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第三章 トール・ゼルティアス
第40話 トールの為に私がやるべき事
しおりを挟む見回していけば、使えそうな物が見つかった。
トールの好きな知恵の輪を手に取って、色々な種類の中からできるだけ細いものを選択、苦心しながら形を変えていった。
それで扉にある金具のネジに差し込んで根気よく回していくと……。
「よし」
金具がとれて、あっという間に閉じていた小屋の扉が開いた。
ここに閉じ込められてまだ数時間しか経過していない。
屋敷ではまだ、他紙の失踪は大題的なことにならっておらず、私の事はちょっと抜け出して留守にしているだけと思われているだろう。
だから、彼等がそう勘違いしている内に何とか解決したい。
トールの為にも、全てが終わった後に彼の居場所が屋敷に残っていない様では、意味がないのだから。
だが、顔を出すと彼から必ずお小言を言われるので、戻った際は最新の注意を払って行動しなければならないだろう。
小屋を出る際に、ある資料が目に入った。
彼がこれを置いていったのは絶対わざとだろう。
悪い事をしているという自覚があって、内心ではそれを止めて欲しいと思っているからだ。
「吸血鬼……」
この世界ではまったく見かけなくなった、珍しい種族の情報だ。
確認された個体は少なく、数えるほどしか記憶は残っていない。
彼等が生き残っていたとしても、迫害を恐れて正体を隠して生きているから、なおさら。
個体数を減らしながら、人の血を自らの血に加えていった吸血鬼達は、そんな世界の中で隠れるようにひっそりと生活していくのだが、どういうわけなのか人を操る力だけが残り続けていった。
だから、彼等は下手に助けを求める事もできず、その力を恐れた人達に討伐され、消えていくしかない。
トールは私達に隠しているが、その吸血鬼の子孫だ。
幼い頃に、その血のせいで住んでいた町を失くし、両親を亡くした彼は、人を信じられないでいる。
一度信じた人間は強く愛し信用してはくれるものの、それ以外の人間にはあまり見向きしなくなっているのだ。
だから私がやるべき事は、このイベントで、どうにかして彼のその心を開かせなくてはならないのだろう。
「待ってて、トール。私が貴方の目を覚ましてあげるから」
それが証拠探しや犯人捜しよりもまず、重要な事なのかもしれない。
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