悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

文字の大きさ
88 / 97

88

しおりを挟む
「それにしても、ヴォルフが結婚するなんて、実感が湧かないんだよなぁ。あんなに女に興味なかったし、相手は嫌ってたレフィーナちゃんだし」

「まぁな……」


 レフィーナが令嬢のままだったら……あるいは、神がメラファとして現れていなければ、今のような関係にはなっていなかっただろう。
 ずっとヴォルフはレフィーナを嫌い、母親との過去に囚われ続け、おそらく誰も好きになんてなからなった。
 ヴォルフがそんな風に考えていると、アードが口を開いた。


「大切にしてやれよ」

「ああ」


 アードの言葉にしっかりと頷く。
 言われなくてもレフィーナのことを大切にするつもりだ。彼女がいつでも笑顔でいられるようにしたい。
 明るい未来を想像すると、心が温かくなる。


「はぁ……。そんな幸せそうな顔されると、羨ましくなるなぁ」


 ふとアードが小さく呟いた。ヴォルフはその言葉に首を傾げる。


「アード、お前も一人くらい大切な女がいるんじゃないのか?」


 よく女性を口説いている姿を見かける。その中に一人くらい本命がいてもよさそうなものだが。
 しかし、ヴォルフの予想に反して、アードは首を横に振った。


「いないんだよなぁ」

「……じゃあ、なんで口説いてるんだ」

「え?可愛いから?」


 アードの軽い発言に、ヴォルフは深いため息をついた。よく女性に声をかけているので、その中に本命でもいるのかと思っていたが、違ったようだ。
 ヴォルフは呆れた視線をアードに向ける。自分でも思うところがあるのか、目を逸らされた。
 二人して微妙な空気になっていると、今まで黙っていた店主が口を挟んだ。


「お前さん、一度でも誰かを本気に好きになった事があんのか?」

「……いいなぁとか、可愛いなぁと思う子は口説いてるけど。まぁ、全員に振られてもいるけどね」

「……俺達のような庶民は貴族と違ってわりと恋愛は自由だがよ、やっぱり女としては結婚したいと思うような男と付き合いたいんじゃないのか?」

「え?俺、結婚したいと思われないの?」

「逆に聞くけどよぉ、お前さんは結婚したくて口説いてるのか?副騎士団長様のように、こうしてわざわざ指輪を特注で作りにくるくらい本気で」


 店主の言葉にアードが黙り込んだ。それからちらりとヴォルフを見る。


「そんなに、本気じゃないかも。結婚ってのもぼんやりとしか考えたことないし」

「それが女にも伝わってるんだろ。あんた、容姿は悪くないんだから、性格を直せばすぐにいい人くらいできるさ。なぁ、副騎士団長様もそう思わねぇか?」


 店主に話を振られ、ヴォルフは改めてアードを見つめる。
 店主の言う通り、顔立ちは悪くないし、背も高く、引き締まった体をしている。軽い部分はヴォルフもどうかと思うが、それ以外は優しいし、頼りになる性格をしている。軽い部分さえどうにかすれば、いい女性に巡り会えるだろう。


「そうだな」

「そっかぁ……。俺もヴォルフみたいに幸せそうな顔してみたいし、ちょっと見直してみる。そしたら、誰か紹介してくれよ」

「……お前、俺に紹介できるような女がいると思っているのか?」


 騎士として接する女性はいるが、個人的に交流を持つような女性などいない。
 アードも本気ではなかったのだろう。面白そうに笑っている。


「分かってるよ。ヴォルフに紹介できる女性がいたらびっくりだ」

「分かっていて聞くな」

「ははっ。さてと、そろそろ戻らないとなぁー。店主、その剣頼んだよ」

「おう。副騎士団長様の指輪も任せときな!」

「ああ。また完成する頃に来る」


 ヴォルフとアードは店主と言葉を交わし、店を後にする。
 ヴォルフも今日の用事は終わったので、一緒に城に帰ることにした。隣を歩くアードにヴォルフはふと疑問に思ったことを口にする。


「剣、買い替えないのか?」


 先ほどアードは店主に修理を依頼していた。剣は折れたら買い替える事が多いので、不思議に思ったのだ。
 よくよく考えると、アードはずっとあの剣を使っている気がする。


「あれは、親父が騎士になったときにくれたやつなんだ。剣をもえたときは認められたようで嬉しかったしさ。できるだけ長く使いたいんだ」


 少し照れ臭そうにアードが答える。彼の父親であるケルンの姿が思い浮かべた。
 元騎士団で、アードは父親のことを口には出さないが尊敬している。そんな父親からもらったものだから、買い替えずに修理を依頼したようだ。


「少し羨ましいな」

「何言ってるんだよ!お前もいずれ騎士団長から剣を譲り受けるだろー」


 代々騎士団長に受け継がれる剣のことだろう。副騎士団長のヴォルフが騎士団長になるときに、ザックからそれを譲り受けることになる。
 とはいえ……


「……ザックは当分現役だろうな」

「ははっ、たしかに」


 風邪すら引かないザックが引退する姿が浮かばず、ヴォルフとアードは笑い声をあげた。
 それから二人は他愛もない話をしながら、城へと帰っていったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...