悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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 レオンとドロシーの婚約発表がされると噂されている舞踏会の当日。

 ヴォルフは自室の鏡の前に立っていた。
 ザックやヴォルフは社交の場で王や王太子の側に控える事も多く、社交界用の見栄えの良い騎士服を何着か持っている。今、身にまとっている装飾の多い騎士服もその中の一着だ。

 自身の姿を見ながら、ふと昨日の事を思い出す。
 実は昨日、例の侍女長がレナシリアによって断罪されていた。ヴォルフはその場に居なかったが、どうも最後はレフィーナに突進して返り討ちにあったらしい。ザックが面白そうに話していた。その話のついでにレナリシアとレフィーナが話をしたとも教えてくれた。


「…行くか」


 ふぅ、と小さく息を吐き出して、ヴォルフは部屋を後にした。廊下を歩いて行けばレオンの姿が見えて、そちらに向かう。

 部屋まで迎えに行く予定だったのだが、と考えていればレオンの影に一人の令嬢の姿が見えた。何度か会ったことのあるその令嬢の名前は確か、ミリーだったはずだ。

 そのミリーはレオンにべったりと寄り添いながら、ヴォルフを睨みつけてきた。まるで邪魔するなとでも言うのかのような鋭い視線を無視して近づく。


「レオン殿下、お部屋まで迎えに行く予定でしたが…」

「あぁ、ごめんね。時間が思ったよりあったから少し歩いていたんだ」


 ちらりとミリーを見てから、レオンはそう言った。それにヴォルフはすぐにピンとくる。
 確かザックが今日のドロシーはレフィーナが世話をすると言っていた。おそらく心配してドロシーの所に行こうとしていたのだろう。そしてミリーに捕まり、行けなくなった。迂闊うかつにドロシーの名前を出すのも良くないから、レオンは言葉を濁したようだ。


「ねぇ、レオン殿下ぁ。今日は私をエスコートしてくださいな」

「ごめんね。私は君のエスコートは出来ないんだ」

「そんなことおっしゃらないでくださいな。ねぇ…レオン殿下」


 少し潤んだ瞳でレオンに迫るミリーにヴォルフは気分が悪くなるが、ぐっと堪える。レフィーナのように苛烈な感じも駄目だったが、こうした迫るタイプも苦手だ。
 レオンも迷惑そうな雰囲気をかもし出している。相手は令嬢なので無理やり引き離すわけにもいかず、どうするかと考えていれば、背後から声を掛けられた。


「レオン殿下、ドロシー様をお連れいたしました」


 振り返ればレフィーナが立っていて、レオンの雰囲気が固くなるのを感じた。この様子ではレフィーナの演技の事は気付いていないようだ。レフィーナの後ろにいるらしいドロシーは影になって見えない。
 そんなレオンとヴォルフの間からミリーが出てきて、レフィーナを見下した目で見た。


「あらぁ、レフィーナ様ではありませんか」

「ミリー様」

「ふふっ、今レオン殿下にエスコートをお願いしてるのよ。ねぇ、レオン殿下」


 甘い吐息をこぼしながら、ミリーがレオンに胸を押し付けて可愛らしく同意を求めた。だが、嫌がっているレオンが、ましてやドロシーのいる前で同意するはずもない。
 ヴォルフは観察するようにレフィーナに視線を移すが、レオンに絡みつくミリーに何の感情も湧いていないようだ。そんなことよりも自分の後ろにいるドロシーの事を気遣っている。


「ミリー嬢。手を放してくれないか」

「嫌ですわ!私をエスコートしてくださいな」

「ミリー嬢」


 とうとう痺れの切れたレオンが冷たく言えば、ようやくミリーが離れる。それを見ていたレフィーナが後ろに居たドロシーの手を取って、前に出した。
 誰が見ても可愛らしいと思うようなドロシーにレオンが見惚れるのが分かった。


「ミリー様。申し訳ありませんが、レオン殿下はドロシー様をエスコートなさいます。お引取りくださいませ」

「…そういうことですので、他の方を探した方がよろしいかと」


 笑顔で言い放ったレフィーナに続いて、ヴォルフはそう告げた。そうすればこの場に味方は一人も居ないと分かったのか、ミリーはドロシーを睨んでから去って行く。
 先程からレオンになにか言って欲しそうにしているドロシーに気付いて、ヴォルフは小さくレオンの名を呼ぶ。


「レオン殿下」


 ヴォルフの呼びかけに、やっと意識が戻ったらしいレオンが少し頬を上気させて、口を開いた。


「あ…、可愛いよ、ドロシー」

「レフィーナ様に準備して頂いたんです」

「…レフィーナに…?」

「凄く手際よく準備して頂いて…」


 レフィーナがドロシーの準備をすることはレオンも知っていたが、それでも疑わしげな視線をレフィーナに向ける。しかし、ドロシーが喜んでいる以上、何か言うつもりはないようだ。

 そんなレオン達を見ていたヴォルフは何気なく懐中時計を開いて時間を確認する。そして思っていた以上に過ぎていた時間に顔をしかめた。


「レオン殿下、お時間です」

「あぁ、そうだね。ドロシー、行こうか」


 レオンは頷いて、ドロシーをエスコートしながら去っていく。先程のミリーのこともあるので、会場までは二人きりになりたいだろうと、ヴォルフはその場に留まることにした。会場までは騎士達が配備されているので心配ないし、井戸で確認できなった真相を聞いておきたい。
 そう考えてヴォルフは、ドロシーへ手を振り返しているレフィーナに、金色の瞳を向けたのだった。
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