18 / 97
18
しおりを挟む
レオンとドロシーの婚約発表がされると噂されている舞踏会の当日。
ヴォルフは自室の鏡の前に立っていた。
ザックやヴォルフは社交の場で王や王太子の側に控える事も多く、社交界用の見栄えの良い騎士服を何着か持っている。今、身に纏っている装飾の多い騎士服もその中の一着だ。
自身の姿を見ながら、ふと昨日の事を思い出す。
実は昨日、例の侍女長がレナシリアによって断罪されていた。ヴォルフはその場に居なかったが、どうも最後はレフィーナに突進して返り討ちにあったらしい。ザックが面白そうに話していた。その話のついでにレナリシアとレフィーナが話をしたとも教えてくれた。
「…行くか」
ふぅ、と小さく息を吐き出して、ヴォルフは部屋を後にした。廊下を歩いて行けばレオンの姿が見えて、そちらに向かう。
部屋まで迎えに行く予定だったのだが、と考えていればレオンの影に一人の令嬢の姿が見えた。何度か会ったことのあるその令嬢の名前は確か、ミリーだったはずだ。
そのミリーはレオンにべったりと寄り添いながら、ヴォルフを睨みつけてきた。まるで邪魔するなとでも言うのかのような鋭い視線を無視して近づく。
「レオン殿下、お部屋まで迎えに行く予定でしたが…」
「あぁ、ごめんね。時間が思ったよりあったから少し歩いていたんだ」
ちらりとミリーを見てから、レオンはそう言った。それにヴォルフはすぐにピンとくる。
確かザックが今日のドロシーはレフィーナが世話をすると言っていた。おそらく心配してドロシーの所に行こうとしていたのだろう。そしてミリーに捕まり、行けなくなった。迂闊にドロシーの名前を出すのも良くないから、レオンは言葉を濁したようだ。
「ねぇ、レオン殿下ぁ。今日は私をエスコートしてくださいな」
「ごめんね。私は君のエスコートは出来ないんだ」
「そんなことおっしゃらないでくださいな。ねぇ…レオン殿下」
少し潤んだ瞳でレオンに迫るミリーにヴォルフは気分が悪くなるが、ぐっと堪える。レフィーナのように苛烈な感じも駄目だったが、こうした迫るタイプも苦手だ。
レオンも迷惑そうな雰囲気を醸し出している。相手は令嬢なので無理やり引き離すわけにもいかず、どうするかと考えていれば、背後から声を掛けられた。
「レオン殿下、ドロシー様をお連れいたしました」
振り返ればレフィーナが立っていて、レオンの雰囲気が固くなるのを感じた。この様子ではレフィーナの演技の事は気付いていないようだ。レフィーナの後ろにいるらしいドロシーは影になって見えない。
そんなレオンとヴォルフの間からミリーが出てきて、レフィーナを見下した目で見た。
「あらぁ、レフィーナ様ではありませんか」
「ミリー様」
「ふふっ、今レオン殿下にエスコートをお願いしてるのよ。ねぇ、レオン殿下」
甘い吐息をこぼしながら、ミリーがレオンに胸を押し付けて可愛らしく同意を求めた。だが、嫌がっているレオンが、ましてやドロシーのいる前で同意するはずもない。
ヴォルフは観察するようにレフィーナに視線を移すが、レオンに絡みつくミリーに何の感情も湧いていないようだ。そんなことよりも自分の後ろにいるドロシーの事を気遣っている。
「ミリー嬢。手を放してくれないか」
「嫌ですわ!私をエスコートしてくださいな」
「ミリー嬢」
とうとう痺れの切れたレオンが冷たく言えば、ようやくミリーが離れる。それを見ていたレフィーナが後ろに居たドロシーの手を取って、前に出した。
誰が見ても可愛らしいと思うようなドロシーにレオンが見惚れるのが分かった。
「ミリー様。申し訳ありませんが、レオン殿下はドロシー様をエスコートなさいます。お引取りくださいませ」
「…そういうことですので、他の方を探した方がよろしいかと」
笑顔で言い放ったレフィーナに続いて、ヴォルフはそう告げた。そうすればこの場に味方は一人も居ないと分かったのか、ミリーはドロシーを睨んでから去って行く。
先程からレオンになにか言って欲しそうにしているドロシーに気付いて、ヴォルフは小さくレオンの名を呼ぶ。
「レオン殿下」
ヴォルフの呼びかけに、やっと意識が戻ったらしいレオンが少し頬を上気させて、口を開いた。
「あ…、可愛いよ、ドロシー」
「レフィーナ様に準備して頂いたんです」
「…レフィーナに…?」
「凄く手際よく準備して頂いて…」
レフィーナがドロシーの準備をすることはレオンも知っていたが、それでも疑わしげな視線をレフィーナに向ける。しかし、ドロシーが喜んでいる以上、何か言うつもりはないようだ。
そんなレオン達を見ていたヴォルフは何気なく懐中時計を開いて時間を確認する。そして思っていた以上に過ぎていた時間に顔をしかめた。
「レオン殿下、お時間です」
「あぁ、そうだね。ドロシー、行こうか」
レオンは頷いて、ドロシーをエスコートしながら去っていく。先程のミリーのこともあるので、会場までは二人きりになりたいだろうと、ヴォルフはその場に留まることにした。会場までは騎士達が配備されているので心配ないし、井戸で確認できなった真相を聞いておきたい。
そう考えてヴォルフは、ドロシーへ手を振り返しているレフィーナに、金色の瞳を向けたのだった。
