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しおりを挟むルナシークがレストの家で過ごしはじめてから一週間がたった。
意外にもレストが仕事中はルナシークは静かに本を読んだり家の外に出ていたりして、レストは仕事に集中しやすく助かっていた。
ただし、仕事以外は何かにつけてレストにちょっかいを出してはいたが。
レストは日課の水汲みをしながら、一息をつく。
「ふぅ…ん?」
井戸の向こうから見知った人が馬に乗って走って来るのが見え、レストは桶を地面に置いた。
「レイズ様?」
「…レストさんっ!」
「え?えぇ!?」
いつもは三ヶ月おきにしか来ないレイズが現れて驚いているレストを、ひらりと馬から降りたレイズがぎゅっと抱き締める。
突然抱き締められたレストは、赤くなってあたふたするしかない。
「あの、第二王子が貴方の家に上がり込んだって聞いて……心配になって…」
「…レイズ様…」
「大丈夫ですか?なにもされてないですか?」
レイズはレストを抱き締める腕に力を込めながら、いつもより余裕のない声で問いかける。
少し落ち着いたレストは宥めるようにレイズの背中をポンポンとリズムよく叩いた。
「す、すみません…取り乱しました」
「いえ、心配してくださってありがとうございます」
ゆっくりとレストを離したレイズは困ったように眉を下げた。レストはレイズを安心させるように笑みを向ける。
「私は大丈夫です」
「第二王子は手が早いと聞いているので…」
「カルトも居るし部屋には鍵を掛けています。ルナシーク様も私をからかって遊んでいるだけで、手は出されていません。それに、意外と良いところもあったりとか…」
ルナシークはせいぜいからかうようにレストを抱き締めるくらいで、それ以上の事はして来なかった。
レストが仕事中の時は邪魔をしてこないし、食費もきちんとくれる。たまに村人達の手伝いで薪を割っている姿や子供をあやしている姿を見て、思ったより悪い人ではないのかもしれないと最近は思い始めている。
もっとも舞踏会や求婚、家に来た時ことを忘れたわけではないが。
「……庇うのですね…」
「え?」
「いえ、まさか…第二王子の事が好きなんですか?」
レイズの言葉にぶんぶんと首を横に振る。少し見直したが好きになったわけではない。
その様子を見たレイズは目もとを緩めて安心したように笑う。
「良かった…。でも、何かあったら私を頼って下さい」
「はい、ありがとうございます」
「レストさん。良ければ週に一度、会ってもらえませんか?勿論、仕事は関係なく」
レストの手をそっと握り優しい声で真剣に問い掛けるレイズに、レストは戸惑いながらも頷く。
「ありがとうございます、また会いにきますね」
「…はい…」
「…名残惜しいですが、もう行かないと…。くれぐれも第二王子に気を付けてくださいね」
念押しするようにレストにそう言うと、レイズは慌ただしく村から去っていった。
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