悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「終わったなら行こうか。もうこれ以上、ここにいる必要はないよね」

「はい。領主の屋敷に向かいましょう。荷物もそちらに移してありますので」


 レオンの言葉にヴォルフは頷いて返事をする。ドロシーもレフィーナも雨に濡れたようなので、風邪を引かないように早く休ませてやりたい。
 今頃、宿にいた騎士達が領主の屋敷に荷物も運び終えているだろう。今夜は領主の屋敷で休む事になっている。


「さぁ、俺達もさっさと移動するぞ。その馬車にお嬢サマ達を乗せな」


 レオンと話していれば、ベルグがミリー達を馬車に乗せるように指示を出した。ミリーはもう喚くこともなく、静かに指示に従っている。
 ヴォルフがそんなミリーを見ていれば、ベルグがにやりと笑いながら近くにいたレフィーナに近づいてきた。それにレフィーナが警戒する素振りを見せる。


「レフィーナ、俺と来いよ」

「お断りします」

「俺の物になれよ」

「嫌です」


 レフィーナはベルグの言葉に激しく首を振りながら、拒否の言葉を口にした。ベルグの事を嫌っているレフィーナを見て、ヴォルフは安心する。
 それと同時にちょっとした優越感に胸を満たされつつも、気を引き締めた。ここに来た時のように、ベルグに横から奪われるなんて事になるのは嫌だ。
 ニヤついているベルグからレフィーナを隠すように、ヴォルフは二人の間に割り込む。


「おい。レフィーナに近づくな」

「んー?俺はレフィーナに惚れたんだよ。惚れたら口説くだろ、普通」

「口説くな」

「俺は人の物を奪うのが好きなんだよ」


 のらりくらりと躱されて、ヴォルフの眉間の皺がどんどん深くなる。ベルグはそんなヴォルフに対して、余裕そうな表情だ。年齢の差か、経験の差か……。どちらにしろ、余裕そうなベルグが気に障る。


「レフィーナは俺の恋人だ。…お前になんか渡さない」

「かっこいいな。ますます奪いたくなったぜ?」

「…レフィーナがお前を選ぶならともかく…どう見ても嫌がっているだろう」

「照れ隠しだろ?」

「照れていません。見た通りです。もう関わらないでください」


 うんざりしたようなレフィーナの声が聞こえるが、ベルグは相変わらずニヤついている。もはやレフィーナに拒否されるのを楽しんでいるように見える。そんなベルグが気持ち悪かったのか、怖かったのか、レフィーナが助けを求めるようにヴォルフの手を握ってきた。
 ヴォルフはそんなレフィーナに安心させるように、しっかりと握り返す。


「まぁ、とりあえず今日は引き上げるぜ。レフィーナ、気が変わったらいつでも歓迎するぜ?」

「そんな事、ありません」

「…それはどうかな?まぁ、乗り越えられず…別れる事を祈っているぜ?」


 意味深な様子でそんな事を言いながら、ベルグは馬車に乗り込むと去っていった。何を乗り越えられないと思っているのかは知らないが、ヴォルフはどんな試練があったとしてもレフィーナと別れる気はない。
 それに、レフィーナとならばどんなことでも乗り越えられると思えるのだ。そうな風に思えるほど、ヴォルフはレフィーナに惚れ込んでいる。

 そんな事を考えていれば、ふと、繋いでいたレフィーナの手からふっと力が抜けた。深い溜息をつくレフィーナに、ヴォルフは気遣うように声をかける。


「レフィーナ、大丈夫か?」

「は、はい…」


 疲れた様子のレフィーナに寄り添えば、成り行きを見守っていたレオンが声を出した。


「とにかく私達も領主の屋敷へ向かおう。ドロシーもレフィーナも風邪を引いてしまう」


 レオンの言葉にヴォルフは頷き一旦レフィーナから離れ、焚き火を消す。それから、ヴォルフ達は領主の屋敷に向かったのだった。



            ◇



 領主の屋敷に着けば、アンが涙目でレフィーナとドロシーの元へ走り寄ってきた。


「よかったっ…よかったです…。本当に心配したんですよ…!嘘だって知らなかったから……心配で、怖くて…」

「アン、心配かけてごめんなさい」


 アンには屋敷へと来た騎士が説明したようだ。涙目のアンにレフィーナとドロシーは安心させるように、微笑んでいた。
 そんなレフィーナを見ていたレオンが声をかける。


「レフィーナはもうドロシーについていなくていいから、部屋に行きなよ」

「お気遣い、ありがとうございます」

「…私のせいだからね。当然の事だよ」

「おやすみなさい、レフィーナ様」

「はい、お休みなさいませ。ドロシー様、レオン殿下」


 レオンとドロシーがアンをともなって去っていく。それを見送ったヴォルフは、下げていた頭を上げたレフィーナに視線を移す。
 レフィーナが部屋に向かうために歩き出したので、ヴォルフもそれに合わせて足を踏み出した。


「ヴォルフ様?」

「…部屋まで送っていく」

「ふふっ。大丈夫ですよ、迷子にはなりませんから」

「…その心配はしてないが…・少し話がしたいしな」


 まだきちんと騙していた事を謝っていないし、今はレフィーナの側にいたい。
 歩きながらヴォルフはそう考え、レフィーナの手をそっと握り、手を繋いだのだった。
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