スターラントンの一画にある時計塔。

 その上に人がいる。

 普通の人間なら見る事のできない遠距離だが、アリエルはしっかりとそこにいる人影を確認できた。

 それが、アリエルのそこそこ得意な……遠見の魔法だった。

 時計塔にいる人物は男性一人で、鍛えているのかがっちりとした体格をしている。

 男性は、黒い布で全身を覆っており、普通の一般人とは明らかに見た目が違っていた。

 リムスター王国の国民たちにはそのような布を全身で纏う文化はないので、はっきりとその男性が異物だと分かる。

 時計塔の上にいるそんな男性は、猟銃のような物を持って、こちらに狙いを定めていた。

 アリエルが魔法でさらに細部を確認してみると、それらは改造したものだと分かる。

 一般的には見られない形をしており、余計なパーツが付け足されている。

 アリエルには分からない事だが、音を消すために、銃口付近に大きなパーツが付いていた。

 そのような改造銃を手にした男は、狙いを定め終わったのか、引き金を引いた。

 音もなく弾丸が発射され、アリエル達のいる方へ向かってくる。

 アリエルは、引き金が引かれる一瞬前、自分の肉体の時間を調整した。

 世界から置き去りにされる感覚があり、周りがゆっくりと動いていく。

 それは体内時間調節の魔法。

 アリエルは、自分達の方に向かい来る弾丸をしっかりと観察する。

 それは、普通の弾丸ではなく、魔法で作られた高威力のものだった。

 そのため、誰か一人に着弾しても、アリエルたちがいる一帯が吹き飛ばされる事になる。

 そんな事になってはまずいため、アリエルはさっそく対処する。

 そこで彼女は、創造の魔法を行う。

 創造といっても、何でも作れるわけではなく、数秒程しか作れないという制約がある。

 それに加えて、長く親しみ、構造に熟知したものしか作れいという点もマイナスだ。

 だが物事に対処する時間が少ない時に、肉体時間調節の魔法と組み合わせると便利だ。

 アリエルは、狩りのために日頃から手にしていた猟銃の弾丸をイメージそ。男が発射した弾丸の軌道上に創造した。

 こちらに着弾するはずだった弾丸は、アリエルが創造した魔法の弾丸とぶつかり、王都スターラントンの真上で爆発を起こす。

 時計塔にいた男はなにが起こったのか分からない様子で呆然としていた。

 王都に住む一般人たちも、突然の起きた爆発に驚き、空を仰ぐ。

 時計塔の上で数秒呆然としていた男だが、再起するのが早かった。

 不測の事態が起こったと思い、撤退することを選んだのだった。

 アリエルはほっとして、肉体に作用させていた魔法を止める。

 この魔法を使うと疲労感に襲われるため、アリエルは膝をつきたくなったが、まだ不審者を制圧していないと気づき我慢した。



 遠くで起こった爆発に生徒達が騒然とする。

 不審者も一瞬驚き、視線を向けた。

 しかしどうでも良いとすぐに思い直して、アリルに視線を戻し、人質にし続けた。

 不審者とアリルの様子も気になったが、アリエルは集まった生徒達を観察する。

 その中には、人質解放のチャンスを活かせなかった事に歯噛みしている、目を引く男子生徒が存在した。

「しまった。絶好のチャンスだったってのに……」

 先ほどの爆発音に気を取られてしまった事を悔いている。

 そう呟いたのは赤い髪の男子生徒バルバトス・インゴット。

 大柄な体と、燃えるような炎色の髪、明るい橙の瞳が特徴的である。

 彼は、名門インゴット家に生まれた異端児だ。

 ただの鍛冶師から成りあがったインゴット家の人間は、先祖に敬意を示す意味で、名家となっても鍛冶や武具について勉強しているため、それらの歴史に詳しい。

 それだけでなく、敷地内にある専用の設備を使い、自分で製造することもできる腕がある。

 しかし、バルバトスはそういったものに興味を持たず、己の肉体を鍛えたり、強者との闘いばかりに目を剥ける少年だった。

 そのため彼は、インゴット家の異端と呼ばれている。

 その点について彼自身は長年悩んでいた。

 しかし、アリルから「あなたはあなたらしく生きていけば良いのよ」と言われた事で、ふっきれたのだ。

 それ以来バルバトスはアリルに好意を示すようになった。

 イケメン三人の中では、一番アリルに積極的にアピールしている人間である。

 アリルが男性にちょっかいをかけられていれば、進んで助けに入り、慣れないながらもプレゼント選びに四苦八苦して、こまめに好感度稼ぎを行っている。

 ただ女心についてあまり詳しくないため、昆虫の抜け殻や釣れたての魚など、外した贈り物をする事もあったが、アリルはそれをすべて笑顔で受け取っていた。

「アリルを離しやがれ! この野蛮人が!」

 彼は集まった集団の先頭で、不審者に罵声を浴びせている。

 バルバトスは非常に熱血型で、純粋である。
 脳筋であり、物事を深く考えない人間であった。

 後先考えない行動で、思った事をそのまま行動してしまうのが彼の欠点である。

 彼は拳で戦うタイプの格闘家であるため、アリルは飛び出さなかっただけましだと考えていた。

 アリルを心配するアリエルではないが、バルバトスが自分の思うままに行動していたら、今頃この辺りは大惨事になっていただろう。



 バルバトスが飛び出さなかったのは、彼を羽交い絞めにしている一人の男子生徒のおかげだった。

「バルバトス! いい加減にしてください! むやみやたらに突っ込もうとしないで!」

 至極まっとうな理由でバルバトスを押さえつけている男子生徒の名前は、ジョシュア・ヒルズ。

 灰色の髪に、茶色の瞳を持つ男性で、体格は一般の男子と変わらない。

