片想い

ねこじた

文字の大きさ
1 / 1

片想い

しおりを挟む

 お互い、就職なども決まったが、むしろ、卒業までの猶予となった。学部も同じなんで、顔も合わすのだ。
 なのに安心でもしたのか、入学当時の関係性を維持するだけ、友達として、仲もよかった。
 綾と涼。その本心までは、どうであったか。
 一応、東京都内。それが、勤務地であった。かと言って、都心部と多摩地域だ。そんなのが決まって、やっと気がついた。
 卒業をすると別々での生活なんだろうが、その時が近くなると、どっちも、そこと向きあった。
 でも現状、動きだすとか、うん、どうだろう?ま、そんな段階なのだ。
 この年齢だと、時間の早さなんて、気づきもしない。だが、卒業は、来るのだ。
 

 綾は、定期券内でのバイトをなんとか見つけた。案外、慣れもあった。たぶん、シフトのペースの為か。文句も付けず、シフト表に従うと。なぜか、こんな状態だった。生涯の生業など、する気もなかったが、技術も上がった。
 ま、セルフレジの監視だが。
 バイト出勤途中も、電車に乗ってると、あいつ、馬鹿だな。なんて思ってしまう。
 大概、涼とのエピソードになるとそんな面白系になってた。
 まあ、綾のチョイスが原因なんで、おそらく、好意的なのだ。
 綾は無意識らしいが。
 もう直、降りる駅なのかな。ん、なんか景色とか違ってないか。
 やば、もう次の駅よね。あ、戻んないとじゃん。
 反対のホームに上がると、電車はちょうど発車直後でもあった。
 最悪だわ。
 仕方もないので、やっぱ、スマホを開くのだ。
 大学ではレポート提出もあった。メモアプリのなか、候補でもある幾つかのテーマなどが、書き込んではあった。ノートの一部とかも、写真で載せといた。こんなのを作ると数時間もかけた。
 あとは、ゲームで遊んでた。
 他のノート写真とかも気になったので、写真アプリも開くが、つい、友達との写真なんか眺めてしまった。
 丁度か、電車も来るのだ。
 ドアの横、揺られては、そんな写真に笑う。
 ひと駅なので、すぐであった。
 涼も写ってる。まったく、アホな奴だわ。
 同時かな。電車が止まった。
 また、やるとこ、だったわ。綾は、なんだか急いだ。
 スマホを消そうとするも、画面上は、涼の写真なのだ。しっかり、そんな場面である。
 綾は、なんか気づくが。嘘よ、いや、まさか。わざと、狼狽だ。
 どうも、分かってるんじゃないか、そんな説があった。


 まいったな。こんなにも出来ないものとは、告白がだ。涼は、会話だけも、ずっとしてた。
 完全な、世間話であった。
 机の下。紙袋などがある。たしか、友達に貸してもいた、授業ノートらしくて、なんと卒業の日に戻ったとか。お詫びのチョコもあった。
 涼は、なんとか、綾を探すのだが、意外と、隣の教室であった。
 綾は、別の友達なんかと話し込んでもいたが、すぐに気づく。
「ありがと、がんばってね」
「おう、そっちも、がんばれ」
 涼は、なんだか満足だ。
 じゃあ、ねえわ。
 こうして、僕らの卒業は、次のステップへと、自動的なスタートを切るしか、今思えば、なかったのだ。
 じゃあ、ねえわ。
 あ、終わった。


 卒業式のすぐ後、意外なんだが連絡などもあって、また集まろうか。まあ、飲み会のお誘いであった。正直、このぐらいだとバイトもあって、どうせ、辞める気なんだし、暇があるのなら稼いでおくか。
 一応、慣れた業務でもあった。
 綾はそれもあって遅刻参加なのだ。もう、なんだか始まってた。綾もドリンク追加とかすると、勝手になのだが、唐揚げとかをつまんだ。
 こんな雰囲気なのも、ある意味、酒の肴でもあったか。
 まだテンション低め、だから、多少は、合わせる面倒もあった。
 なんか、やっと、気づくのだ。
 あ、涼だわ。
 位置関係とか、距離もあった。
 あっちは、もう酔ってもいたか。目も合うが、つい笑ってしまう。


