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新婚旅行出発の時間が近づき、ヴォルフは城門で、護衛の騎士が全員いることをチェックする。
今回の新婚旅行では馬車が二台で、それを囲うようにして馬に乗った騎士達が護衛する事になっていた。御者台の横、馬車の真横、馬車の斜め後ろの両側に1名ずつ配置される。馬車は二台あるが、斜め後ろの護衛は後ろの馬車の御者台横も兼任するので、馬車の護衛は全部で10人だ。
他にも馬車より先に進んで安全を確かめる役割の者や、後方で荷物を運ぶ役割の者、最後尾で警戒する者などがいる。それらをヴォルフが統率し、道などの状況によって護衛の配置などを変えたりするのだ。因みにこの隊の中でヴォルフに次いで権力があるのはアードだったりする。
騎士達の殆どがヴォルフやアードよりも年上だが、二人の実力等は十分に分かっているので不満はない。
「よし、皆、長い道のりにはなるが気を抜かずに頼む」
「おう!了解!」
「あいよ!任せときな!」
野太い声でヴォルフの言葉に答えながら、騎士達はそれぞれの持場に向かう。ヴォルフは愛馬の手綱を持ちながら、時間をちらりと確認して従者達が乗る馬車の横で立ち止まった。
そうすれば、ドロシーの世話を終えたレフィーナがこちらにやってくる。レフィーナはヴォルフに気づくと、嬉しそうに表情を和らげた。
「ヴォルフ様!」
「レフィーナ、晴れて良かったな」
「そうですね。雨だと騎士の人達も大変ですし…」
「あー、レフィーナちゃんは優しいぃ…」
騎士を気遣うレフィーナに温かい気持ちになっていれば、それを台無しにするような声が割り込んできた。その声の主であるアードが、ひょいっとヴォルフの後ろから顔を出す。
それからデレデレとした表情でずいっとレフィーナの前に身を乗り出したので、ヴォルフはイラッとしてアードの襟首を掴んだ。そうすれば、前に身を乗り出すアードの首が必然的に絞まる。
「ぐ、ぐるしい…!」
「不用意に近づくな」
「ヴォルフ様…、死んじゃいますよ…」
「げほっげほっ!お前、容赦なさすぎだろ!あぁ、レフィーナちゃん!こんなんやめとけ!」
レフィーナの言葉に手を離してやれば、アードが涙目で咳き込みながら、そんな事を言い放った。しかも、ちゃっかりとレフィーナの片手を両手で握りしめている。
それにもやっとした黒い感情が湧き出てきて、ヴォルフは片眉をピクリと跳ね上げた。
祝宴の時の誤解はレフィーナがダットに否定した事で解けていたが、本当に恋仲になった事が何故か噂で広がり、結局騎士達は涙することになった。その噂はまたたく間に城中に知れ渡ったので、もちろんアードも知っている。
「アード。いい加減にしないと…」
「おぉ、怖い!ヴォルフ、眉間に皺ばっかり寄せてると、レフィーナちゃんに逃げられるぞー!」
「誰のせいだと思ってるんだ…あの野郎」
からかうような口調で言い逃げしたアードに、ヴォルフは眉間に皺を寄せたまま深い溜め息をつき、レフィーナに聞こえないように低い声で呟いた。
ヴォルフが嫉妬している事が面白いのだろうが、からかわれるヴォルフからしてみれば苛立ちが貯まるばかりだ。後で一発殴るか、などと些か物騒な事を考えながらもう一度深い溜め息をついて、気持ちを切り替える。
「もう出発しないとな」
「はい、そうですね」
出発前の少しの間にレフィーナと話そうとした時間を、アードによって潰されてしまった。もう少し話していたいが、まさかレオン達を待たせるわけにはいかない。
残念な気持ちを胸の中にしまって、ヴォルフは馬車に乗り込むレフィーナに手を貸した。レフィーナが席に着いたのを見届けて、ヴォルフは扉を閉める。
それからヴォルフは愛馬にひらりと跨って、出発の合図を出したのだった。
◇
レオンとドロシーの新婚旅行は特に何事もなく、予定通りに進んで行った。そして、馬車の旅を三日程繰り返した日の夕方、ヴォルフにとってはあまり来たくない街に到着した。
この街でドロシーの誘拐計画が実行されるのだ。ヴォルフの心を映したかのように、空には分厚い雲がかかって、今にも雨が降りそうな天気だった。
ヴォルフはレオンと共に、宿に入っていく。
────宿をちょっと爆破して、怖がらせなさい。
レナシリアの言葉を思い出してヴォルフは思わずため息をつきそうになるが、ぐっとそれを飲み込んだ。この宿は裏稼業のベルグの所有物でありアジトらしい。なので爆破しても問題ないのだが、過激すぎると思う。雨が降りそうなのは万が一を考えれば都合がいいが…。
爆破するとは言っても見せかけだ。すぐに火は消されるように準備はしてあるし、近隣住民にはレナシリアの名で説明と避難がされている。
「レオン殿下、ようこそいらっしゃいました!」
ヴォルフが考え事をしていれば、この宿の持ち主ということになっている領主が声を掛けてきた。この領主にも説明はされており、レオンとドロシーを引き離すという役目もある。
始まったレナシリアの計画にヴォルフは、騎士として命令に従うために気持ちを入れ替えた。
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