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第3章【勝負の世界】
第25話【多田野正樹対真川政介(1)】
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試合当日、俺はシャドーボクシングをして軽く身体を動かす。
相手は真川(さながわ)政介(まさすけ)と云う選手だ。
なんでも、数あるアマチュアボクサーの中でもベテランであるのに何故か、アマチュア止まりの選手なんだとか・・・。
会長曰く、「恐らく、ボクシングは趣味か何かと割り切っているのだろう。逆に言えば、それが弱点だ」と俺にアドバイスをくれる。
それに対して、俺が「どういう意味ですか?」と返すと鈴木さんが代わりに説明してくれた。
「プロとアマチュアの違いは多々ありますが、その中に意識というのがあります。
つまり、真川という選手がボクシングをするのは未練があるからか、あるいはボクシングよりも適した職を生業としているのか・・・いずれにしろ、ボクサーとしての未練なのか、意識が低いのかも知れません」
「つまり、今回の相手は油断さえしなければ、勝てる可能性はあると?」
「そういう事です」
鈴木さんは頷くと俺は「成る程」と納得し、ベンチに座る。
身体の火照り具合や汗は程好い具合だ。
緊張は多少あれども、比較的リラックスしている。
これならベストな試合が出来るだろう。
そんな事を考えていると係員の人が俺の名を呼び、時間だと教えてくれる。
会長が頷き、俺の肩に触れると俺も立ち上がった。
真川選手はヘッドギアで顔はよく見えないが、俺よりも年齢が上なのが解る。
俺は真川選手とリングで対峙するとお互いを睨み合う。
レフェリーがある程度、今回のルールを説明してくれてから真川選手が俺に軽口を叩く。
「前回の試合はとんだ茶番だったな、若いの?
ヘッドギアがなきゃ廃人だったかもな?」
「ご存知でしたか?」
「まあ、あれだけ派手にKOされてりゃな?
てっきり、今回は不戦勝だとばかり思っていたけどな?」
「そう言われれば、そうかも知れないですね」
「まあ、俺の試合もワンパンで沈まないように精々、頑張んな」
どこか挑発めいた事を真川さんがニヤニヤしながら告げるとレフェリーが「二人とも、コーナーへ戻って」と言って、俺達はお互いのコーナーに戻る。
そんな俺達のやりとりを見ていた会長さんが真川選手になんと言われたのかと尋ねられる。
それに対して、俺は「前回の戦いはとんだ茶番だったな?と言われました」と答えると会長さんはニヤリと笑い、「なら、チャンスかも知れないな」と返す。
俺もそれには激しく同意だ。
相手は先のインパクトが強すぎて、俺の事を把握しきれていない。
しかも、此方が自身より格下だと侮っている。
「出方を見る必要はない。まずは一発かまして来なさい」
その言葉に俺は頷いてマウスピースを口にはめる。
セコンドアウトの呼び掛けで会長さん達がリングから降り、俺はゴングが鳴るのを待つ。
そして、いざ、ゴングが鳴ると俺は先手必勝と云わんばかりにダッシュして間合いを詰め、ワンツーを放つ。
それを喰らってしまった真川選手はクリーンヒットして慌てて、此方に手を出してくる。
俺はそれを回避すると真川選手を軸に基本的なアウトボクシングの動作で挑む。
一撃一撃は軽いかも知れないが、数で勝敗を決めるこの勝負なら俺に分がある。
自分でも、かなり、お手本通りの一撃離脱のアウトボクシングが出来たと思う。
加えて、真川さんは格下と油断していた俺にリードされて戸惑っている。
本当にベテランなのか気になってしまうが、これはチャンスだ。
真川さんはスロースタートなのかも知れない。
ならば、リズムが整う前に叩くのみだ。
そう思い、更に機敏に動きながらラッシュを叩き込む。
そこでゴングが鳴り、俺達はお互いにコーナーに戻る。
俺はうがいをしながら、会長さんの言葉に耳を傾けた。
「先手は君がリードしている。だが、油断はしない事だ。
相手もこのラウンドで落ち着きを取り戻そうとするだろう。
君は基本を忘れず、練習通りに戦えば良い」
「はい!」
俺は気迫を込めて答えると真川さんを見据える。相手はまだ、本調子ではない。
これなら負けない筈だ。
そう思いながら真川さんの目を見ると迷いを断ったかのように落ち着いた表情で此方を見ている。
どうやら、会長さんの見立て通り、真川さんも落ち着きを取り戻しているらしい。