 それでも、誰だか、お開きの合図を挙げてた。あれ程、騒いでも、わりと無難であった。
 まあ、不思議なものだ。
 ひとり、酔いつぶれてしまい、同じ方向なので、同行は涼であった。
 だけど問題なのが。
 あれ、鞄もってないぞ。どうにか気づいて。
 綾は、あの居酒屋に戻った。店員さんが、分かってたのか、すぐに渡してくれる。よくあるのか、呆れて笑ってた。
 合流もするが、みんなで料金を出し合うと、涼達をタクシーに押し込んでる。
 すぐ近く、自販機があった。
「涼、気をつけてね」
 綾は笑うと、鞄と天然水。
 そんなのを渡すが、ドアが閉まった。
 結局かな、ろくに話もなかったわ。


 涼は、日曜も昼過ぎ。なんとか、起きた。
 あまり、飲むとかそんな機会もないが、毎回、翌朝は体調も悪かった。
それでも、覚えてるのは、綾と話す機会もなかった。そんなこと。
 もう、こんな風に集まるとか、ないのかも知れない。
 テーブルに、天然水のペットボトル。
 綾が、渡してくれた。
「涼、気をつけてね」
 あれで、もう、最後だったか。


 綾は、大学時代の荷物とか、未整理も完全版なのだ。
 大学の思い出なんか、山ほどあった。とは言え、人生、初就職であった。すでに思い出など、素敵な、セピア色だわ。
 そんな状態であった。
 若干、心残りもあるが、とある記憶だけ、愛着もあったのか転がってるのが、入り口付近となった。
 こんな時でも、くだらん、レベルでの連絡だとか、アホの娘になって、もっとしておくと、たぶん、違ったのかな。
 マジ、昨日、死んでなくね、なんて。
 入社式も間近なんで。そんなに、落ち込む余裕とか、なかった気もした。
 考えず、進んでしまった。


 もしかして、気にしてんのか?まさか、ないって。
 綾は転職をすると、別の会社なのだが、同じ業界なのもあって、知り合ったわけだ。
 それが耕作であった。
 あれから、何年経つのか。もう、いい加減、進まなくちゃ。
 そんなのを、思ったりもしてたが。
 まあ、とは言えだ。
 耕作とは、仕事が終わると、一杯ひっかけたり?なんて会ったりもした。あっちの確認などを取ってもないが。一番、気も合った、奴であった。
 まだ、付き合いだしても、三日ぐらいか。
 街なか、涼を見かける。
 涼が、あっちで振り返ったりとか、そんな素振りをするのだ。
 綾は、たぶん死角かな、を見つけるが、なぜか隠れてしまった。
 思ったよりも、動揺なのだ。
 やば、まさか、気にしてんのか。


 公園とも違うのかな。
 植樹とベンチだけの場所があった。
 突然、出現をする。お洒落な空間は、新米の広場らしく、なにか、整備をしてたのだが、やっと出来ると案外利用者もあった。
 綾は、会社のあと、通るだけのパン屋があって、試しで寄ったが、そこのハンバーガーの虜となった。
 このサイズなのに、値段がお得だった。
 晴れの日など、この場所は、ハンバーガー専用となった。
 そっか、なんか飲み物だ。
 午前中、飲みきってしまい、買うのを忘れた。構わず、かぶり付くのだが、若干、詰まりかけた。
 まって、お茶とかないわ。
「まだ、これ、未開封だ。なんか、飲めって」
ハンバーガーに夢中なもんで、案外、気づかなかった。
 顔を上げると、涼だった。
「俺ね、今、こっちなんだよ。一回、転職なんで。やっぱな、何度か、見かけたんだわ。わるい、もう、行かないと。明日も、このベンチな」
 涼は、急用でもあったか、慌てながらも、その場を去った。
「やっと、再会な」
 涼は、なんか振り返ると、そんな言葉を残すのだ。
 まいった、助かるわ。
 綾は、天然水を一気飲みすると、ラベルなどを見た。
 そっか、思い出すのだ。
 デザインは新しくなってるが、これ、最後の飲み会で、もう、話すタイミングもないかな。そんな気もして、タクシーに突っ込んだ。あの天然水だ。
 自販機だったので、うわ、高いな。それも、まだ、覚えてる。
 なんだか、懐かしいな。
 え、また、会う?

