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「レオン、殿下……!」
息を切らしながら、アンが真っ青な顔でレオンを見た。レオンはそんなアンにすぐさま駆け寄る。
「どうしたんだ…!?」
「宿が爆発して、ドロシー様とレフィーナが!護衛のアード様が裏切って……裏家業の男と!」
取り乱した様子のアンの言葉は纏まりがなかったが、レオンは真剣な表情で耳を傾けた。
ヴォルフは、そんなアンに表情を険しくさせる。
計画ではアードとベルグがドロシーとレフィーナ、そしてアンを連れ去る筈だった。だが、何故かアンだけがこうして、この屋敷にやって来た。何か予想外の事が起きているのでは、とヴォルフは考える。
「落ち着いて、アン。一体何があったんだ?」
レオンが優しい声色で宥めるように話しかければ、アンはぐっと表情を歪め、一度深呼吸をして気を落ち着けた。
「突然宿が爆発して私達はアード様の指示に従って、外に無事に逃げれたのですが…。そこでレフィーナの様子が急に…。そしたらアード様が予定が変わったって言って、馬車から裏家業の男が出てきたんです。ドロシー様を誘拐する気のようで、レフィーナが私をレオン殿下の所へ向かわせる為にアード様の剣を奪って、時間稼ぎをしてくれたんです…!」
アンの説明にレオンの顔が青ざめる。ヴォルフもレフィーナの取った行動に驚いて、顔色を変えた。
アードがついているので上手く取りなしてくれているとは思うが、何か嫌な予感がしてヴォルフの胸をじりりと焦がす。
ヴォルフはそんな気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。
アードもいるし、レフィーナも愚かではない。無謀すぎることはしないはずだ。
「ヴォルフ、馬の準備を」
「分かりました」
青ざめながらもなんとか冷静さを保つレオンの命令に、ヴォルフは素早く頷いた。自分も早くレフィーナ達の所へ向かいたい。
ヴォルフは部屋を飛び出して、すぐに馬を二頭用意する。雨はすっかり上がり、雲の切れ間から月が見え隠れしていた。
「ヴォルフ、準備は!?」
「出来ました!」
「では、すぐに行こう!ドロシー達を早く助けないと…!」
「はい!」
馬に飛び乗って、レオンとヴォルフは馬車で来た道を戻っていく。レナシリアの命令で説明がなされていたおかげか、街の中は混乱する者もおらず静かだ。
ヴォルフは隣を走るレオンにちらりと視線を送る。
レオンはまだ青ざめたままで、その表情には焦りが見えた。レオンを騙していることにヴォルフの胸が痛む。ヴォルフがレオンの立場だったなら、きっと同じような表情を浮かべていたことだろう。
計画を知っている身でありながら、ヴォルフも心配で仕方ないのだから。
「レオン殿下、宿が見えました!」
宿の前には騎士達が待機している。そこでレオンとヴォルフは一旦馬を止めた。
ヴォルフはさっと宿に視線を移す。エントランスは焼け焦げていたが、思ったよりは酷くなさそうだ。予定通りすぐに火が消されたのだろう。
「ドロシー達は!?」
「それが…避難誘導は自分がするからと、アードが…。レオン殿下の所へ向かわれたのではないのですか?」
「くそ…っ!」
裏切った騎士がヴォルフの次に指揮権を持つアードだったために、騎士達は疑いもなく従った。その事にレオンは唇を噛み締める。
もちろん、この騎士達も計画は知っているので、これは嘘だ。
「レオン殿下、すぐに移動しましょう。アンが屋敷まで逃げてこれたのならば、おそらく屋敷とは逆方向へと向かったはずです。逆方向は街の出口で、この月明かり程度では思ったより進めていないでしょう」
「…そうだね。すぐに追いかけよう。騎士の何人かは私と共に、残りはここで後処理を頼む。怪我人がいれば、領主の屋敷に連れて行くように」
「はいっ」
レオンの言葉にその場にいた騎士達が動き始める。ヴォルフは騎士達に静かに頷くと、レオンと数人の騎士と共にその場から馬で駆け出す。
ヴォルフは予めベルグ達がいる場所を知っているので迷わず進む。レオンはドロシーの事で頭がいっぱいなのか、その事に疑問を持つ様子はない。
ヴォルフは街の出口まで着た所で、馬の手綱を引いて止まった。出口には一台の馬車が止まっており、それにはトランザッシュ公爵家の紋章が入っている。計画通りミリーも釣れたようだ。
「これは…」
「……おそらくミリー嬢でしょう。レオン殿下、ここからは馬を降りていきます。暗闇は危険ですし、馬車がここにあるのならば、ここからそう遠くには行っていないでしょう」
ヴォルフの言葉にレオンは頷く。ヴォルフはそれを見届けて馬から降りると、出口を照らす松明の火を拝借する。それを近くにいた騎士の一人に渡し、口を開いた。
「手分けしましょう。一人は俺とレオン殿下と共に来い。他はここで馬車を見張る者と捜索する者に別れてくれ」
ヴォルフの指示に騎士達は一斉に動き出す。ヴォルフはレオンに頷くと、松明を持たせた騎士と共に街の外へと足を踏み出した。
少し辺りを見回しながら歩いた所で、レオンが声を上げる。
「ヴォルフ、明かりが…!」
「向かいましょう!」
予定通りの場所にいるようで、ヴォルフはひっそりと胸を撫で下ろした。予定通りに進んでいるということは、アードはうまくやっているのだろう。
