1 / 2
1
しおりを挟む「みみちゃん」
おかあさんによばれて、
みみちゃんは「はーい」と返事をしました。
みみちゃんは5さいのおんなのこ。
今日も、おかあさんに結んでもらったツインテールと、お気に入りのお姫様みたいなワンピースを着て、腕には黒猫のぬいぐるみ。
猫の名前はシャーロット、首にはきれいな真っ赤なリボンがついています。
みみちゃんの大切なおともだちです。
みみちゃんは、おかあさんといっしょに
スーパーにきていました。
カートをおしているおかあさんに、
いろんなものを持っていきます。
「ねえおかあさん、みみちゃんぶどうが食べたい!ますかっとがいいなぁ」
「あっ!このおかし好き!
カゴにいれてもいーい?」
みみちゃんは背伸びをしながら、
おかあさんのカートに好きなものを入れていきます。
いつもは怒られるのに、
今日のおかあさんは何も言いません。
だから、みみちゃんはどんどんお菓子を
探しに行きます。
けれど…あれれ?
いつの間にか、おともだちのシャーロットが
いなくなっています。
いつもみみちゃんが大事に持っているのに、
どこにいってしまったのでしょう。
みみちゃんはあわててシャーロットを探します。
でも、お菓子売り場にも、おかあさんのカゴの中にも、シャーロットはいません。
どうしよう、どうしよう。
みみちゃんは考えます。
そうだ、シャーロットは賢いから、
おかあさんの車で待っているのかも。
みみちゃんは急いでスーパーを出ると、
すぐおとなりの駐車場を見に行きました。
でも、みみちゃんはおかあさんの車が
どこにあるかわかりません。
車で来たはずなのに、どこで降りたかぜんぜんわかりません。
しかたなく、みみちゃんはとっても広い駐車場の中を歩き始めます。
駐車場には、車が少しだけ停まっていました。
でもおかしいなあ、おかあさんの車って、
どんなのだったっけ?
いつも乗っているはずなのに、
なぜか思い出せないのです。
すると、ある車の隣に、猫がいるのを見つけました。
真っ黒で、普通の猫より小さくて、
首には真っ赤なリボンをしています。
シャーロットだ!
みみちゃんが走っていくと、猫は毛繕いをやめてみみちゃんを見上げました。
みみちゃんが近づいても逃げません。
それどころか、くあーっとあくびをしています。
ほらほら、やっぱりシャーロットだ。
さすがおりこうさんね、ちゃんとここで待っていたんだわ。
みみちゃんは嬉しくて、シャーロットの隣にしゃがみこむと、いつものように頭を撫でてあげました。
シャーロットはしばらく気持ちよさそうに撫でられて、そしてふらりと歩き出します。
「シャーロット、どこに行くの?」
みみちゃんが話しかけても、シャーロットは
「みゃーお」と返事をするだけで止まってくれません。
そしてそのまま駐車場の端まで来ました。
あら、するとそこには、レンガ造りのオシャレなお店があるではありませんか。
みみちゃんはびっくりしました。
スーパーの隣に、こんなに可愛いお店があったなんて。全然気がつかなかった!
シャーロットは、開けっ放しのお店のドアへまっすぐ入っていきます。
だからみみちゃんも、急いでついて行きました。
お店の中も、とってもおしゃれ。
テレビで見るような、綺麗なカフェです。
お客さんもたくさんいます。
みんなとっても楽しそうにお喋りしています。
「にめいさまですね」
メイドさんみたいな、可愛い服を着た店員さんが、ニコニコしながらみみちゃんとシャーロットを案内してくれます。
みみちゃんはドキドキです。
だってこんなところ、おかあさんとだって来たことがありません。
シャーロットは堂々とソファーに座って、
また毛繕いをしています。
みみちゃんはその隣に座って、
シャーロットを眺めました。
テーブルの上には、いつの間にやらケーキとジュースが置いてあります。
シャーロットの前にも、同じものが置かれています。
みみちゃんは困りました。
「あのねシャーロット、わたし、お金もってないのよ」
「おかあさん、置いてきちゃったの。
もしかしたら怒ってるかもしれない」
「だから、早く戻ろう」
みみちゃんがそう言うと、
シャーロットがこちらを見ました。
「だいじょうぶだよ」
シャーロットはそう言ってあくびをします。
みみちゃんは首を横に振ります。
「大丈夫じゃないよ。子どもだけで、こんなお店に入っちゃいけないんだよ」
「子どもじゃないでしょ?」
シャーロットは、あたりまえみたいに言いました。
「みみちゃんは、子どもじゃないから、おかあさんがいなくても大丈夫なんだよ」
「だめだよ、大丈夫じゃないよ」
「大丈夫になるしか、ないんだよ」
なに、なに、なに?どういうこと?
シャーロットが、おかしくなっちゃった。
みみちゃんは急に心細くなって、
ソファーから立ち上がりました。
はやくもどろう。
おかあさんのところにいこう。
だけど、おかあさんって、
どんな顔をしていたっけ?
「ダメだよ、行けないよ」
あまりにも悲しそうな声でシャーロットが言うので、みみちゃんは思わず振り向きました。
しかしそこには、シャーロットはいません。
みみちゃんはもっともっと心細くなって、
走ってお店を飛び出しました。
広い広い駐車場の、ずっとずっと向こうに、
おかあさんが見えます。
とっても遠いけれど、みみちゃんにはすぐに
わかりました。
おかあさん、おかあさん。
走って行こうとするけれど、おかあさんはちっとも近づいてきません。
どんどん足が重たくなって、
みみちゃんは座り込んでしまいました。
「みみちゃん」
シャーロットが、隣に座って言いました。
「さっきのところにもどろう。一緒にケーキを食べよう」
みみちゃんは首を横に振ります。
「おかあさんも、一緒がいい」
「それは、できないんだよ」
「やだ、やだ。わたし、おかあさんと一緒にケーキが食べたい。お買い物もするの。たくさんお喋りするの」
みみちゃんはポロポロと涙をこぼしました。
「一緒に料理をしたり、服を選んだり、テレビを見て笑ったり、それでいいの。それだけでいいの」
「そうだね、ごめんね」
みみちゃんは、ずっとずっと泣いていました。
シャーロットも、ずっとずっと隣にいてくれました。
0
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる