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戦争準備3 ユリの武器と決意
しおりを挟む「旦那様、それはちょっとセンスないと思うよ?」
珍しく反対するレイナ。特にカノン隊長は、不満そうな顔を隠さなかった。
「セイオウ様、その名は我が親衛隊への侮辱です。皆、男と同じ武器を使えるように必死に訓練に励んでいるのです」
「それは知っている」
「女槍という名をつけられたら、駐屯兵団の男達はこの武器を使う我々を馬鹿にしてくるでしょう。新しい武具を採用するにしても、その名前だけは、つけないでいただきたい」
「駐屯兵団の男達に馬鹿にさせるのが、目的なんだ」
「どういう事でしょう?」
「強力な武器を駐屯兵団に使わせたくない。そのために、女槍や女弓と名付け、彼らが使いにくいようにしたいんだ」
優れた武器は、必ず模倣される。それは戦史の必然だ。それを遅らせるには、彼らの男としてのプライドを刺激するのが手っ取り早かった。
「・・・女性の親衛隊員達を、侮辱されているわけではないのですか?」
「もちろんだ。俺は女性でも命がけで任務に励む君たちを、尊敬している」
俺の言葉は偽りない真実だった。祖国のため、同胞の為に、女でも武器を持つ彼女たちの姿は崇高なものだ。
「・・・」
俺の言葉にカノン隊長は、言葉を失い黙り込む。あくまで敵を欺くための戦略だと理解したのだろう。
「それでも、その名をつけるのだけは止めてください。隊員の士気にかかわります」
「ふむ・・・」
現場の士気にかかわるのは確かに問題だった。指導者たるもの、現場の士気をあげるのも大切な役割だからだ。
「旦那様、あたしに考えがあるんだけど、いいかな?」
レイナが控えめに意見を述べてきた。
「なんだ?」
「要は、この武器に男の人が使いにくい名前をつければいいんだよね? じゃあ、すごくかわいい名前を付けたらどうかな。例えばお花の名前とか」
「花の名前か」
「フリージアの名前の由来は野花だとされています。花ならば、親衛隊の武器のシンボルにしてもおかしくありません。そうですね、カノン隊長?」
「はい、姫様。花ならば、皆喜ぶでしょう」
「ふむ、では、できるだけ清楚で可憐な花がいいな」
その方が男達が使いにくいからだ。
「ユリなんてどうだろう? 旦那様」
「ユリ・・・リリィか」
ユリにはこの世界でも清純な乙女、可憐、無垢な少女の意味があった。さらに転じて女性同性愛などの意味がある点も、同じだった。
「リリィ・ボウ。リリィ・スピア。リリィ・カタフラクトか」
「うん、とってもかわいいと思う。多分、男の兵士さんはみんな、使いにくく感じるんじゃないかな?」
「よし、それで行こう。キリリン、職人を集めて量産に取り掛かってくれ」
「わかりましたでごわす」
「完成したら裁縫工房でユリの刺繍や絵をかいて、思いっきり可愛くするね」
「それはいい」
可愛ければ可愛いほど良い。この国の男達が使いにくいからだ。
「最後に親衛隊の中で特に優れた人物30名に、士官教育を施してほしい。一人30名の民兵を指揮できるようにだ。これで有事の際に900名の兵士を動員できる。もちろん民兵の名簿を作る作業も並行して頼む」
いかに簡単な武器を作り民兵を動員しても、それを指揮する士官の育成には時間がかかるからだ。
「わかりました。わたくしの名で命じましょう」
事実上の動員準備も、エリス姫は眉一つ動かさずに承諾してくれる。
「ただ一つ聞きたいことがあります」
姫は、改まった表情で俺に問いかけてきた。
「セイオウ様は、戦争をなされるおつもりですか?」
その場の全員が思っていたであろう質問を、姫は問うてきた。俺の大幅な軍備増強案は、どう考えても戦争準備に見えるだろう。
「・・・治安を回復させ、駐屯兵団に頼らずともフリージアが存続できるようにしたい。まずはそれからだ」
「その後は、駐屯兵団を追い出すおつもりですか?」
「それは俺ではなくて、姫とこの国の国民が決める事だ」
「わたくしはセイオウ様個人のご意見を伺いたいのです」
判断から逃げようとする俺に対し、逃がすまいと質問を続ける姫。
皆の視線も俺に注がれている。誤魔化すことはできない様だ。
俺は深呼吸し、慎重に言葉を選びながら見解を述べる。
「俺の役割は、フリージアの再建だ。新しい産業を興し、この国を豊かにする約束だ。実際、この国は豊かになりつつある」
「おっしゃる通りです」
「次に治安の回復が不可欠だ。豊かになった国は、その富を守らなければいけない」
裁縫工房や娼館の女性たちが体を張って稼いだ富を、何としても守る必要があった。
「わたくしがお聞きしたいのはその後です。治安を回復した後は、どうされますか?」
静かだが、刺すような鋭い姫のまなざし。周りを見るとレイナ達も、同じようなまなざしで俺を見つめていた。
「・・・駐屯兵団と、ひいてはゼレス王国と共存できるなら今のままでよいと思う。ただ、連中がフリージアを骨の髄まで搾り取るつもりなら──」
俺は一呼吸し、次の言葉を発した。
「──戦うことを考えるべきだ」
俺の正直な意見に、エリス姫は無言でうなづいてくれた。
「わたくしも同じ考えです」
誰も異論をはさむ者はいない。皆、同じ意見の様だった。
「どちらにしろ、まずは治安の回復だ。国としての実力を持ち、そのうえで駐屯費の減額交渉を行う」
今やるべきことをやるだけだ。後の事は、後で考えよう。
「はい。全てわたくしの責任で命じます」
エリス姫ははっきりとした口調で、承知してくれた。
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