自分を変えたい元社会人のボクシングライフ

陰猫(改)

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第4章【プロへの道】

第39話【変貌と羨望】

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 俺は観客席の外で獅童さんと天原選手と鈴木さんとの試合まで待つ。
 その前に日本ライト級5位を決める試合が行われる予定であった。

 そこに現れたのは三国泰であった。

「え?なんで、うちのジムに移籍したばかりの三国君が?」
「え?獅童さんも知らなかったんですか?」

 三国が移籍したのもそうだが、同じジムの先輩である獅童さんに相談もなく、試合を組んだ彼の心境が解らない。
 そんな三国と視線が合う。

 いや、三国は最初から俺を探していたようにも思う。

 その笑みを見た時、俺は鳥肌が立った。

「大丈夫かい?」

 獅童さんに声を掛けられ、俺は我に返る。
 なんだったのだ、いまのは?

「気分が悪いなら、外にいますか?
 なんだったら、鈴木さんのところにでも行きますか?」
「・・・いえ。大丈夫です」

 俺は冷や汗を拭うと獅童さんに顔を向けた。
 三国泰って男はあんな不気味な男だったか?

 いや、俺の気のせいかも知れない。

 そんな事を考えている間にゴングが鳴らされる。
 鈍い音が会場に響いたのはその直後であった。

「え?」

 誰もが呆気に取られた。
 あまりにも一瞬過ぎる事に誰もがリングを凝視した。

 三国の拳が相手の顔面にめり込み、コーナーまで押し付けられて眼球がいまにもはみ出そうになっている姿に・・・。

 悲鳴が上がったのは次の瞬間であった。
 相手選手の生死も心配だったが、そんな相手に目もくれずに此方に投げキッスをしてくる三国に恐怖を覚えた。
 俺はあんな奴をライバルとして戦おうとしていたのかと・・・。

 三国が此方に手を振り、笑顔を向けてくる姿に得たいの知れない何かを感じ、俺は膝を震わせた。

「なんだ。あれは・・・あんなのボクシングじゃない」

 獅童さんも三国のボクシングスタイルにボソリと呟くと怒りを込めて、三国を見詰めた。
 担架で相手選手が運ばれる中、三国は嬉々としてリングを後にしていく。

「獅童さん。今のって・・・」
「全体重を乗せて放つジョルトって技術だよ。でも、あれはただのジョルトじゃない。
 あれは相手を撲殺する為だけに特化した危険なモノだ」

 獅童さんはそう説明してくれると拳を強く握る。

「三国君については僕に任せてくれ。どうにも嫌な予感がするからね」

 獅童さんが俺の心境を察してか、そう言ってくれたので俺は少し気持ちが楽になる。

 三国泰の変化とはなんだろうか?
 あの俺に向けた不気味な笑顔と関係あるのだろうか?

「おっと、そんな話をしている間に鈴木さんの番のようだね?」

 獅童さんにそう言われ、俺は再びリングに視線を戻す。

「僕の試合が参考になったなら良いんだけどね?」
「獅童さん。試合前日に言ってましたからね。
 僕の敵討ちの為に天原選手に挑まないで下さいって・・・」
「あの時のスパーでの一撃はいままでの中で最高の出来だったね。
 鈴木さんもかなり驚いていたみたいで愉快だったよ。
 まあ、鈴木さんの中には僕の敵討ちなんて思いは最初からなかったかも知れないけれどね」

 俺と獅童さんはお互いに笑い合うと鈴木さんの試合を観戦する。
 ゴング開始に先に仕掛けたのは鈴木さんだった。

 まずは相手の出方を軽く見て、獅童さんの時みたく突進して来たところをカウンターで決めようと言う流れである。
 だが、天原選手は動じず、鈴木さんと同じリズムで牽制し合う。

「・・・僕の時と違う。本当に一人一人の試合で攻撃方法を変えているのか?」
「そんな事が可能なんですか?」
「理論上はね。けれど、それはある意味
、世界クラスのレベルだ。
 日本でそんなハイレベルな技術を持つ選手なんて一握りだよ」

 獅童さんは「ただ」と付け加えた。

「世界に匹敵するレベルの選手だったトレーナーに鍛えられた鈴木さんなら話は別だろうけどね?」

 そう獅童さんが告げた瞬間、ジャブで牽制し合っていた鈴木さんがダッキングしながらショートレンジに突っ込む。
 本来の鈴木さんにはない型だ。

 データにない行動に天原選手も困惑しながら手を出す。
 その手に合わせて、鈴木さんはカウンターを叩き込んだ。
 それにも合わせようとした天原選手に鈴木さんのトリプルクロスが炸裂する。

 相手はダウンこそしなかったが、ダメージは大きかったのか、天を仰ぎ見ている。
 そこへ鈴木さんがチャンスと踏んで再度、突進するが天原選手と足がぶつかって転ける。

 折角のチャンスだったのに惜しい!

「もう少しだったのに!」
「いや、今のはおかしい。互いの足がもつれて転んだんだから。
 恐らく、天原選手が本能的にスイッチしたんだろう。
 いまのを見て、恐らく、坂田さんも作戦を変える筈さ。
 本当のプロって言うのは、臨機応変に試合で対応してこそ、一流さ」

 そう言うと獅童さんは溜め息を吐く。

「ああ。あの時、坂田さんが移籍を許可してくれれば、今頃、僕ももっと活躍出来たかも知れないのが悔やまれるな。
 得たものも大きかったけれど、失ったのも多かった。
 自業自得なんだろうけど、それでもやっぱり、鈴木さんと坂田さんのコンビは羨ましいな」
「そうですね。俺もああなりたいです」

 俺達はお互いに鈴木さんとそれを見守る坂田さんの試合風景を見ながら羨ましがる。
 本当にあの二人みたいな関係を築きたいものだ。

 そうこうしている間に次のラウンドに入る。
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