 
 ネットの記事にあった。その娘は、バレてしまった。二股がである。
 私は、べつに、お昼を食べるだけで、まあ、あっちの問題なのだ。  
 ん、だよね?
 お天気もよかった。
 なにも同じベンチが、空いてなくてもよかった。
 すでに待ってるが、涼も昔と変わらずだ。
 とにかく、よかったな。
「彼氏、いんのか?」
 涼は、そんな問だった。
 綾は、一瞬かな、黙ってしまう。
 まあ、動揺してるわ。
「一回、なんか、歩いてんのを、見てるしよ。まあ、そだな」
 涼は、なんか、伸びなどをすると言うのだ。
「そっか、フラれたわ」
 涼は、笑ってもなかった。
 綾は、気づくのだ。私、フラれたわ。
 涼は、脇にあったポテトを取るが、ひとつ落としてしまった。
「お、動揺してんの」
 涼は、なんだか笑った。
 綾は、それが、辛かった。
 涼は、スマホの画面とかを見るのだ。
「もう、時間だな」


 涼は、偶然だが、耕作と出会った。電車が止まったので、バス停が混んでるのだ。
 タクシーの方が、若干、マシなのか。
「タクシーは、道混んでんな」
 耕作は、なんて独り言。
 耕作が、ひとつ前に並んでた。
 涼は、綾と一緒であった、あの彼だと気づく。
 つい、目も合った。
「あっちは、もっとひどい」
 耕作は、ものすごい列、そんなバス停を指すと、愛想笑いなのだ。
 すぐあと、耕作のポケットだ。スマホが鳴った。
「あ、分かった、予定変更な。今、どこなの?たぶん、すげぇ近いわ」
 耕作は、列から、外れてしまう。
 綾の声だったか。
 涼は、なんとなく笑ってた。
 タクシーを待つが、耕作の方を見てしまった。すごい列だが、バス停の近くだ。電話の相手か、どうにか合流してた。綾だった。
 そんなのを見てるが、間もあった。   
 なぜか苦笑い。


「どこも、混んでのよ。タクシーかな、とか思ったわ」
 耕作は、身振り、手振りなのだ。
 綾は、つられると、そっちを見てしまった。
 タクシー乗り場。向こうでも、ちょうど、こっちに視線を向けるので、なんだかタイミングもあった。
 だから、目が合う。
 なので、涼は、苦笑いなのだ。
 綾は、涼が視線を反らすまでを、なぜか見てしまった。
 どうにか、タクシーは来て。
 ふたりも角を曲がった。


 まあ、いつかわ。そんな話でもあった。
「もっと、きちんとするんだよ。この話って、なんか、ごめん」
 耕作は、そんな風、謝ってたな。
 結婚であった。
 綾は、正直、考えてもなくて、意外となのだが、予想外。
 普通だと、こんな感じなのか。
 進み方なんてものは。みんな、どうなのかな。なにか決断?それとも流されるか。なんて、気もするのだ。


 綾は、最近、コンビニ弁当での、オフィス食なんかも多くなって。
 まあ、あの公園でランチとか、この先ないんだと思う。
 だから、それは、また再会なんてしない為だった。
 可能性など、あの公園ぐらい。なんてのもあるが。
 あいつを避けて、まあ、仮対応かな。
 涼は、たしか、駅の近くにあった。お洒落なカフェとかで、軽く済ませるとか言ってた。ひとつ奥の通りだと、定食屋とかも並んでる。
 あえて、逆をつくか。
 意外と、出くわさないのだ。
 一度、食べもした、町中華があったな。あの店、決定だわ。
 賑わってた。
 奥のカウンター席があるな。
 ちょうど、厨房の前となった。
 あら、涼がいた。


 綾は、値段で選んでしまった、そんなソファに身体を預けながら、大学時代の由香と長電話となった。
 時計を見ると、ずいぶん経つわ。
 一応、明日の仕事もあった。
 正直、準備をしたかったのだ。どうにか思い出す。
「私、明日もあるのよ、もう、切り上げないと」
 綾は、やっと音も上げて、由香の同意を求めるが。
「あ、そうだわ。忘れてた。今度の連休、どう、大学のみんなで集まんないかな。それの電話なのよ、これって」
「だって、一時間も話し込んでたわよ」
「本題。ちょっと、聞いてよ。あのさ、知ってる。仕事なんだけど、涼君、都内なんだって。あいつ、転職してんの。だからね、お店とか、お願い。上手く、二人で探しといてよ。じつは、あっちに、もう言ってあるんだわ。お店、じゃ、よろしくね。あ、ごめん、こんな時間だわ」
 あっちから、電話が切れた。
 まったく、勝手だわ。