ヴォルフはようやく決着がつくと一度息を吐き出してから、レオンと共に明かりの方へと駆け出したのだった。
息を切らしながら、アンが真っ青な顔でレオンを見た。レオンはそんなアンにすぐさま駆け寄る。
「どうしたんだ…!?」
「宿が爆発して、ドロシー様とレフィーナが!護衛のアード様が裏切って……裏家業の男と!」
取り乱した様子のアンの言葉は纏まりがなかったが、レオンは真剣な表情で耳を傾けた。
ヴォルフは、そんなアンに表情を険しくさせる。
計画ではアードとベルグがドロシーとレフィーナ、そしてアンを連れ去る筈だった。だが、何故かアンだけがこうして、この屋敷にやって来た。何か予想外の事が起きているのでは、とヴォルフは考える。
「落ち着いて、アン。一体何があったんだ?」
レオンが優しい声色で宥めるように話しかければ、アンはぐっと表情を歪め、一度深呼吸をして気を落ち着けた。
「突然宿が爆発して私達はアード様の指示に従って、外に無事に逃げれたのですが…。そこでレフィーナの様子が急に…。そしたらアード様が予定が変わったって言って、馬車から裏家業の男が出てきたんです。ドロシー様を誘拐する気のようで、レフィーナが私をレオン殿下の所へ向かわせる為にアード様の剣を奪って、時間稼ぎをしてくれたんです…!」
アンの説明にレオンの顔が青ざめる。ヴォルフもレフィーナの取った行動に驚いて、顔色を変えた。
アードがついているので上手く取りなしてくれているとは思うが、何か嫌な予感がしてヴォルフの胸をじりりと焦がす。
ヴォルフはそんな気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。
アードもいるし、レフィーナも愚かではない。無謀すぎることはしないはずだ。
「ヴォルフ、馬の準備を」
「分かりました」
青ざめながらもなんとか冷静さを保つレオンの命令に、ヴォルフは素早く頷いた。自分も早くレフィーナ達の所へ向かいたい。
ヴォルフは部屋を飛び出して、すぐに馬を二頭用意する。雨はすっかり上がり、雲の切れ間から月が見え隠れしていた。
「ヴォルフ、準備は!?」
「出来ました!」
「では、すぐに行こう!ドロシー達を早く助けないと…!」
「はい!」
馬に飛び乗って、レオンとヴォルフは馬車で来た道を戻っていく。レナシリアの命令で説明がなされていたおかげか、街の中は混乱する者もおらず静かだ。
ヴォルフは隣を走るレオンにちらりと視線を送る。
レオンはまだ青ざめたままで、その表情には焦りが見えた。レオンを騙していることにヴォルフの胸が痛む。ヴォルフがレオンの立場だったなら、きっと同じような表情を浮かべていたことだろう。
計画を知っている身でありながら、ヴォルフも心配で仕方ないのだから。
「レオン殿下、宿が見えました!」
宿の前には騎士達が待機している。そこでレオンとヴォルフは一旦馬を止めた。
ヴォルフはさっと宿に視線を移す。エントランスは焼け焦げていたが、思ったよりは酷くなさそうだ。予定通りすぐに火が消されたのだろう。
「ドロシー達は!?」
「それが…避難誘導は自分がするからと、アードが…。レオン殿下の所へ向かわれたのではないのですか?」
「くそ…っ!」
裏切った騎士がヴォルフの次に指揮権を持つアードだったために、騎士達は疑いもなく従った。その事にレオンは唇を噛み締める。
もちろん、この騎士達も計画は知っているので、これは嘘だ。
「レオン殿下、すぐに移動しましょう。アンが屋敷まで逃げてこれたのならば、おそらく屋敷とは逆方向へと向かったはずです。逆方向は街の出口で、この月明かり程度では思ったより進めていないでしょう」
「…そうだね。すぐに追いかけよう。騎士の何人かは私と共に、残りはここで後処理を頼む。怪我人がいれば、領主の屋敷に連れて行くように」
「はいっ」
レオンの言葉にその場にいた騎士達が動き始める。ヴォルフは騎士達に静かに頷くと、レオンと数人の騎士と共にその場から馬で駆け出す。
ヴォルフは予めベルグ達がいる場所を知っているので迷わず進む。レオンはドロシーの事で頭がいっぱいなのか、その事に疑問を持つ様子はない。
ヴォルフは街の出口まで着た所で、馬の手綱を引いて止まった。出口には一台の馬車が止まっており、それにはトランザッシュ公爵家の紋章が入っている。計画通りミリーも釣れたようだ。
「これは…」
「……おそらくミリー嬢でしょう。レオン殿下、ここからは馬を降りていきます。暗闇は危険ですし、馬車がここにあるのならば、ここからそう遠くには行っていないでしょう」
ヴォルフの言葉にレオンは頷く。ヴォルフはそれを見届けて馬から降りると、出口を照らす松明の火を拝借する。それを近くにいた騎士の一人に渡し、口を開いた。
「手分けしましょう。一人は俺とレオン殿下と共に来い。他はここで馬車を見張る者と捜索する者に別れてくれ」
ヴォルフの指示に騎士達は一斉に動き出す。ヴォルフはレオンに頷くと、松明を持たせた騎士と共に街の外へと足を踏み出した。
少し辺りを見回しながら歩いた所で、レオンが声を上げる。
「ヴォルフ、明かりが…!」
「向かいましょう!」
予定通りの場所にいるようで、ヴォルフはひっそりと胸を撫で下ろした。予定通りに進んでいるということは、アードはうまくやっているのだろう。
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