悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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 レフィーナと共に馬車の前まで来れば、領主と話していたレオン達が話を終えた所だった。レオンはドロシーを馬車に乗せると、ヴォルフとレフィーナの方へ体ごと振り返った。それからにっこりと笑って口を開く。


「今日はレフィーナもこちらの馬車に乗りなよ。あぁ、ヴォルフもね」


 それだけ告げて、レオンは返事も待たず馬車へと乗り込んだ。残されたヴォルフとレフィーナは突然の命令に、顔を見合わせる。


「な、なんだろうね…」

「……さぁな。とりあえず、レオン殿下の命令に従うしかないだろう」


 ヴォルフは一旦その場を離れ、荷物を馬車へと積み込む。それから護衛の騎士の一人に近づいて、声をかけた。



「悪いが、指揮を任せていいか?レオン殿下に同じ馬車に乗るように言われてな」

「分かりました。…馬はどうしますか?」

「それなら、私が乗っていきましょう」


 話に割って入ってきた声に、ヴォルフはそちらに視線を移す。騎士の格好をしたその男は、昨日の計画でレオンを引き止める役割を担った諜報員ちょうほういんの男だ。


「貴方が?」

「はい。この先にも少し用がありますので」

「…では、お願いします」


 諜報員の男の申し出に、ヴォルフは頷いた。それから自分の馬を連れてきて、その男に預ける。
 用が済んだヴォルフがレオン達の馬車に乗り込むと、レフィーナの隣が空いていたので、そこに腰を下ろす。因みに正面にはレオンが座っていた。

 ヴォルフが乗り込んだ直後、馬車はゆったりと動き出した。
 それから暫くの間、その場には沈黙が降りていた。そんな重い沈黙に耐えられなくなったのか、ドロシーがレオンに声を掛ける。


「……あの、レオン殿下…」

「何かな?ドロシー」

「えっと、その…」

「ん?」


 優しい表情と声色のレオンに、ドロシーはちらりとヴォルフ達の方を見る。それから控えめに話を続けた。


「レオン殿下、レフィーナ様達が…その、困っています」

「あぁ、そうだったね。ねぇ、レフィーナ、私が何故、この馬車に乗るように言ったか分かるかな?」

「…いえ…」


 ようやく、本題を話し始めたレオンに話を振られたレフィーナは、考える素振りを見せてから、ゆっくりと首を横に振った。ヴォルフもまた、そんなレフィーナを見ながら、理由を考えていた。
 ヴォルフではなくレフィーナに話題を振ったという事は、この馬車に乗せた理由……レオンが不機嫌だった理由がレフィーナという事だろう。

 レフィーナが原因で、それにヴォルフも関係している、という事だ。
 レオンはレフィーナが首を横に振るのを見て、再び口を開いた。


「そう。……昨日の夜、母上から貰った手紙を読んだのだけれど…」


 レオンの言葉に、ヴォルフはレナシリアから預かった手紙を思い出す。確か、昨日の事についての詳細が書かれていると、レナシリアは言っていた。
 だが、レオンの様子からすると、それだけでは無かったようだ。レフィーナに関することで、レオンが怒る事。そして、レナシリアが知っている事。

 そこまで考えて、ヴォルフははたと気付く。
 一つ…レフィーナに対してレオンが不機嫌になる事がある。レナシリアが知っていて、レオンがまだ知らなかった事。

 レオンが話を続ける。


「とても面白い事が書かれていてね」

「面白い事、ですか…?」

「そう。…レフィーナが令嬢の頃、社交界であのような態度を取っていた理由が…私と結婚したくなかったからだと書いてあったよ」

「え……」


 にっこりとレフィーナに笑みを向けたレオンの言葉に、ヴォルフはやはりそれか、と心の中で呟く。
 レフィーナがレオンとの婚約破棄の為に悪役を演じた事。それをレナシリアが告げたようだ。

 ヴォルフがレフィーナの様子を伺うように、隣へと視線を移せば、レフィーナはかちんと固まっていた。


「…こんな事にも気づけなかった私を見ているのは、楽しかったかな?」


 レオンの言葉に、レフィーナが否定するように首を横に振る。
 レナシリアは楽しんでいただろうが、レフィーナはそんな性格ではない。だが、あんな演技をしてまで、自分との婚約を破棄したかったのだとレオンは思っているようだった。
 笑みを浮かべながらも、その瞳だけは全く笑っておらず、レオンの静かな怒りが伝わる。


「…私との結婚が嫌なら、そう言ってくれれば良かった。…決められた婚約者だったから、婚約の取り止めは難しかったかもしれないけど…私は嫌がっている女性と、無理に結婚しようとは思わないよ」


 レオンの言葉は真実だろう。心優しく穏やかだった当時のレオンならば、レフィーナが嫌がっていると知れば、無理に結婚を進めはしなかったとは思う。
 …今は色々あったせいで…少々性格が歪んでしまったので分からないが。

 ヴォルフがレフィーナを見れば、難しい表情を浮かべていた。
 それもそうだろう。レフィーナの目的は婚約破棄だけでは無かったのだから。異世界にいる妹の為に神と交わした契約。レオンとの婚約破棄と、ドロシーとレオンの仲を取り持つ事。

 しかし、その事を知っているのはレフィーナ本人と…ヴォルフだけだ。真実を知らないレオンは表面の事実だけしか受け止められない。
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