悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「…お前、この後の予定は?」

「買い物をしようと思ってたんですが…今日は帰った方が安全でしょうね」


 残念そうな様子のレフィーナにヴォルフはふっと笑って言葉を紡ぐ。


「…俺で良ければ付き合うぞ」

「え?」

「どうせ見回りをしていたんだ。お前に付き添うくらい問題ない」


 今日の仕事は騎士達の抜き打ちチェックで、ヴォルフ一人の仕事だ。それならレフィーナに付き添いながら見回りをすればいい、と考えたのだ。もちろん仕事を疎かにするつもりはない。
 しかし、レフィーナは申し訳無さそうな表情を浮かべた。

「でも…」

「城に帰るにしろ、このまま買い物するにしろ、俺はお前に付き添わなければならないんだ。だったら買い物に付き添いつつ見回りをして、一緒に帰る方が楽だろ」

「…では、お言葉に甘えて…」


 少し言いくるめるような言い方になってしまったが、レフィーナはヴォルフの提案を受け入れた。


「で、どこに行くんだ?」

「そうですね…まずは…」

「まずは?」

「服屋に行こうと思います」

「そうか。じゃあ行くぞ」


 裏路地から大通りに向かって歩き始める。隣を歩くレフィーナは何事か考えている様子だ。
 そんなレフィーナから視線を外して辺りを見回す。裏路地はしん、としていて、二人の足音だけが響いている。今の所は不審な人物はいないようだ。

 裏路地から大通りに合流する境目まで来るとヴォルフは足を止めた。


「ヴォルフ様?」


 レフィーナが隣で不思議そうな声を出す。

 大通りは人通りも多く、はぐれやすい。はぐれてしまえばレフィーナが危険だし、自分と一緒にいると分かれば不審者達への牽制になるだろう、とヴォルフは考えをまとめると前を向いたまま、口を開く。


「……腕に掴まっていろ。はぐれたら面倒だ」


 流石に恋人でもないのに手を繋ぐことはできないので、そう提案した。そうすれば納得したのか特に何も言わずに、レフィーナがヴォルフの腕にそっと手を添える。
 服越しにレフィーナの体温を感じて、ほんの少しだけ緊張した。


「しっかり掴んでおけよ」

「…ありがとうございます」


 添えられた手が腕をしっかり掴んだのを感じて、ヴォルフは大通りへ足を踏み入れた。早く歩きすぎないように気をつけながら、ヴォルフは注意深く辺りを観察する。時々見回り中の騎士達の様子を見たり、怪しい人物がいないか見回したりしていればレフィーナがくいっと軽く腕を引いた。


「ヴォルフ様。あのお店です」

「ん?あぁ、分かった」


 レフィーナが指さした方を見て頷く。そして、店の前まで移動すれば、レフィーナが腕から手を離した。あっさりと離れた手をなんとなく目で追っていれば、レフィーナが口を開く。


「少し時間がかかると思いますし、お店の中ならよっぽど安全でしょうから…ヴォルフ様は仕事をしていてください」


 レフィーナの言葉にそういえばアードが女性の買い物は長い、なんて言っていたな、と思い出す。レフィーナもヴォルフが一緒では買い物もし辛いだろうし、店の中には店員も客もいるので安全だろう。そう考えて、ヴォルフはすぐに頷いて同意を示す。


「そうだな。…勝手に店から一人で出るなよ」

「分かってます。では、また後で」

「あぁ」


 レフィーナが店の中に入るのを見届けてその場を離れる。店がぎりぎり見える場所まで移動して少しの間見張るが、不審な人物が近づく事は無かった。そこで店から視線を外して近くの騎士達の様子を見に行こうとすれば、くん、と服の端を引っ張られる。
 振り返って見れば穏やかな表情の老婆がいた。


「すまないが、手を離してもらえないか?」

「おや、なにか買っていってくれると思ったのに残念だねぇ…」


 老婆の言葉に視線を老婆の背後に投げる。どうやらこの老婆は花屋を営んでいるようだ。店の前で立ち止まった事で客だと勘違いしたらしい。
 紛らわしい所で立ち止まっていた事を詫びようとすれば、それよりも早く老婆が赤い花を一輪差し出した。


「これはねぇ、アネモネっていうんだよ」

「は、はぁ…」

「ふふ、赤いアネモネの花言葉は…君を愛す。どうだい、さっき腕を組んで歩いてたお嬢さんに送ってみたら」


 また花言葉か、とヴォルフは苦笑いを浮かべる。どうやらこの老婆は先程レフィーナといたところを見ていたらしい。しかし、ヴォルフにはその花をレフィーナに渡す理由はないのだ。


「悪いが、あいつとはそんな関係じゃないんだ」

「ほっほっほ、そうなのかい?」

「あぁ。さっきのは、はぐれないようにしていただけだ」

「そうかいそうかい。それはすまなかったね…。また必要になったらいつでも来なさいな」


 納得したのか老婆はあっさりと頷いて、赤いアネモネをバケツの中に戻すと店の中へと引っ込んでいった。
 バケツの中に戻されたアネモネの姿が、まるで自分が見て見てみぬふりをしている心のようで、ヴォルフは苦い気持ちになる。

 …それでも、ヴォルフはまだその心に向き合えなかった。
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