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今日はレオン達の婚儀の為に働いた使用人達に、国王ガレンから労いの言葉とともに酒が振る舞われ、祝宴が行われる日だ。騎士は見回りなどの仕事があるが、事前にヴォルフとザックで話し合い、きちんと全員が楽しめるように仕事を組んである。
ヴォルフは昨夜から夜の見回りをしており、昼前にザックと交代で休むことになっていた。
そして、今朝の一番最初の仕事として、ヴォルフはその場に居た騎士達数人と共に、いつもは開かれている城門を重い閂でしっかりと閉じた。
今日一日は使用人達の休日となるため、来訪者は受け付けない事になっているのだ。
「よし、では、事前に伝えておいた時間まで見張りと見回りをするように」
「はい」
騎士達がしっかり頷いたのを見て、ヴォルフはその場を後にした。ヴォルフも昼前までは城内の見回りをする事になっている。
いつもとは違い人の少ない城内を暫く見回っていれば、時々騒がしい声が聞こえてくるようになってきた。好きなだけ酒が飲めるとあって、羽目を外す者も多いのだろう。騎士達も昨日の夜から今日の為に好きな酒やらつまみやらをいそいそと準備をしていた。酒にあまり強くない者が多いのだが、何故か皆して飲みたがるのだ。
ヴォルフも何回か付き合いで酒場に赴いた事があるが、大抵は3杯も飲めばべろべろの酔っぱらいが完成していた。
「あら、ヴォルフ様、おはようございます」
そう声を掛けてきたのは新しく侍女長になったカミラだ。何回か顔を合わせてはいたが、あまり話をしたことはない。
「おはようございます」
「今日は何処も騒がしいですね」
カミラの言葉に頷いて返事をする。それから少し考えて、口を開く。
「侍女の方達は酒はかなり飲みますか?」
「そうですね…、飲む者もいますが、多くの者はあまり飲まないでしょうね。それが何か?」
「もし酒が余れば、騎士達に譲っていただけないかと」
騎士達はそれなりに人数が多い。しかも、かなり飲む者も多い。もし酒が余るようなら回して貰おうと思ったのだ。べろべろに酔っ払った奴らが、仕事を終えた者達の分を律儀に残しておくはずがない、というのもある。
「えぇ、構いませんよ。余りそうなら、届けましょう」
「ありがとうございます。…あぁ、最後に一つだけ。メラファのことですが…」
「……メラファ?…私は知らない方ですが…」
「…そうですか…。ありがとうございました。それでは、失礼します」
確認するために聞いてみたが、やはりメラファの記憶はなくなっているようだ。怪訝そうな表情を浮かべるカミラに軽く頭を下げて、ヴォルフは再び歩き出す。
メラファがいた記憶は神の言った通り、レフィーナとヴォルフの二人にしか残っていないのだろう。
「おーい、ヴォルフ」
「アードか、どうかしたか?」
今度は後ろからアードが声をかけてきた。アードはヴォルフの隣に並ぶと、歩調を合わせて歩き出す。
「いやー。詰所で見回りの報告書を書いてたんだけど、すでに酔っ払いがうるさくて。早めに見回りに出たんだよ。ほら、ここ、俺の担当場所だろ」
「そうか」
「あー、あと数時間で交代だけど長いよな。早く酒飲みたい」
「昼より前に終われるんだ、我慢しろ。それにその後は一日休みだから好きなだけ飲めるだろ」
「そうだなー」
アードは酒のことでも考えているのか、だらしなく口元を緩めている。いつもなら殴って諌めるのだが、今日くらいはいいかとヴォルフは見なかった事にした。
そのままアードと共に見回りをして、交代の時間になったので、二人で騎士の詰所へと戻った。
詰所に入ればザックが座って酒を飲んでおり、その前にはザックによく似た顔立ちに濃いメイクをした男が座っていた。アードはその男に軽く頭を下げて、早速酒盛りに加わりに行った。
「あらぁん。ヴォルフちゃん、お久しぶりね~」
入ってきたヴォルフに気付いた男がひらひらと手を振る。インパクトの強い男はザックの双子の兄のダットだ。
「お久しぶりです」
「おぉ、ヴォルフは仕事終わりか。じゃあ、俺も仕事を始めるか」
「はい。後は頼みます」
「とりあえず、書類に目を通すか!」
グラスに残った酒を飲み干すと、ザックは自分の執務机に向かう。ザックは酒がヴォルフ以上に強く、少々の事では素面の時と変わらない。仕事前だからそんなに飲んではいないようで、しっかりとした足取りだ。
「ダットさんは何故こちらに?」
ダットに先程までザックが座っていた場所に座るように勧められ、ヴォルフはそこに腰をおろしながら問いかける。
「ふふ。実はダットちゃんに特別に招待してもらったのよ」
「そうなんですか」
「ほら、ヴォルフちゃんはもうお仕事終わりだから、どれだけでも飲めるでしょー」
新しいグラスを用意したダットがそれをヴォルフの前に置くと、とくとくと酒瓶から琥珀色の酒をグラスに注いだ。グラスの半分弱くらいまで琥珀色の酒が注がれると、ヴォルフはダットから酒瓶を受け取って、今度はダットの空のグラスに琥珀色の酒を注ぐ。
「ありがと、ヴォルフちゃん。…それじゃ、お仕事、お疲れ様」
ダットの言葉に返事をして、ヴォルフはグラスを持ち上げる。そして、同じくグラスを持ち上げたダットとグラスを軽く合わせ、ヴォルフはぐい、と琥珀色の酒を喉に流し込んだ。
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