なら、次の試合は冷静に事を進めるようだな。
そう判断した矢先にゴングが鳴り響いた。
相手は真川(さながわ)政介(まさすけ)と云う選手だ。
なんでも、数あるアマチュアボクサーの中でもベテランであるのに何故か、アマチュア止まりの選手なんだとか・・・。
会長曰く、「恐らく、ボクシングは趣味か何かと割り切っているのだろう。逆に言えば、それが弱点だ」と俺にアドバイスをくれる。
それに対して、俺が「どういう意味ですか?」と返すと鈴木さんが代わりに説明してくれた。
「プロとアマチュアの違いは多々ありますが、その中に意識というのがあります。
つまり、真川という選手がボクシングをするのは未練があるからか、あるいはボクシングよりも適した職を生業としているのか・・・いずれにしろ、ボクサーとしての未練なのか、意識が低いのかも知れません」
「つまり、今回の相手は油断さえしなければ、勝てる可能性はあると?」
「そういう事です」
鈴木さんは頷くと俺は「成る程」と納得し、ベンチに座る。
身体の火照り具合や汗は程好い具合だ。
緊張は多少あれども、比較的リラックスしている。
これならベストな試合が出来るだろう。
そんな事を考えていると係員の人が俺の名を呼び、時間だと教えてくれる。
会長が頷き、俺の肩に触れると俺も立ち上がった。
真川選手はヘッドギアで顔はよく見えないが、俺よりも年齢が上なのが解る。
俺は真川選手とリングで対峙するとお互いを睨み合う。
レフェリーがある程度、今回のルールを説明してくれてから真川選手が俺に軽口を叩く。
「前回の試合はとんだ茶番だったな、若いの?
ヘッドギアがなきゃ廃人だったかもな?」
「ご存知でしたか?」
「まあ、あれだけ派手にKOされてりゃな?
てっきり、今回は不戦勝だとばかり思っていたけどな?」
「そう言われれば、そうかも知れないですね」
「まあ、俺の試合もワンパンで沈まないように精々、頑張んな」
どこか挑発めいた事を真川さんがニヤニヤしながら告げるとレフェリーが「二人とも、コーナーへ戻って」と言って、俺達はお互いのコーナーに戻る。
そんな俺達のやりとりを見ていた会長さんが真川選手になんと言われたのかと尋ねられる。
それに対して、俺は「前回の戦いはとんだ茶番だったな?と言われました」と答えると会長さんはニヤリと笑い、「なら、チャンスかも知れないな」と返す。
俺もそれには激しく同意だ。
相手は先のインパクトが強すぎて、俺の事を把握しきれていない。
しかも、此方が自身より格下だと侮っている。
「出方を見る必要はない。まずは一発かまして来なさい」
その言葉に俺は頷いてマウスピースを口にはめる。
セコンドアウトの呼び掛けで会長さん達がリングから降り、俺はゴングが鳴るのを待つ。
そして、いざ、ゴングが鳴ると俺は先手必勝と云わんばかりにダッシュして間合いを詰め、ワンツーを放つ。
それを喰らってしまった真川選手はクリーンヒットして慌てて、此方に手を出してくる。
俺はそれを回避すると真川選手を軸に基本的なアウトボクシングの動作で挑む。
一撃一撃は軽いかも知れないが、数で勝敗を決めるこの勝負なら俺に分がある。
自分でも、かなり、お手本通りの一撃離脱のアウトボクシングが出来たと思う。
加えて、真川さんは格下と油断していた俺にリードされて戸惑っている。
本当にベテランなのか気になってしまうが、これはチャンスだ。
真川さんはスロースタートなのかも知れない。
ならば、リズムが整う前に叩くのみだ。
そう思い、更に機敏に動きながらラッシュを叩き込む。
そこでゴングが鳴り、俺達はお互いにコーナーに戻る。
俺はうがいをしながら、会長さんの言葉に耳を傾けた。
「先手は君がリードしている。だが、油断はしない事だ。
相手もこのラウンドで落ち着きを取り戻そうとするだろう。
君は基本を忘れず、練習通りに戦えば良い」
「はい!」
俺は気迫を込めて答えると真川さんを見据える。相手はまだ、本調子ではない。
これなら負けない筈だ。
そう思いながら真川さんの目を見ると迷いを断ったかのように落ち着いた表情で此方を見ている。
どうやら、会長さんの見立て通り、真川さんも落ち着きを取り戻しているらしい。
なら、次の試合は冷静に事を進めるようだな。
そう判断した矢先にゴングが鳴り響いた。
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