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第36話 ボディソープ政治
しおりを挟む「ふふふ、昨夜はお楽しみでしたね❤」
正午になってマイヤ事務官たちと共に屋敷にやってきたエリス姫は、開口一番に嬉しそうにそんなセリフをつぶやいた。
この姫は、こういうゲームの知識をどこで手に入れているのだろう?
「まあな。姫のおかげだよ、いろいろと感謝する」
俺は素直に感謝の意を述べる。正確には昨夜どころかついさっきまでお楽しみだったのだが、それは黙っておくことにする。
「む、雰囲気が、変わられましたね」
姫が俺を見ながら目を細める。
「そんなに変わっていないと思うが?」
「いいえ、変わられました。レイナはよく仕えている様ですね、結構な事です」
姫は満足そうにうなづく。
「我が国には『英雄は女たちが作る』ということわざがあります。レイナの献身のおかげで、セイオウ様が英雄に近づいたと言えるでしょう」
「英雄か・・・」
別に英雄になんてなりたいとは思わないが、姫のいう事は一理あった。
女性にもてると余裕ができて、男性ホルモンがでる。それが仕事に良い影響を与え、さらにモテるという好循環になる。
できる男がキャバクラに通うのも、疑似的にでもモテる気分になり、男性ホルモンをだすためだ。
「こちらがセイオウ様の魔法で作り出した、〝ボディソープ〟なるものですか」
姫は、俺が先ほど作った高級ボディソープの山(500本くらい)を眺めながら、感嘆の声をあげる。
「素晴らしい数です、それになんと良い匂いなのでしょう」
「レイナが俺のレベルを上げてくれたおかげだ」
「それは結構な事です。いくつくらいレベルが上がったのでしょうか?」
「レベルは18上がった」
「それはそれは。
──レイナ、大義でした。これからもセイオウ様にお仕えするように」
姫はレイナの方を向きながら、厳かに称賛の言葉を述べる。
「あ、ありがとうございます、姫様」
俺の側で緊張した面持ちだったレイナは、感謝の意を返す。
「レイナのおかげで予想以上に俺のレベルと魔力量が上がったので、計画を修正しようと思う」
「はい。ぜひお聞かせください」
「まず姫に対してだが、10本ほどボディソープを持ち帰り、城で使ってほしい」
「わたくしが使うだけで、いいのでしょうか?」
「ああ、王家御用達のブランドイメージが欲しい。手を洗うのにも使えるので、一日に何回も手を洗って宣伝してほしいのだ」
「わたくしが使う事によって、商品の価値があがるのですね。承知いたしました」
「マイヤ事務官にも頼みがある」
「何なりおおせください」
姫の側に控えていたマイヤ事務官が、直立不動の姿勢で答える。
「ボディソープを80本を、大商人アブドルに届けてほしい。あの男ならきっと商売仲間に配り、国外に宣伝してくれるだろう。できれはマイヤ事務官自身が俺の代理として出向いてほしいが、頼めるか?」
「もちろんです。あと〝頼む〟ではなく、ご命令ください」
「その際、俺のレベルが大量に上がったことを伝えておいてほしい」
「了解いたしました。ただちに準備に入ります」
マイヤ事務官は親衛隊数名にボディソープを運ばさせると、足早に部屋をでていく。
「どうしてマイヤ事務官に任せられたのですか?」
「理由はいくつかあるが、有能な事務官である彼女を使者として使うことで、この国での俺の地位が上がったことをアブドルに伝えたかったからだ。その方が、今後の仕事がやりやすくなる」
「なるほど、彼女の事を評価しておられるのですね」
「まあな」
裁縫工房の経営再建に失敗したとはいえ、事務官としては有能な女だった。
「次にアブドルの元に行くときは、また金を借りに行くことになるだろうからな」
その時、彼の中で俺の地位が上がっていた方が、話がしやすくなるはずだ。
「カノン親衛隊長。ボディソープ100本を親衛隊に与える。持ち帰って、宿舎で使ってほしい」
「我々が、いただけるのでありますか?」
俺の命令にカノン親衛隊長が、驚きの声をあげる。
「ああ。訓練や任務で汗はかくだろう。君たちも使ってくれ」
「感謝いたします。皆喜びます」
敬礼し、謝意を述べるカノン。親衛隊の士気をあげるために使えるのなら、安いものだ。
「レイナ、俺の使者として、ボディソープ100本を裁縫工房の宿舎に届けてくれ。これも自由に使ってくれかまわない」
「いいの? ・・・じゃなかった。よろしいのでしょうか、旦那様?」
「ああ、裁縫工房の女性たちの協力が不可欠だからな。届け終わったら、その足で女達と一緒に裁縫工房まで来てくれ」
「わかりました。ありがとうございます、みんな喜ぶと思います」
レイナは嬉しそうに一礼すると、親衛隊数名と共に、ボディソープを運び出していく。
「なぜ、レイナ自身に行かせたのですか? 代理の者でもよかったでしょうに」
再び興味深そうに質問してくる姫。
「裁縫工房の女たちのレイナに対する支持を、より強固にしたかったんだ。たった一晩で素敵な贈り物を持ち帰ったレイナの古巣での株は上がるだろう」
加えて報酬の面もある。頑張ってくれたレイナに花を持たせたかった。
「なるほど、素晴らしい判断です」
「残り200本は、娼館に運び込んでおいてくれ。使い方は後で説明する」
「はい。残りの親衛隊員たちに命じておきます。・・・しかし、たった一日でセイオウ様は見違えましたね」
「そうか?」
「はい。判断は全て的確で、人の使い方も適切だと思います」
「余ったボディソープを最大限に有効活用しているだけだ。別に褒められることをしている認識はないが」
「ご謙遜を。このままどんどん皆を引っ張っていってください。わたくしも含めて」
「ふむ。では姫にも頼みたいことがあるのだが」
「何なりと仰せください」
俺は姫だけに聞こえるように、そっと頼みを伝える。
「むむむ、それはなかなかの依頼ですね」
「そうかもしれない。だが姫にしかできないことだ」
「・・・ふう、わかりました。レイナ達だけに頼るわけにもいきませんしね」
エリス姫はあっさりと承諾してくれる。マイヤ事務官やカノン隊長がいたら、不敬だと怒られてしまうような内容だったが、何とかしてくれそうだ。
「では準備ができたら俺たちも裁縫工房へいこう」
「わかりました」
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