 居酒屋なんかで会うと、お店の相談なのだ。それも涼と。どこにしよっか?なんて。
 若干、会いたくなもかった。
 上手く、バレずに、やっとくか。
 なんか、面倒だわ。
 一応、日帰りとはなった。宿泊費などを出す気もなく。その為、とある要望なのが、昼間でもお酒の提供があって、移動も短めを希望なんだとか。
 今日だって、もう同窓会であった。涼と二人なんだが。
 綾は、つい思ってしまう。
 こんな風に会うの、もうやめたい。
 なんか変かも知れない。そんなの、わざと、言いたいのか?
 言えば、このラインは、たぶん、消えるのかな。
 しかも、なんだか、会わないようになんて、言う必要性もなく。
 いつもの生活とかをするだけで。
 連休の後になったら、もう、それで消えるか。


 スマホなどで調べながらも、あの人数だと、以前もあったが、テーブルを分けたりとか、その場でなら、みんなで適当に判断もするが、写真も店舗外観だけだと、あっちで違うかも、なんてクレームを受けたくもなかった。
 幾つかは、ピックアップもしたが、もう実際、行ってみるか。なんて話にもなった。
 結局、候補は絞るが、あとは後日かな。なんて具合だ。
「どうする?今日、これ、割り勘だよね」
 綾は、そんな話をするが、追加メニューを吟味であった。
 綾のスマホが鳴った。会社の同僚からで、なんか相談とかあって。
 今から、家とか大丈夫かな。もう、向かってんの。相談?愚痴かな。なんてメールなのだ。
「なんか、ごめん、もう帰んないと」
 綾は、時間を確認をしながらも、涼に謝罪であった。
 バタつくも、居酒屋を出た。
 だけど、思うところが、あった。
 戻ると、ちょっと顔を出すのだ。
「ね、じゃあね」
 だけなのだ。
「え、ああ」
涼は、なんでかな?不思議にも思った。
 あ、割り勘。まあ、いっか。
 追いかけるのか、それもどうか。
 涼は、ビールを飲んでしまうと、ま、こっちも帰るかな。荷物などを抱えた。
 綾は、店を出たとこ、壁にもたれて座り込んでた。
 こんなのも、あと少しだわ。
 顔の辺りか、片手で押さえると、下を向くのだ。
 あ、泣きは、しないのか。
 涼は、やっと、お支払い。
 どうにか店を出ると、もう、いなかった。


 耕作は、スマホで話しながらも、夕飯のコンビニ弁当の残骸を片付けた。
「うん、ありがと」
 綾との電話を切るのだが、すぐにスマホが鳴った。
 会社の先輩であった。
 よく仕事もするのは、同じ部署なのもあるが、なぜか、変に気もあった。
 以前、大規模なコンペがあって、それに呼んでくれたのが、この先輩だった。
 綾と出会ったのは、その時なのだ。資料などを配布したりと、チームのサポート的な役回りらしかった。
 別の件でも、ライバルとなった。
 好みでもあった。そんなのもあるが、チームのなかで女性なのは、綾だけであった。
 その意味で、近づいた。
 先輩の松原は、明日の会議のことで、話もあったらしく、いつも悪いな、とか言った。
 松原は、しばらく業務説明だ。
「まあ、そんな話だわ。一応、お前だけも、言わないとよ。で、どうなんだよ。上手く、情報、引き出せそうなのか。なんて名前だっけ?」
「だから、じっくりと、やってますよ。まあ、順調なんで」
 耕作は、わりと適当な返事だ。
 松原はどうも面倒。この話をするんじゃなかった。
 なんか、色々と言ってくる。
「いや、なんすか。もう昭和初期ですよ。あとで、検索しとくんで、婚前旅行」