 彼は、この学校に特待生として入学した優秀な生徒だ。

 身分は平民であり、ごくありふれた村の出身である。

 しかしそんな村に置いておくには惜しい人材だ。

 非常に努力家であり、勉学に積極的に励み、教師から一目置かれている存在で、規律を擬人化したような男性だった。

 そんなジョシュアは、生徒会に所属し、生徒達に規則を守らせる側の存在である。

 だから今回のように、バルバトスを諫めたり、制止したりする事が多い。

 ジョシュアは規律を重んじて、規則破る事はほどんどないため、その行動に出るのは当然だった。

 なぜなら彼には病気の家族がいるからだ。

 その治療のために良い成績を残し、良い印象を作り上げたまま、この学校を卒業しようとしている。

 優秀な成績を収めた物しか入れないという魔法使いが働く組織があるため、家族を病から助けるという夢を叶えるために努力している最中だ。

 しかし彼は、ストレスやプレッシャーに弱いため、夢を叶えられるか常に不安に思っていた。

 そんなジョシュアにアリルは、「あなたなら絶対に夢を叶えられる。私は信じてるわ」と声を掛けたらしい。

 ハートを射抜かれたらしいジョシュアは、それからはアリルに熱を上げていた。

 だが基本的に、いつも冷静に一歩引いた場所から物事を観察する彼は、こういった場では重宝する存在である。

「バルバトス。焦るだけで解決するなら、苦労しませんよ!」

 だが、アリルが人質になっている状況が気が気ではないようで、額から汗を流している。

 バルバトスに対処するので精一杯であるため、集まってきた生徒たちまで気が回らない。

 生徒達は好き好きに騒いでいる。

「せめて、教師がこの場にいてくれたら……。誰か呼んできていただけませんか!?」

 自分にできない部分は無理にこなそうとせず、なおかつ自分のプライドを変に守ろうとせず、素直に助力を頼むの点はアリエルにとってポイントが高いところだった。

 アリルの取り巻きである点がマイナスだが、アリエルは彼の優秀な点は認めていた。

 そんなジョシュアは、水の魔法の使い手だ。

 魔法を使って、遠隔から相手を攻撃することができる。
 
 彼が自由に動けていたら、不審者は制圧できていたはずだった。

 ジョシュアが表情を顰めながら言う。

「こんな時に足を引っ張りあってる場合ではないというのに」

 その言葉にアリルは内心で同意した。



 ジョシュアとバルバトスが互いに言い合っている横で、ため息をつくのはダイヤ・フィム・スターズという男性だ。

 バルバトスとジョシュアより、少し遅れてこの場にやってきた。

 くせのある金色の髪に、紅蓮色の瞳を持つ人物である。

 やや一般より背が高く、筋肉もついている。

 彼は、この国の第ニ王子であり、やんごとなき身分の男子生徒である。

 国を背負う者の一人として、市民たちの生活を学ぶため、学園に通っている。

 世間の事を良く知らないため、たまにトラブルを起こすが、根は悪い人間ではない。

 たまに騙されて他の男子生徒にカツアゲされていたり(本人にカツアゲされているという自覚はない)、病気のふりをした市民やスラムで腹をすかせた子供達に施しをしたりしているが(そのたびに影から護衛している兵士に怒られている)。

 そんな彼は自分の至らなさや思慮の浅さ、人を疑う事が苦手である……という欠点を恥じている。

 しかし、アリルから「人を騙す人間よりよっぽどいいわ。騙された回数が多いのはあなたがそれだけ良い人である証拠よ」と言われ、篭絡してしまったらしい。

 それ以来アリルに向けて、不器用なアプローチを続けている。

 お金に物を言わせて大量に贈り物をしたり、高価なレストランに招待してアリルを困らせる事があった。

 こんな時はバルバトスに次いでアリルを助けるために飛び出していく人物だが、学園入学当初よりは成長したため、他の生徒よりは冷静に状況を見守っている。

 アリルに惚れている人間の一人であるが、彼女の言動を全肯定する事なく意見を言える、貴重な人材であった。

 バルバトスやジョシュアはアリルが涙目で強く訴えたらコロッと意見を変えてしまうことがあるが、王族として生まれた境遇が影響しているのか、ダイヤは自分の意見と他人の意見を同一に扱う事はない。

 最後にその場にやってきた彼は、現場にいる生徒たちに声をかけ、落ち着かせた後、教師を呼んでくるように指示をした。

 その後、他二人のイケメンに話しかける。

「バルバトス、少し落ち着け。そしてジョシュアも声のボリュームをもう少し下げろ。それでは犯人を刺激していまっている」

 そのかいあって、バルバトスとジョシュアも少し落ち着いた。

 ダイヤは非常に才能豊かで、様々な魔法が扱える。

 武器についても同様だが、あえて言うならば剣と雷の魔法だろう。

「大切な存在を助けたいなら、冷静になるべきだ。心のままに行動するべきではない」

 ダイアは左利きであるため、特別に携帯が許されている護身の剣を左で握っている。



 彼らはこの学園で有名なイケメン三人衆と呼ばれているグループだ。

 誰も彼もがアリルに惚れているため、必然と一緒に行動する機会が多くなる。

 普段ならばアリエルはそんな三人を見てもなんとも思わないのだが、この状況で人目を引く三人が一つの場所に集まるのは、良い状況ではなかった。

 事実人目を引く彼らを遠目に見た者達が続々と集まり、その結果人質事件を目撃した生徒が多くなった結果、騒ぎが大きくなってしまうからだ。

 


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