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「それにしても、ヴォルフが結婚するなんて、実感が湧かないんだよなぁ。あんなに女に興味なかったし、相手は嫌ってたレフィーナちゃんだし」
「まぁな……」
レフィーナが令嬢のままだったら……あるいは、神がメラファとして現れていなければ、今のような関係にはなっていなかっただろう。
ずっとヴォルフはレフィーナを嫌い、母親との過去に囚われ続け、おそらく誰も好きになんてなからなった。
ヴォルフがそんな風に考えていると、アードが口を開いた。
「大切にしてやれよ」
「ああ」
アードの言葉にしっかりと頷く。
言われなくてもレフィーナのことを大切にするつもりだ。彼女がいつでも笑顔でいられるようにしたい。
明るい未来を想像すると、心が温かくなる。
「はぁ……。そんな幸せそうな顔されると、羨ましくなるなぁ」
ふとアードが小さく呟いた。ヴォルフはその言葉に首を傾げる。
「アード、お前も一人くらい大切な女がいるんじゃないのか?」
よく女性を口説いている姿を見かける。その中に一人くらい本命がいてもよさそうなものだが。
しかし、ヴォルフの予想に反して、アードは首を横に振った。
「いないんだよなぁ」
「……じゃあ、なんで口説いてるんだ」
「え?可愛いから?」
アードの軽い発言に、ヴォルフは深いため息をついた。よく女性に声をかけているので、その中に本命でもいるのかと思っていたが、違ったようだ。
ヴォルフは呆れた視線をアードに向ける。自分でも思うところがあるのか、目を逸らされた。
二人して微妙な空気になっていると、今まで黙っていた店主が口を挟んだ。
「お前さん、一度でも誰かを本気に好きになった事があんのか?」
「……いいなぁとか、可愛いなぁと思う子は口説いてるけど。まぁ、全員に振られてもいるけどね」
「……俺達のような庶民は貴族と違ってわりと恋愛は自由だがよ、やっぱり女としては結婚したいと思うような男と付き合いたいんじゃないのか?」
「え?俺、結婚したいと思われないの?」
「逆に聞くけどよぉ、お前さんは結婚したくて口説いてるのか?副騎士団長様のように、こうしてわざわざ指輪を特注で作りにくるくらい本気で」
店主の言葉にアードが黙り込んだ。それからちらりとヴォルフを見る。
「そんなに、本気じゃないかも。結婚ってのもぼんやりとしか考えたことないし」
「それが女にも伝わってるんだろ。あんた、容姿は悪くないんだから、性格を直せばすぐにいい人くらいできるさ。なぁ、副騎士団長様もそう思わねぇか?」
店主に話を振られ、ヴォルフは改めてアードを見つめる。
店主の言う通り、顔立ちは悪くないし、背も高く、引き締まった体をしている。軽い部分はヴォルフもどうかと思うが、それ以外は優しいし、頼りになる性格をしている。軽い部分さえどうにかすれば、いい女性に巡り会えるだろう。
「そうだな」
「そっかぁ……。俺もヴォルフみたいに幸せそうな顔してみたいし、ちょっと見直してみる。そしたら、誰か紹介してくれよ」
「……お前、俺に紹介できるような女がいると思っているのか?」
騎士として接する女性はいるが、個人的に交流を持つような女性などいない。
アードも本気ではなかったのだろう。面白そうに笑っている。
「分かってるよ。ヴォルフに紹介できる女性がいたらびっくりだ」
「分かっていて聞くな」
「ははっ。さてと、そろそろ戻らないとなぁー。店主、その剣頼んだよ」
「おう。副騎士団長様の指輪も任せときな!」
「ああ。また完成する頃に来る」
ヴォルフとアードは店主と言葉を交わし、店を後にする。
ヴォルフも今日の用事は終わったので、一緒に城に帰ることにした。隣を歩くアードにヴォルフはふと疑問に思ったことを口にする。
「剣、買い替えないのか?」
先ほどアードは店主に修理を依頼していた。剣は折れたら買い替える事が多いので、不思議に思ったのだ。
よくよく考えると、アードはずっとあの剣を使っている気がする。
「あれは、親父が騎士になったときにくれたやつなんだ。剣をもえたときは認められたようで嬉しかったしさ。できるだけ長く使いたいんだ」
少し照れ臭そうにアードが答える。彼の父親であるケルンの姿が思い浮かべた。
元騎士団で、アードは父親のことを口には出さないが尊敬している。そんな父親からもらったものだから、買い替えずに修理を依頼したようだ。
「少し羨ましいな」
「何言ってるんだよ!お前もいずれ騎士団長から剣を譲り受けるだろー」
代々騎士団長に受け継がれる剣のことだろう。副騎士団長のヴォルフが騎士団長になるときに、ザックからそれを譲り受けることになる。
とはいえ……
「……ザックは当分現役だろうな」
「ははっ、たしかに」
風邪すら引かないザックが引退する姿が浮かばず、ヴォルフとアードは笑い声をあげた。
