52 / 97
52
しおりを挟む新婚旅行出発の時間が近づき、ヴォルフは城門で、護衛の騎士が全員いることをチェックする。
今回の新婚旅行では馬車が二台で、それを囲うようにして馬に乗った騎士達が護衛する事になっていた。御者台の横、馬車の真横、馬車の斜め後ろの両側に1名ずつ配置される。馬車は二台あるが、斜め後ろの護衛は後ろの馬車の御者台横も兼任するので、馬車の護衛は全部で10人だ。
他にも馬車より先に進んで安全を確かめる役割の者や、後方で荷物を運ぶ役割の者、最後尾で警戒する者などがいる。それらをヴォルフが統率し、道などの状況によって護衛の配置などを変えたりするのだ。因みにこの隊の中でヴォルフに次いで権力があるのはアードだったりする。
騎士達の殆どがヴォルフやアードよりも年上だが、二人の実力等は十分に分かっているので不満はない。
「よし、皆、長い道のりにはなるが気を抜かずに頼む」
「おう!了解!」
「あいよ!任せときな!」
野太い声でヴォルフの言葉に答えながら、騎士達はそれぞれの持場に向かう。ヴォルフは愛馬の手綱を持ちながら、時間をちらりと確認して従者達が乗る馬車の横で立ち止まった。
そうすれば、ドロシーの世話を終えたレフィーナがこちらにやってくる。レフィーナはヴォルフに気づくと、嬉しそうに表情を和らげた。
「ヴォルフ様!」
「レフィーナ、晴れて良かったな」
「そうですね。雨だと騎士の人達も大変ですし…」
「あー、レフィーナちゃんは優しいぃ…」
騎士を気遣うレフィーナに温かい気持ちになっていれば、それを台無しにするような声が割り込んできた。その声の主であるアードが、ひょいっとヴォルフの後ろから顔を出す。
それからデレデレとした表情でずいっとレフィーナの前に身を乗り出したので、ヴォルフはイラッとしてアードの襟首を掴んだ。そうすれば、前に身を乗り出すアードの首が必然的に絞まる。
「ぐ、ぐるしい…!」
「不用意に近づくな」
「ヴォルフ様…、死んじゃいますよ…」
「げほっげほっ!お前、容赦なさすぎだろ!あぁ、レフィーナちゃん!こんなんやめとけ!」
レフィーナの言葉に手を離してやれば、アードが涙目で咳き込みながら、そんな事を言い放った。しかも、ちゃっかりとレフィーナの片手を両手で握りしめている。
それにもやっとした黒い感情が湧き出てきて、ヴォルフは片眉をピクリと跳ね上げた。
祝宴の時の誤解はレフィーナがダットに否定した事で解けていたが、本当に恋仲になった事が何故か噂で広がり、結局騎士達は涙することになった。その噂はまたたく間に城中に知れ渡ったので、もちろんアードも知っている。
「アード。いい加減にしないと…」
「おぉ、怖い!ヴォルフ、眉間に皺ばっかり寄せてると、レフィーナちゃんに逃げられるぞー!」
「誰のせいだと思ってるんだ…あの野郎」
からかうような口調で言い逃げしたアードに、ヴォルフは眉間に皺を寄せたまま深い溜め息をつき、レフィーナに聞こえないように低い声で呟いた。
ヴォルフが嫉妬している事が面白いのだろうが、からかわれるヴォルフからしてみれば苛立ちが貯まるばかりだ。後で一発殴るか、などと些か物騒な事を考えながらもう一度深い溜め息をついて、気持ちを切り替える。
「もう出発しないとな」
「はい、そうですね」
出発前の少しの間にレフィーナと話そうとした時間を、アードによって潰されてしまった。もう少し話していたいが、まさかレオン達を待たせるわけにはいかない。
残念な気持ちを胸の中にしまって、ヴォルフは馬車に乗り込むレフィーナに手を貸した。レフィーナが席に着いたのを見届けて、ヴォルフは扉を閉める。
それからヴォルフは愛馬にひらりと跨って、出発の合図を出したのだった。
◇
レオンとドロシーの新婚旅行は特に何事もなく、予定通りに進んで行った。そして、馬車の旅を三日程繰り返した日の夕方、ヴォルフにとってはあまり来たくない街に到着した。
この街でドロシーの誘拐計画が実行されるのだ。ヴォルフの心を映したかのように、空には分厚い雲がかかって、今にも雨が降りそうな天気だった。
ヴォルフはレオンと共に、宿に入っていく。
────宿をちょっと爆破して、怖がらせなさい。
レナシリアの言葉を思い出してヴォルフは思わずため息をつきそうになるが、ぐっとそれを飲み込んだ。この宿は裏稼業のベルグの所有物でありアジトらしい。なので爆破しても問題ないのだが、過激すぎると思う。雨が降りそうなのは万が一を考えれば都合がいいが…。
爆破するとは言っても見せかけだ。すぐに火は消されるように準備はしてあるし、近隣住民にはレナシリアの名で説明と避難がされている。
「レオン殿下、ようこそいらっしゃいました!」
ヴォルフが考え事をしていれば、この宿の持ち主ということになっている領主が声を掛けてきた。この領主にも説明はされており、レオンとドロシーを引き離すという役目もある。
始まったレナシリアの計画にヴォルフは、騎士として命令に従うために気持ちを入れ替えた。
26
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる