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第26話 レイナとの初夜(上)(イラストあり)
しおりを挟むお屋敷(仮)は二階建てになっており、主人の寝室は一番奥の大きな部屋だった。
質素だが重厚な部屋に、大きなベッドが鎮座している。
「あ、お花が飾ってある、綺麗」
ベッドの上には、まるで今日の日を祝福するかのような、深紅の薔薇の花が飾ってあった。
(全てはエリス姫の思惑通りになったわけか)
おそらくは姫の差し金だろう。あの自信ありげな笑みの意味が、ようやく理解できた。
「綺麗なお花だね~」
レイナは嬉しそうに花をテーブルの上の花瓶に移す。赤い花がとてもよく似合っていた。
「レイナ、ここに座って」
「うん」
ベッドに腰掛けた俺は、すぐ横にレイナを座らせる。
綺麗な髪と共に、薔薇の花の香が漂う。
「もう11時50分か」
長い一日だった。数日分は働いた気がする。
「・・・そう、だね」
対するレイナは、緊張した様子だ。初めてだから、仕方ない。
安心させようと、膝の上にのせている手に、俺の手を合わせる。
「──んっ!」
レイナの全身に緊張が走ったのがわかる。逆に怖がらせてしまったかもしれない。
だが元は気丈な娘だ。レイナはすぐに俺の手を握ると、強い瞳でこちらを見つめてくる。
その宝石の様な輝く瞳に、魅入られそうになる。
「ダメだ、まだ12時になっていない」
俺は最後の理性を振り絞り、レイナの瞳から目をそらす。
レイナはしばらく俺の姿を無言で見つめた後に「くすくす」と笑い出した。
「笑うことはないだろう?」
「だって、後10分くらいだからフライングしても誤差だよ?」
「フライングはしない」
「変なの~」
そういうと、俺の腕に抱き着いてきた。弾力のある胸元が俺の腕に押し付けられる。
「じゃあ、あたしの下着を見てみる? 明日からのお仕事の参考になるかもだし」
確かに明日、裁縫工房で下着の生産を指示する事になる。その前に。レイナの下着姿を確認しておきたい気はある。
「だが、断る」
「どうして?」
「下着姿を見たら、我慢できなくなるからだ」
「ふふ、ますます変なの~」
嬉しそうにくすくす笑うレイナ。俺なんかより、よほど肝が据わっている様だ。
「じゃあお話しましょう。元の世界の旦那様の、家族の話を聞きたいかな?」
意外な提案をしてきた。元の世界の話か、あんまり言いたくはなないが。
「素敵な世界だから、みんな幸せなんだろうね」
「そうでもないよ」
少なくとも、俺にとってはきつい世界だった。
「じゃあ・・・旦那様は、け、結婚していたり、するのかな?」
不安げに目をそらしながら質問を続けるレイナ。なんだ、そんなことを知りたかったのか。
「してないよ」
「よかったー!」
嬉しそうにホッとした表情になる。
「兄弟はいるの?」
「姉が二人いるよ」
「いいね」
「あんまりよくはないな」
俺は自虐的に笑うと、言葉を続けた。
「姉達がいても、男は俺だけだから〝長男〟ということになる。だから必死で勉強させられた。姉達は『女はフリーターでもいい』って言ってチャラい男達と遊んでたがな」
あまり話したくない話題だが、宝石の様に輝くレイナの瞳の前では、なぜか饒舌になった。
「『両親の面倒は長男である俺とお嫁さんが見るべき、自分たちは絶対に長男とは結婚しない。でも遺産はきっかり三分割』そんな都合のいいことを言っていたな」
それでもよかったんだ。あの一言があるまでは。
誰にも話したことがなかった胸の内を、初めて他人に話す。
「そして『自分たちは若い間はイケメンと遊んで、年取ったらまじめな男と結婚して〝楽〟したい』といった」
姉達が語った何気ない一言、それは俺の心の何かを根本から打ち砕いた。加えてショックだったのは、母親も姉達を叱るわけでもなく、その考えを容認した事だ。
