努力が必ず報われる世界って本当ですか?

嗄声逸毅

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第一章① 『地獄の地編』

第一章①-2  『特殊な法って本当ですか?』

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「彼…?」

彼って一体誰のことだ。まさかスジグモさんが先に着いているのだろうか。
そういえば、今の今まで気にしていなかったがスジグモさん達も俺と同じくこの図書館を目指していたはず。それなのに途中下車をしていたな。となると俺より先に着いていることは考えづらい。
スジグモさんたちの理由はともかく彼とは…。
それとこの人がジャンが言っていたオリオさんなのか?

「名前は聞いてないんだが、そうだな。特徴は白髪で、筋肉質でいて、そのうえ目が大きくて――」

「それって、カマチ!?」

「おっ。その反応は心当たりがあるようだね。そうか、彼はカマチというのか。カマチは君が馬車でこちらに向かっている間に、睡眠どころか休憩も一切取らずにひたすら己の脚のみで走って来たみたいだ。辿り着いた時にはもう立っているのがやっとのようだったよ。まさにへとへとだ」

まさかのまさかだった。

「そんな。あいつどうしてそこまで…」

「さあ?僕が思うに、それはそのフラッカという女の子のためというよりは、その女の子を大事に思っている君のためなんじゃーないかな」

カマチが俺のことをそこまで思ってくれていたのか。もしそうなら、なんだかんだ良いやつだよな、あいつ。

「あれ、でもそのカマチの姿が見当たりませんが一体どこに?」

「ああ、カマチなら寝室でぐっすり寝ているはずだよ」

「なんだそうなんですね、わざわざありがとうございます。ところでカマチからはどこまで話を聞いているんですか?」

「ここじゃなんだ。その話はカマチのいる部屋で話そうか。案内しよう」

「わかりました。よろしくお願いします」

言われるがまま部屋まで案内された。向かう途中、ふと思い出したかのように少し先を行くその男が話し始めた。

「そうだった、まだ自己紹介していなかったね。僕の名前は『オリオ=マクレイン』。この図書館の館長であり、書庫全体の管理をしている者だ」

「やはりあなたがオリオさんだったんですね」

「ああ、そうだよ。ところで、カマチもそうだったんだが、なぜ僕の名前を君たち二人は知っているんだい?」

「ああえっと、実はオリオさんに会ったら色々わかるだろうってパン屋をやってるジャンから」

「パン屋のジャン。あー彼か」

「お知り合いなんですよね。ジャンは顔見知り程度だと言っていたんですが、いつそんな機会が?」

「実はね、僕とジャンは一緒の道場にいたことがあるんだ。簡潔に述べるなら同期だね、歳は違うが」

「道場?柔道か何かですか?」

「柔道?聞いたことがあるな。だが違うよ」

この反応はオリオさんは水球人ここのひとなのかな。

「さっ、ここだよ」

ようやくカマチが寝ている寝室に着いた。

部屋の扉を開き、中に入るとすぐにベッドが目に入り、そこにはぐっすりと寝込んでいるカマチの姿があった。

「なんだか、起こすのは気が引けますね。そっとしておきますか」

「そうだね、それが一番かもね。それじゃナイユフ、椅子に腰を掛けてくれ。一度カマチから聞いたことを君に話そう」


***


「と、まぁざっくりとこんな感じでカマチから聞いたよ。おおよそ合っているかな?」

「はい、合ってます」

「じゃー、本題へ。君たち二人はそのフラッカという女の子を救うためワイト王国の王子になりたいわけだが、なぜ彼女が捕まり、なぜ処刑されるのか分かっているのかな?」

「それが分からないんです。町の掲示板にはそこまでは書かれていなくて。本当に何も知らないんですけど名を持つだけで処されるなんてそんな大事な法が世間に知れ渡っていないって変じゃないですか?」

「いいや、全然変ではないよ。なぜならば、その法は異例中の異例。一般市民にはほとんど知られないまま施行された特殊な法なんだよ。それに君たち2人とそのフラッカが地球人だということはカマチから聞いている。外から来たのだからここの法を知らないのも無理ないだろう」

「異例中の異例…?」

「ああ、君たちを含め一般市民はなぜ『フラッカ』という名前を持つだけで捕まり、なぜ処刑までされるのかを知らない。もっと言えば知れないようになっている。法を定めた政府や国王は市民にそれを知られることを恐れているんだ。さらに言えばフラッカ自体を恐れている」

「よく分かりません。なぜそこまで恐れているんですか?それを知りたいんです!」

「わかった、話そう。フラッカとは数十年、あるいはさらに昔。ワイト王国に突如として現れた、だ」

「魔女!?この世界には魔女がいるんですか!」

「ああ、彼女だけだがね。その魔女は死ぬ度、同じ名を持つ者に取り付き、幾度となく復活し、市民に危害を及ぼす凶悪な魔女なのさ」

「そんな…じゃーフラッカはもうその魔女に取り付かれているんですか?」

「さあ、それはわからないが今までの魔女は6、7歳になった途端に取り付くらしい。今の彼女の年齢は――」

「16か17ですね」

「んーだとすると、彼女はもうすでに取り付かれていると考えるのが妥当かもしれないね」

「もし、取り付かれたらその体はどうなるんですか?」

「おそらく身も心も完全に乗っ取られてしまうだろうね。だが、今までずっと普通に暮らしていたんだろう?」

「はい、ずっとパン屋でアルバイトをしてましたし、一緒の部屋でも寝てましたがそんなそぶりは一切なく」

なかったよな、たぶん。
そう聞かれると自信がない。

「なるほどな。それが事実なら今までの魔女のパターンが崩れたことになる…これは荒れるな」

「荒れるって、何がですか?」

「国がだよ。おそらくフラッカが捕まったことは大々的にはならないだろう。
政府は隠したいからね。だが、フラッカの法は今までのパターンに乗っ取って作られている。
そのパターンではない地球人という外の人間がフラッカの名を持ち、しかも年齢が本来の規定の10も上。これはつまり法に該当しないのと同じなんだよ。
これでもし処刑をし、さらにそれがワイトの住民に知れ渡れば政府の信頼は消え、政府と市民が争うことになるかもしれない。
だからといって魔女の名を持つ者を野放しにすれば、いつしかフラッカが目を覚まし、市民に危害が及ぶかもしれない。そうなると魔女を逃がした政府は前者同様、信頼関係を失うことになるだろう」

「おいおいおい!急に話がでかくなるじゃんかよ!」

「かなりまずいぞこれは。そんなことになれば、数百年の歴史を持つワイト王国は滅びることになるだろう」

「ええ……」

まさか、国が滅びるという一大事になりうる爆弾を、俺たちが今まで抱えていたとは少しも思っていなかった。はっきりいって他人事のように感じてしまっている自分がいる。話があまりに大きすぎる。

「こうなるとより一層、王子にならざるを得なくなってきたな」

「と言いますと?」

「王子になる目的は法を変えるためなんだろう?おそらく政府も法を変えようとするはずだ。政府に残された信頼を失わないための最低限の方法。それは、このままフラッカが何なのかを隠したまま、出身と年齢の制限をなくし無差別化することだろう。そうすれば君たちの友達であるフラッカを必ず処刑できる」

「俺らはそうならないようにどんな法を作ればいいんだ……。何をどうしたら……」

「そんなのは簡単さ。君たちがすべきことは2つ。1つ目は魔女の。そして2つ目は――フラッカに関する法を撤廃することだ……!」
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