悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「…舞踏会になんか行かせたくないな」


 思わず本音が口からこぼれ落ちる。レフィーナの可愛さを堪能するように、締りのない顔をしていたヴォルフを見たレオンが呆れたように声をかけた。


「駄目だよ、ヴォルフ」

「分かっています」

「それならいいのだけれど。…そろそろ、会場に向かおうか」


 レオンの言葉にヴォルフは表情を引き締めた。そして、レフィーナに腕を差し出す。
 レフィーナは差し出されたヴォルフの腕に、そっと手を添える。
 それから、ヴォルフ達は会場へと向かった。

 プリローダの騎士の案内で、何度か角を曲がり長い廊下を歩いていけば、やがて会場へとたどり着く。
 目の前にある重厚な木の扉には、花の彫刻が施されており、扉の両端には騎士が二人立っている。
 その近くに一人のメイドが赤い布の敷かれたトレイを持って立っていた。案内の騎士はそのメイドに目配せをしてから、振り返って頭を下げる。


「ここでございます」

「あぁ、ご苦労様」

「レオン殿下、こちらのお花をどうぞ」


 メイドがトレイを差し出しながら、レオンに声をかける。
 トレイの上には繊細な装飾の施された赤い薔薇ばらのコサージュが一組と、同じく繊細な装飾が施された白い薔薇が一組乗せられていた。何に使うものかは、ヴォルフには分からなかった。
 レオンもヴォルフと同じなのか、説明を求めるようにメイドに視線を向ける。その視線の意味を汲み取ったメイドはにっこりと笑みを浮かべて口を開いた。


「これはパートナー同士で身につける物でございます。プリローダでは舞踏会で必ず身に付けます」

「…そういえば、そうだったね」


 どうやらプリローダではパートナーがひと目で分かるように、お揃いの花を身につけるようだ。ヴォルフ達の国ではそういったしきたりはないので、知らないのも当たり前だった。
 レオンはプリローダの舞踏会に参加したことがあるようで、その事を思い出したらしい。

 レオンが赤い薔薇を手に取ったので、ヴォルフは残った白い薔薇を手に取る。そして、その一つをレフィーナに渡せば、受け取ったレフィーナは胸元に飾り付けた。


「では、どうぞ楽しんでくださいませ」


 メイドの言葉を合図に、扉の両端に立っていた騎士がゆっくりと扉を開ける。開いた扉の先から談笑する声と明るい光がもれてきた。
 レオンとドロシーが会場に入るのに続いて、ヴォルフとレフィーナも会場へと足を踏み入れる。

 会場の眩しさにヴォルフは一瞬、金色の瞳を細めた。いつもはここで女性の絡みつくような視線を受けるのだが、今回はそんな視線よりも気になる事があった。
 そっと隣にいるレフィーナの様子を伺う。

 会場にいる貴族達の視線は、レフィーナに注がれている。その視線の多くはあざけるような物だ。レフィーナがレオンの元婚約者で、今は貴族の身分を剥奪され侍女になった事を、隣国とはいえこの国の貴族達も知っている。だからこそ、愚かなことをしたものだと、嘲りの視線をレフィーナに向けているのだ。

 ヴォルフはそんな貴族達に、眉間に皺を寄せる。レフィーナに声をかけようとすれば、それよりも早く、ドロシーが声を上げた。

 
「レフィーナ!とっても素敵な会場ね!私、レフィーナと一緒に舞踏会に出れて、とっても嬉しいわ」


 貴族達の嘲る声をかき消すように、ドロシーは弾んだ声でそう言った。さらに、ドロシーはレオンから離れて、レフィーナの手を握り、ニコニコと笑う。ヴォルフはドロシーの行動に些か驚いたが、黙って成り行きを見守る。
 レフィーナは戸惑ったような様子で、ドロシーの名を呼んだ。


「ド、ドロシー様…?」

「レフィーナは私の大切な侍女ですもの。私の贈ったドレスもよく似合っていて…素敵だわ」


 ドロシーの言葉にこそこそと話していた貴族達の多くが、口を閉ざした。ドロシーの発言はレフィーナの事を気に入っているという内容の物だ。
 それを聞いてヴォルフは、少し意外そうな視線をドロシーに向ける。ドロシーがレフィーナを守ろうとしているのが分かったのだが、普段おっとりとした穏やかなドロシーが、貴族達を牽制けんせいするような事をするとは思ってもみなかったので、驚いた。

 そんなドロシーの行動は効果抜群だったようで、貴族達は態度を一変させて、愛想笑いを浮かべながらレフィーナとドロシーの元まで近づいてくる。


「いやぁ、ドロシー様はお優しいですな」

「ドロシー様の専属侍女とあって美しい方ですね。いやはや、エスコートしている男性が羨ましい…はっはっはっ」


 ドロシーの機嫌を伺うような言葉が次々と飛び交った。
 ドロシーの言葉で、貴族達のレフィーナに対しての認識が変わったのだ。貴族の身分を失った愚かな令嬢から、王太子妃であるドロシーのお気に入りの侍女へと。

 ドロシーによってレフィーナに向けられる不快な視線が無くなったのは嬉しいが、出来れば自分が守ってやりたかったと、少し複雑な気持ちにもなる。とはいえ、一番はレフィーナが辛い思いをしない事が大切で、ヴォルフは心の中でそっと礼を呟いた。
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