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第二章 アリオ・フレイス

第25話 幼なじみとのいつもの約束をしました

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 公演の時間が来た。
 清龍楽団の演奏はとても素敵だった。

 情熱的であり、かつ清廉。幻想的な光の乱舞と音のコラボレーションが、ホールに集った観客をもれなく魅了していった。

 アリオの得意楽器は打楽器だが、力強いイメージのするそれは、時にゆったりとしたリズムで繊細な音を奏で曲のアクセントとして、全体を盛り上げた。

 楽団の他の者達も、一糸乱れぬ演奏でまとまり、それぞれがそれぞれの音の良さを引き立ている。個人の個性が強く出過ぎる事もなく、かといって弱すぎることもない。心地の良い調和がとれていた。

 演奏終了後、観客たちの反応は良好だ。
 鳴りやまぬ拍手の中で、彼のような幼なじみを誇りに思わなかった事は無い。
 それでも今回のものは間違いなく今まで聞いた中で一番だっただろう。

 演奏後、人がはけるのを待って、私はアリオに声をかけた。
 もちろん、舞台上で楽器の後片付けをしたり、舞台を清掃したりしている他の楽団員に一言断ってだ。

「アリオ、すごく素敵だったわ」
「ありがとうお嬢! お嬢なら、そう言ってくれると思ってたよ!」

 さっそくとばかりに一番に公演への賛辞を述べれば、アリオは無邪気に笑顔を見せて喜んだ。

「今日はとっても気合が入ったんだ。終わったら、お嬢が誉めてくれるって思うといつもより三倍頑張れる気がするよ!」
「あら、嬉しい。でもそれじゃあ普段のお客さんはチケット代がもったいなくなちゃうわね」
「こればかりは仕方ないよ、他のお客さんはお嬢にはなれないんだから」
「開き直りしていいのかしら。アリオって昔から変わらないわね」

 視線を合わせて笑いあった後、「いい加減イチャついてないで、手伝え」と他の団員達から声がかかった。
 本気で怒ってるわけでもなく、からかいの言葉なのだろう。
 そこに険悪な雰囲気はない。
 アリオの仲間達なのだから当然だ。

 とはいえ、この間の様にずっと居座り続けるのも迷惑だろう。

「じゃあ、お嬢。いつものところね。絶対来てね。約束だよ」
「ええ、分かってるわ。ちゃんと行くから」

 私は幼い頃のようにアリオと指切りして、一旦別れる。

「お嬢様……」

 毎度の事のようにトールが物言いたげな表情をよこしてくるが、こればかりはこちらも引けない。

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