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第三章 トール・ゼルティアス
第31話 不吉なことわざに拒否反応が出ています
しおりを挟む月が笑う様な日、ということわざがその世界にはあった。
綺麗な満月が出た日にその輝く光を見て、「まるで月が笑っている様だ」と昔の人々が誉めたからだ。
その時の話が、長い年月が経過した今でも残り、綺麗な夜空の事を「まるで月が笑っているような景色ね」と人々が誉める様になったという。
だが、その言葉には別の意味がある。
女性に人気の流行りの物語の中では、どういうわけか「月が笑っている」と喜んだ次の日には悲劇が起こるケースが多かった。
だから私は、その日そんな言葉を聞いて拒否反応を示した。
「昨日はまるで月が笑っているかの様な綺麗な星空でしたね、お嬢様」
「そうね。……そう、ね」
使用人のトールに言われた私は、同じ言葉を繰り返して思わず顔をしかめてしまった。
そんな私の態度を見て、彼は不思議に思った様だったがすぐに原因に気がついたようだった。
「どうされましたか、お嬢様? そういえば、最近不吉なことわざとか苦手になってしまったとかおっしゃられていますけど、まさかそんな事を気にされているのですか?」
「ええ、ちょっと後味の悪い物語を読んでしまって、その影響で」
「そういうのは気にしても仕方がありません。早く忘れるに限りますよ」
「そうよね」
もちろん私が言うそれはトールの考える物とは違って乙女ゲームの内容に関する事であり、この世界の事でもあるのだが、そんな事を言ったところで彼に理解してもらえるわけがない。なので適当にそう言葉を濁しておいた。
時刻は夜が明けてすぐの、早朝。
そんな会話をしながらも、朝早くの時間帯から私達がしているのは些細な捜索だった。
屋敷の庭に出てきた私達は、雨が降る中、とある存在を探している最中だ。
小雨だから少しぐらい濡れても構わないのだが、あまり長く出ていると風邪をひいてしまうかもしれない。
「猫……いないわね」
「そうみたいですね。あれは人の気配に敏感ですから、こちらの事に気がついてとっくにどこかに行ってしまったのかもしれません」
「だったら、今日の所は探しても意味ないわね。戻りましょうか」
「はい」
少しだけ下がってきた体温を自覚しながら、トールと共に屋敷の中へ戻る。
猫を探していたのは最後のイベントの為だったのだが、見つからないのなら仕方がない。
ここのところ、一週目とは違った方法で思いついた事をあれこれ試してはいるのだが、あの黒猫から好かれる気配が微塵のないので、少しショックだった。
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