 珍しく、綾が到着などすると、もう耕作がいた。
 いつもとは待ち合わせの場所も違ってた。理由も言わないので文句を言うが、結局、ついて行った。
 なんか、わりと高級店だ。
 綾は、やはり躊躇となった。
 普段の行動範囲からも、だいぶ離れもするが、なんてお洒落な。
 お金を使わせるのは、若干、避けたかった気がした。
 なんだか展開も早いか。
 つい、考えてしまう。
 だけど、どうも予約してあった。
 並んだお皿など、すでに何料理かも分かんない。なんか美味しそう。よりも、うわ、お洒落。
 と形状を褒めたかった。
「なんだよ、それ」
 耕作は、なぜか不満顔であった。
「だって、大丈夫なの?なんか高いよね。え、割り勘なの?」
 綾は驚愕なのだ。
「そんなわけ、あるか?俺がもつだろ、普通わよ」
 耕作の抗議である。
 これって、どこ料理なのよ。そんな綾の疑問には、いや、どこなんだろ。なんて疑問で戻ってた。
「なあ、いつか、海外とか無理でもよ。こんな料理は出なくても、国内なら、どっか、行かないか」
 耕作は、なども提案。
 綾は、この食事もあるし、まあ、了解なのだ。
 なんだけど、次の連休だと、あの同窓会もあったので、そのうち、ゆっくり、計画を立てるかな、そんな感じだ。

 
 耕作は、靴ひもが緩んでしまって、いけるかとも思ったが、完全にほどけてるのを途中で気づくと、さすがに断念した。
「一瞬、これ、持ってくんない?」
 書類サイズの封筒がどうも邪魔なので、耕作が助けを求めた。
 レストランの時には、すでに、どこに置くのか謎でもあった。なんと預かってくれたので、二人とも驚いてしまった。
 あれがクロークなのか、あとで知ったが。
「それ、例の奴だわ。うちの方のなんだけど、コンペ資料。チラッとなら、構わないぜ」
 耕作は、なんて笑った。
 だけど綾は呆れてた。
「まったく、馬鹿じゃないの」
 綾は、タクシーをスマホで呼ぶのだが、耕作の方で、なにか着信があった。
 先輩の松原だった。
「悪い、なんか、仕事のだわ」
 耕作は、困った顔とか見せた。
 一応、離れる。
 綾もだが、同業他社もあるので、あんまり聞いてしまうのも。なんて思いもあった。
 耕作としては、あの松原だから、どこか不安があった。また、なにを言うかも分かんない。
 近くにコンビニがあった。
 そっちで、スマホに出る。
 ただ、着信が切れてもいた。
「あ、なんか、連絡あったんで。なんすか」
 耕作は、仕事感とか出すと、らしく電話もする。
「悪いな。今、平気か。あの件、クリアになったよ。先方さん、あの額なら、頼むってよ。で、どうよ。あの娘、バレてないだろな」
 松原は、いつもの感じだ。
 綾は、すぐにもタクシーが来るかも、そんな心配もあって、耕作を探すのだが、案外、話し込んでるし。
 コンビニがあって、なんか横の壁とかに、寄りかかってんの。
 もう、どうするのよ。
 たぶん、あれか。
 タクシーは近くで止まる、かと言って、電話中の耕作だから。
 綾は、開くドアから首を突っ込むと、運転手に話かけた。
「あの、もう一人いるんですけど、あっちで、電話しちゃって、すぐ戻るんで」
 綾は、説明だけもすると、近くだし、面倒なので走らない。
 耕作は、そんなこと、気づきもしなかった。鞄が邪魔なのか直しながらも、横の壁にもたれながら松原の相手をしてるだけ。
「えっとなんて娘だっけか、コンペの情報、なんか持ってんのか?」
「だから、綾ですって。今、一緒なんすよ。マジ、邪魔なんで。まあ、上手くやってるかな。何か、分かったら、後で。え、ないですよ。そんな話とか、形だけ、そんな話だってすんでしょ。だって、結婚ですよ。まさか、ないって。まあ、大丈夫。まったく、気づいては、ないんだから」
 この時間なのに、自転車とかも数台止まってた。その手前かな、綾が呆然としてるのを気づけてなかった。
 なぜか、スピーカーだった。
 そんなのも嫌で。


 タクシーのドアが閉まる。
 綾は、一人で乗り込んでしまった。
「すいません、大丈夫なんで、出して下さい」
 一応なのだが、綾は愛想もよかった。
 しばらく、外の景色も流れるが、街並みなんて、覚えてなかった。
 やっと、スマホをいじる。
 なんか面倒。
 ごめん、急用なの。帰るわ。
 雑な文章しか、打てなかった。


 耕作は、いつもの調子で連絡もしてくる。まったく、気づいてないらしい。
 出る気などなかった。
 フェードアウトか、こうやって連絡もあるのに、どう対応していくの。
 日曜の朝だ。綾は、冷凍食品のグラタンをチンすると、バゲットの上に乗せたかった。
 エビグラタンが出来たらしく、バゲットをトースターから出すのだが、まったく焼けてない。
 途中、スマホが鳴ったので、中断するも耕作だった。
 テンションも下がるわ、トースターのスイッチを忘れるわ。
 なんか、腹立つな。
 バゲットは、ほんのりと焼けるが、エビグラタンは、その分だけ冷めた。
 また、エビグラタンを温めると、その分、バゲットはどうなるか?
 トーストすると、もう焦げる。
 いや、エビグラタンは、熱々がよかった。
 結局、もう一度、エビグラタンを温めると、冷めたバゲットに乗せてた。
 ま、戻ったわ。
 せっかく食べようかと思ったのに、またスマホが鳴るのだ。若干、不機嫌にもなるが涼であった。
 ひと口食べるもメールを開く。
 とくに緊急の内容でもないが、まあ、返してもおくか。
 連休の件だけど、店はどうすんの。そんなことだった。
 いや、食べてからでも、大丈夫かな。
 綾は、最近スーパーで買った、ティーバッグの紅茶などを入れだすのだ。
 一時間もたって、やっと返信であった。
 仕事終わりでも、空いてる日があったら、こっちで合わせるし。
 なんて打ち合わせの連絡だ。
 涼は、こっちに予定があるとか、なんか思ってるらしい。
 結構、そうでもないんだよ。
 なんで、付き合ってたのかな。
 私、何をしてたんだ?
 こんな私だ。なんか会いづらいわ。
 涼に返信するんで、綾はスマホを操作してると、また着信である。
 なんか、大丈夫かな。よかったら、飲みでも行こうぜ。
 なんだ、耕作であった。
 綾は、一応は、読むのだが。
 仕事終わりなら、いつでも可なんで。
 もう、涼に返信だった。


 なぜなのか、あの町中華で、夕飯でも食べながらの検討、そんな話となった。
 現地集合なのだが、綾の会社の近くのとこ、待ち伏せ状態なのは、涼であった。
「あのさ、なんだろうな。ちょっと、話なのかな」
 なんだか、涼は、キレも悪いのだ。
 どう言う、意味なのよ。
「だから、サクッと言っちゃえよ」
 綾は、若干、面倒でもあった。
「サクッとわ、違うかな。だろ?」
「いや、分かんないっての」
「だからさ、あのさ。好きなんだよ。なにも今、言うことでも、ないんだけどよ」
 綾でも、さすがに、なんとなく分かる。
「天津飯とか?」
「だから、お前だよ」
 涼は、わりと間もあった。
「ずっと、あの頃からなんだよ」
 綾は、嬉しかった。
 なんだ、同じだったか。
 もう、十分だわ。
 さてと、この辺か、もう止めないと。
 だって。
 最近、なんだか、あの頃が懐かしいので、意外とキツかった。
「なんか、やっぱりね。今日、帰るかな、ごめん」
 綾は、納得でもしたか、案外、静かな笑顔であった。
「いや、ごめん。変なこと、言ったわ。俺だわ」
 涼は、かなり慌てるが。
 綾は、背を向けてしまった。
 だから、違うの。
 理由もあった。
 どう返すと、いいのかな。
 返事とか、どっちで返すのか、もし迷えば。なんか快諾しそうで。
「あのね、こっちの問題なの。本当、嬉しかったな」
 こんなの、上手く説明なんか出来ないかもな。
 まあ、したくもないが。
 いっそ、振り返ってしまう。
 よし、こんな時は、笑って胡麻化すか。
「びっくりよ。本当、ありがと」
 望んだのと違ってた。
 そんな着地点なのだが。
 ま、いっか。


 涼は、仕事が終わると、あとは予定もなかったので、あのプチ同窓会と言うのか、その会場候補にでも行くかと思った。
 元カフェらしくて、その居抜きなんだとか。
 この視察は、どうも、お洒落な居酒屋らしい。


 綾は、まだ業務途中である、受付の香と話し込んでる。
「今日、なんか、これから取引とか、あるんでしょ?」
 香は、綾の先輩なのだが、転職の都合で、同い年ではあった。
「そうなの。先方が来るまで、いて欲しいとか。急なんだもん。揉めてんだってよ」
 香は、小声をつかう。
「ねえ、この間のなんだけど、あのお店、渋谷のとこ。大学の友達と、どうかなって。あそこ、料金とか、他も高くなかったよね。なんか、酔ってたんで、曖昧なのよ。こんど集まるの、でも不安要素なの」
「どうだっけ?こっちも、酔ってたわ」
 香は、そんな返答だ。
「今から、偵察なの。まあ、飲みながらよ」
「また、酔ってんの」
 香は、わざと呆れた。


 耕作は、仕事のあとで、綾の会社とかに顔を出す。
 入り口近くで、連絡の為かスマホを開くが、そこに、受付の花瓶なんか持って、香が通るのだ。
「あら?」
「ども」
「え、綾?さっきかな、帰ったよ」
「あ、どうも」
「なんで、連絡してないの?」
「なんか、出ないんだよ」
「ああ、なんか、したのか」
 香は、納得もしたのか、笑顔で返すのだ。
 若干、考え込んだが、何かを伝えて。
「あ、どうも」
 あ、まずかったかな。
 なんて、香は思ってた。


 店舗の前。三人とも、やっぱり出くわしてた。
 綾の彼は、綾の同僚と会ったとかで偶然なんだが、居場所も聞けたらしくて。案外、集まってる。
 涼だって、耕作とは、一応の面識もあったが。
 偶然、タクシー乗り場。混んでますね、とか挨拶程度なのだ。
 そんなレベルでは、顔なんて、覚えてもないか。涼だって、綾の彼氏でもないと、こんな相手、覚える気もない。
 だから、逆だって不思議でもなかった。
 あの時など、二人の印象もあった。そこらのカップルでもあったが、自然なものだった。
 だけども。綾の態度は、軽めの壁があった。
 どうも、そんな空気を感じたのが、一番、耕作なのだった。
 涼の方は、耕作の様子もあって、やっと、気づいた程度だから。
 涼がいても、綾の態度が変更されるとか、そんな兆候もなかった。


「俺、夕飯がてら、飲んでよ。後で、連絡しとくわ」
 涼は、二人に気を使って、と言うのか、どこか、綾に遠慮もあったか。
 さすがに、邪魔かもな。
 そう思ってしまう、綾の雰囲気もあった。
 綾にすれば、そんな気の使われ方なんか、望ましくはない。
 ま、そうなるわな。
 とか思った。
「なあ、どうする?なんだか悪いね」
 耕作は、涼に気を使いもするが。
「今から、俺ん家なんか、どう?いつもの店とか、寄った後でもよ」
 なんて、ごく自然であった。
 あんな電話の内容でか。綾は、思ってた。
 諦めなのか、なんだか笑ってた。涼は、なんとも言えない表情なのだ。
 綾は、それを見れなかった。
 決着も、つけるかな。
 まあ、せめて、両方。


 耕作は、とりあえずか、時計なんて見たのだ。
「まあ、行こうか?」
 綾は、泣きもしないが、どこか抑えてた。それでも、しっかりと睨むのだ。 
「耕作、別れよう。私ね、たぶん好きな奴とか、いたのかな。なのにコンペ?こんなのに、ひっかかったのよ。もう、いいか。なんと自業自得なの」
 綾は、涼がどんな表情かも、見れなかった。
 その横を通りぬけた。


 もう。
 なんて綾は思った。
 あの後、追っかけてくる。
 どうすんの、あれ。
 なんでよ、涼である。
 なぜか、付いてくるのだ。挙げ句、追いつく。
 綾はもう無視してた。
 涼は、一応、動揺してます。なのか、愛想笑い。
 そんなのが、綾は面倒くさい。
 だから、睨んでた。
「なあ?俺か」
「もう、なんか、ムカつくわ」
 やっと、素直にか。
 二人とも、笑ってた。
 それも、とくに綾の方かな。
 まってよ、渾身の笑顔なの?
 あ、十分いけるわ。

 

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

処理中です...