俺には厳しい父親は、以前から姉たちにはなにも言わない。結局、若い女の価値観がまかり通る国なのだ。その価値観が、たとえどんなに間違っていたとしても、だ。
「それまでは、性はそれなりに神聖なものだと思っていた。でも違った。俺みたいな男に与えられるのは、チャラい男達のお古にすぎなかったんだ」
それを生涯大事にしろ、女の年齢や過去を気にするな、というのが彼女たちが要求した結婚観だった。
そして〝それがフツー〟という単語によって、その要求は当然の物とされる。
風俗に初めて行ったのも、その頃だったな。
それまでは風俗は不潔だと思っていたが、そんな考えは消え去ってしまった。むしろ金と交換でサービスを受け取るシステムの方が、よほど清潔で合理的に思えるようになった。
「メイドさんにあこがれるようになったのも、その頃か。金もサービスも求める姉みたいな女達より、対価と引き換えとはいえ、尽くしてくれるメイドさんが好きになった」
俺の惨めでくだらない話を、レイナはまっすぐ見つめながら聞いてくれている。
「結婚には幻滅した。ただ一つ後悔があるとすれば、若いころにガリ勉なんかしないで姉達みたいに遊ぶべきだった事かな」
若いときは戻ってこない。
くだらないどこかの誰かを〝楽〟させるために、だまされていた自分が、馬鹿だったのだ。
打ち砕かれた心の〝何か〟はバラバラのまま。
心の中の瓦礫の山で、俺はずっと孤独に立ち尽くしているのだ。
目元は僅かに熱くなったが、それだけだ。もう自分の為に泣いたりはしない年齢だった。
「あるいは価値観の異なる他の国で、若い女性と初めからやり直すか」
自虐的に笑う。姉達は「ロリコンキモイ!」「長男のくせに何言ってるの? 介護どーすんの? あたしはやーよ!?」と激怒するだろうが、知った事ではない。
嫌な事を思い出し、暗い闇に引き込まれそうだった俺の心。
「──っ!?」
その心は、突然唇に押し付けられた柔らかい感触によって、強引に闇の中からひきもどされた。
甘い果実の香りがする、瑞々しく、とろけそうに柔らかい何か。
それがレイナの唇であることに気づくのに、一呼吸以上かかった。
「──じゃあこの世界で、あたしに会えて、よかったね」
レイナは満身の笑みで、微笑んでくれる。間近で花が咲いたような、笑顔だった。
「あたしのファーストキス、大切に取っておいてよかった」
そして頬を赤らてはにかみながら、そんな嬉しいことを言ってくれた。
(・・・俺は、何をしているんだ!?)
自分の過去に浸り、未成年の女の子を心配させ、ファーストキスまで使わさせてしまったのだ。
「ごめ──」
とっさに謝罪の言葉を口にしようとて、俺は息をのむ。
レイナは謝罪など求めていない。
目をつむりながら差し出された彼女の唇は、別のモノを求めていた。
艶やかで、もぎたての果物の様な瑞々しさをもつ唇が、目の前に差し出される。
俺はその柔らかな唇に吸い込まれるように、自身の唇を重ねた。
唇同志がギリギリ触れ合うキス。何度かふれあい、唇の感触を確かめる。
タイミングを見計らって、ゆっくり舌を入れる。
「んっ!?」
予想外の行為にびっくりしたのか、レイナの舌は戸惑いを見せる。
「──くちゅくちゅくちゅ」
しかし次第に積極的に舌を絡めてくれた。ディープキスが好きではない女は意外に多いが、レイナは気に入ってくれたようだ。
静かな寝室で、淫靡な音だけが響く。
「・・・さすがセイオウ様。キスもすごい、です。ちょっと、びっくりしちゃった」
レイナの反応からして、ディープキスはこの世界はないらしい。
「まだまだこんなものじゃないさ。これからだぞ」
「お、お~」
レイナは驚きつつも、変なかけ声で頑張りの意を見せてくれるのだった。
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