それから二人は他愛もない話をしながら、城へと帰っていったのだった。
「まぁな……」
レフィーナが令嬢のままだったら……あるいは、神がメラファとして現れていなければ、今のような関係にはなっていなかっただろう。
ずっとヴォルフはレフィーナを嫌い、母親との過去に囚われ続け、おそらく誰も好きになんてなからなった。
ヴォルフがそんな風に考えていると、アードが口を開いた。
「大切にしてやれよ」
「ああ」
アードの言葉にしっかりと頷く。
言われなくてもレフィーナのことを大切にするつもりだ。彼女がいつでも笑顔でいられるようにしたい。
明るい未来を想像すると、心が温かくなる。
「はぁ……。そんな幸せそうな顔されると、羨ましくなるなぁ」
ふとアードが小さく呟いた。ヴォルフはその言葉に首を傾げる。
「アード、お前も一人くらい大切な女がいるんじゃないのか?」
よく女性を口説いている姿を見かける。その中に一人くらい本命がいてもよさそうなものだが。
しかし、ヴォルフの予想に反して、アードは首を横に振った。
「いないんだよなぁ」
「……じゃあ、なんで口説いてるんだ」
「え?可愛いから?」
アードの軽い発言に、ヴォルフは深いため息をついた。よく女性に声をかけているので、その中に本命でもいるのかと思っていたが、違ったようだ。
ヴォルフは呆れた視線をアードに向ける。自分でも思うところがあるのか、目を逸らされた。
二人して微妙な空気になっていると、今まで黙っていた店主が口を挟んだ。
「お前さん、一度でも誰かを本気に好きになった事があんのか?」
「……いいなぁとか、可愛いなぁと思う子は口説いてるけど。まぁ、全員に振られてもいるけどね」
「……俺達のような庶民は貴族と違ってわりと恋愛は自由だがよ、やっぱり女としては結婚したいと思うような男と付き合いたいんじゃないのか?」
「え?俺、結婚したいと思われないの?」
「逆に聞くけどよぉ、お前さんは結婚したくて口説いてるのか?副騎士団長様のように、こうしてわざわざ指輪を特注で作りにくるくらい本気で」
店主の言葉にアードが黙り込んだ。それからちらりとヴォルフを見る。
「そんなに、本気じゃないかも。結婚ってのもぼんやりとしか考えたことないし」
「それが女にも伝わってるんだろ。あんた、容姿は悪くないんだから、性格を直せばすぐにいい人くらいできるさ。なぁ、副騎士団長様もそう思わねぇか?」
店主に話を振られ、ヴォルフは改めてアードを見つめる。
店主の言う通り、顔立ちは悪くないし、背も高く、引き締まった体をしている。軽い部分はヴォルフもどうかと思うが、それ以外は優しいし、頼りになる性格をしている。軽い部分さえどうにかすれば、いい女性に巡り会えるだろう。
「そうだな」
「そっかぁ……。俺もヴォルフみたいに幸せそうな顔してみたいし、ちょっと見直してみる。そしたら、誰か紹介してくれよ」
「……お前、俺に紹介できるような女がいると思っているのか?」
騎士として接する女性はいるが、個人的に交流を持つような女性などいない。
アードも本気ではなかったのだろう。面白そうに笑っている。
「分かってるよ。ヴォルフに紹介できる女性がいたらびっくりだ」
「分かっていて聞くな」
「ははっ。さてと、そろそろ戻らないとなぁー。店主、その剣頼んだよ」
「おう。副騎士団長様の指輪も任せときな!」
「ああ。また完成する頃に来る」
ヴォルフとアードは店主と言葉を交わし、店を後にする。
ヴォルフも今日の用事は終わったので、一緒に城に帰ることにした。隣を歩くアードにヴォルフはふと疑問に思ったことを口にする。
「剣、買い替えないのか?」
先ほどアードは店主に修理を依頼していた。剣は折れたら買い替える事が多いので、不思議に思ったのだ。
よくよく考えると、アードはずっとあの剣を使っている気がする。
「あれは、親父が騎士になったときにくれたやつなんだ。剣をもえたときは認められたようで嬉しかったしさ。できるだけ長く使いたいんだ」
少し照れ臭そうにアードが答える。彼の父親であるケルンの姿が思い浮かべた。
元騎士団で、アードは父親のことを口には出さないが尊敬している。そんな父親からもらったものだから、買い替えずに修理を依頼したようだ。
「少し羨ましいな」
「何言ってるんだよ!お前もいずれ騎士団長から剣を譲り受けるだろー」
代々騎士団長に受け継がれる剣のことだろう。副騎士団長のヴォルフが騎士団長になるときに、ザックからそれを譲り受けることになる。
とはいえ……
「……ザックは当分現役だろうな」
「ははっ、たしかに」
風邪すら引かないザックが引退する姿が浮かばず、ヴォルフとアードは笑い声をあげた。
それから二人は他愛もない話をしながら、城へと帰っていったのだった。
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