ヴォルフは自室の鏡の前に立っていた。
ザックやヴォルフは社交の場で王や王太子の側に控える事も多く、社交界用の見栄えの良い騎士服を何着か持っている。今、身に纏っている装飾の多い騎士服もその中の一着だ。
自身の姿を見ながら、ふと昨日の事を思い出す。
実は昨日、例の侍女長がレナシリアによって断罪されていた。ヴォルフはその場に居なかったが、どうも最後はレフィーナに突進して返り討ちにあったらしい。ザックが面白そうに話していた。その話のついでにレナリシアとレフィーナが話をしたとも教えてくれた。
「…行くか」
ふぅ、と小さく息を吐き出して、ヴォルフは部屋を後にした。廊下を歩いて行けばレオンの姿が見えて、そちらに向かう。
部屋まで迎えに行く予定だったのだが、と考えていればレオンの影に一人の令嬢の姿が見えた。何度か会ったことのあるその令嬢の名前は確か、ミリーだったはずだ。
そのミリーはレオンにべったりと寄り添いながら、ヴォルフを睨みつけてきた。まるで邪魔するなとでも言うのかのような鋭い視線を無視して近づく。
「レオン殿下、お部屋まで迎えに行く予定でしたが…」
「あぁ、ごめんね。時間が思ったよりあったから少し歩いていたんだ」
ちらりとミリーを見てから、レオンはそう言った。それにヴォルフはすぐにピンとくる。
確かザックが今日のドロシーはレフィーナが世話をすると言っていた。おそらく心配してドロシーの所に行こうとしていたのだろう。そしてミリーに捕まり、行けなくなった。迂闊にドロシーの名前を出すのも良くないから、レオンは言葉を濁したようだ。
「ねぇ、レオン殿下ぁ。今日は私をエスコートしてくださいな」
「ごめんね。私は君のエスコートは出来ないんだ」
「そんなことおっしゃらないでくださいな。ねぇ…レオン殿下」
少し潤んだ瞳でレオンに迫るミリーにヴォルフは気分が悪くなるが、ぐっと堪える。レフィーナのように苛烈な感じも駄目だったが、こうした迫るタイプも苦手だ。
レオンも迷惑そうな雰囲気を醸し出している。相手は令嬢なので無理やり引き離すわけにもいかず、どうするかと考えていれば、背後から声を掛けられた。
「レオン殿下、ドロシー様をお連れいたしました」
振り返ればレフィーナが立っていて、レオンの雰囲気が固くなるのを感じた。この様子ではレフィーナの演技の事は気付いていないようだ。レフィーナの後ろにいるらしいドロシーは影になって見えない。
そんなレオンとヴォルフの間からミリーが出てきて、レフィーナを見下した目で見た。
「あらぁ、レフィーナ様ではありませんか」
「ミリー様」
「ふふっ、今レオン殿下にエスコートをお願いしてるのよ。ねぇ、レオン殿下」
甘い吐息をこぼしながら、ミリーがレオンに胸を押し付けて可愛らしく同意を求めた。だが、嫌がっているレオンが、ましてやドロシーのいる前で同意するはずもない。
ヴォルフは観察するようにレフィーナに視線を移すが、レオンに絡みつくミリーに何の感情も湧いていないようだ。そんなことよりも自分の後ろにいるドロシーの事を気遣っている。
「ミリー嬢。手を放してくれないか」
「嫌ですわ!私をエスコートしてくださいな」
「ミリー嬢」
とうとう痺れの切れたレオンが冷たく言えば、ようやくミリーが離れる。それを見ていたレフィーナが後ろに居たドロシーの手を取って、前に出した。
誰が見ても可愛らしいと思うようなドロシーにレオンが見惚れるのが分かった。
「ミリー様。申し訳ありませんが、レオン殿下はドロシー様をエスコートなさいます。お引取りくださいませ」
「…そういうことですので、他の方を探した方がよろしいかと」
笑顔で言い放ったレフィーナに続いて、ヴォルフはそう告げた。そうすればこの場に味方は一人も居ないと分かったのか、ミリーはドロシーを睨んでから去って行く。
先程からレオンになにか言って欲しそうにしているドロシーに気付いて、ヴォルフは小さくレオンの名を呼ぶ。
「レオン殿下」
ヴォルフの呼びかけに、やっと意識が戻ったらしいレオンが少し頬を上気させて、口を開いた。
「あ…、可愛いよ、ドロシー」
「レフィーナ様に準備して頂いたんです」
「…レフィーナに…?」
「凄く手際よく準備して頂いて…」
レフィーナがドロシーの準備をすることはレオンも知っていたが、それでも疑わしげな視線をレフィーナに向ける。しかし、ドロシーが喜んでいる以上、何か言うつもりはないようだ。
そんなレオン達を見ていたヴォルフは何気なく懐中時計を開いて時間を確認する。そして思っていた以上に過ぎていた時間に顔をしかめた。
「レオン殿下、お時間です」
「あぁ、そうだね。ドロシー、行こうか」
レオンは頷いて、ドロシーをエスコートしながら去っていく。先程のミリーのこともあるので、会場までは二人きりになりたいだろうと、ヴォルフはその場に留まることにした。会場までは騎士達が配備されているので心配ないし、井戸で確認できなった真相を聞いておきたい。
そう考えてヴォルフは、ドロシーへ手を振り返しているレフィーナに、金色の瞳を向けたのだった。
26
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる