自分を変えたい元社会人のボクシングライフ

陰猫(改)

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第2章【勝負への葛藤】

第17話【鈴木宗成対坂崎竜也】

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 そして、鈴木さんの試合当日。

 『流行り病をぶっ飛ばせ!』のフレーズの元、復旧祈願の試合が設けられた。
 試合数は少なく、鈴木さんの試合以外に一つしか入ってなかった。
 そして、観戦客もまだマスクをして距離を空けて座っている。

 まだ、満員御礼とまではいかないらしい。

 鈴木さんの前の試合は泥沼のような戦い方をしていた。
 お互い、まだ本調子ではない。
 そんなようにも見える。体温検査などはしているし、問題ないとは思うんだが、やはり、この普段と違う空気で肩が張っているのだろうか?

 そんな事を思いながら、俺は観客席の最後尾で坂田さんと共に座って観戦する。

「二人とも、本調子じゃないんでしょうか?」
「宣言がなくなって、まだ日も浅い。
 身体が作り切れてないんだろう」
「鈴木さんは大丈夫ですか?」
「それは君も知っての通りだろう?」

 坂田さんとある程度の話をしていると二人のボクサーが息を切らせて、互いを睨む。

「あの二人もリズムを取り戻したみたいだ。恐らく、次のラウンドで決まるだろう」

 坂田さんの言葉は正しく、二人の選手はその前までのラウンドが嘘のように牽制し、互いに隙を狙うように殴り合い、一瞬の隙をついて赤コーナーの選手がフィニッシュでアッパーを貰って膝をついて倒れ込む。
 10カウントが進み、試合は青コーナーの関口と呼ばれる選手が勝った。

 そして、次の試合で、いよいよ鈴木さんの番となる。
 鈴木さんの体格はスリムで以前と然程、変わらない。
 坂崎竜也と呼ばれる選手も身体が仕上がっているのか、腕などの筋肉が日頃の鍛練を物語っている。

 身長は竜也さんの方が鈴木さんよりも頭一つ分、大きい。
 本当に同じ階級なのかと思ってしまう。

 ゴングが鳴ると鈴木さんが前に出ようとして止まる。
 竜也さんは鈴木さんに近付く事はせず、かと言って離れず、一定のリズムで右腕を振る。
 刹那、鈴木さんの頬をパンチが掠める。

「サウスポーによるヒットマンスタイルからのフリッカージャブか。竜也と呼ばれる選手は新しい手段を入手したらしいね」
「けれど、一朝一夕のパンチなら鈴木さんなら、かわせる筈です」
「勿論だ。つまり、あれが竜也本来のスタイルなのだろう。
 宗成君はどちらかと言えば、アウトボクサー型だからリーチを活かしたあのパンチは厄介だね?」

 鈴木さんは牽制で放たれるサウスポーのフリッカージャブに苦戦している。
 モンスター東山野とは違う厄介なタイプなのが、俺にも理解出来る。

 練習にない竜也の行動になかなか、鈴木さんは攻められないでいる。

「リーチは竜也が上か・・・」
「打開策はないんですか?」
「幾つかあるにはある。ただ、宗成君にはサウスポーのフリッカージャブの経験がない。この試合も少々相性が悪いね?」

 俺はそんな坂田さんの言葉を聞きながら、鈴木さんの様子を固唾を飲んで見守る。

 次の瞬間、鈴木さんが前に出て、左へウィービングしながらフリッカーを避ける。

「よし!」
「いや、ダメだ」

 俺が鈴木さんが懐に潜った瞬間に思わず、口走った声を坂田さんが制する。
 次の瞬間、鈴木さんの顔面に竜也さんの振り下ろしたパンチが当たり、鈴木さんの膝が揺れた。
 その間に竜也さんは離れて、再び鈴木さんと距離を取る。

「竜也の方が一枚上手だ。これは経験の差だろうね?」
「なんとかならないんですか?」
「なるにはなるが、それは宗成君次第だね。まあ、それに気付けるかどうかで次のラウンドは変わるだろう」

 そう坂田さんが告げ、鈴木さんがガード越しに竜也さんのフリッカージャブを耐えているとゴングが鳴る。
 とりあえず、1ラウンドは凌いだ。

 次のラウンドは果たして、どうなるか?

 そんな風に心配していると不意に坂田さんがニヤリと笑う。

「流石は会長だ。もう気付いたらしい」
「え?」

 俺にはその意図は解らなかったが、会長さんにはこの状況を打開する手が思い付いたらしい。
 その証拠に鈴木さんもどこか落ち着いている。

「もしかすると次のラウンドでようやく宗成君らしいスタイルが見れるかもね?」
「あの、それはどういう意味ですか?」
「まあ、見ていれば、解るよ」

 坂田さんがそう告げた瞬間、再びゴングが鳴り響く。
 竜也さんは相変わらず、ヒットマンスタイルって言うのを崩さないーーと鈴木さんがガードしながら前に出る。
 その瞬間、再び竜也さんのジャブが鈴木さんを襲うが、鈴木さんはそれを今度は右に避けた。
 竜也さんもそれに気付いたが、時すでに遅く、鈴木さんの右ボディーブローをもろに受けて体勢が崩れたところへ鈴木さんの右フックがテンプルを捉え、勢いよく倒れ込む。

 数少ない観客から歓声が上がり、俺も興奮した。

「スゴい!」
「まあ、妥当な結果だね。竜也がサウスポースタイルの選手ならではの落とし穴さ。
 左避ければ、左のカウンターが来る。なら、右のフリッカーが来た時、右に避ければ?」
「成る程。打つ手がない訳ですね?」
「そう言う事さ」

 坂田さんはそう告げるとカウントが7のところで立ち上がる。
 あとは鈴木さんのペースだった。

 ワンツーからのアッパー。ボディーの連打からのストレート。
 かなり、有利に進んでいる。

 そんな中、あとのない竜也さんが大振りのスイングで鈴木さんを狙う。
 それはモンスター東山野の攻撃に似ていた。

 一瞬、鈴木さんが危ないかもと思ったが、鈴木さんはそれに臆する事なく、ダッキングでかわし、左ショートアッパーから右ストレートのコンビネーションで決める。

 レフェリーが再度、カウントを取るが、今度は起き上がる気配がない。
 そして、ついに10カウントが取られ、鈴木さんの勝利が決まった。

 2ラウンド2分5秒。鈴木さんのKO勝ちである。
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