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第二話

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俺は櫻井さんに案内されるまま、とあるところに来た。

「え? ここは……」

 俺と櫻井さんがたどり着いた場所は屋敷と言っても過言ではないほどに、大きく綺麗なところだった。

 櫻井さんは横髪を払いこちらを振り向いて「ここは私の家よ?」とどうかした? とこちらを見た。

 これが「どうかした?」で済むほどの物ではないぞ……こいつ、金持ちか……!?

「いやいや、ここに住んでんの?」

「ええ、そうよ?」と何か問題でも? と言いたそうな顔をして平然と言った。

 たしかに嘘はたいていなさそうだ……。

「ほんとか?」

「ええ」と櫻井さんは黒く大きな柵を開けた。

「待ってくれ……」と俺は急いで櫻井さんの後に続いて中に入った。
 
 ま、まじなのか……。

 いや、この中に入ってしまった時点で嘘ではなさそうだ。

 嘘ならすぐ逮捕だ、不法侵入!!!!

「お帰りなさいませ。お嬢様……」とそこに居たのはメイド服の少し胸元と背中の露出がある美人さんだった。

「お、お嬢様?」

 た、たしかにこんなに金持ちそうな家に住んでいるのだ。

 しかし、メイドを雇うほどとは……。

「ただいま……らんさん、私の分と二つ夕食をお願い……」

「わかりました……」

「ほら、着いてきなさい……」

「お、ぉお……」

 俺は耳元で櫻井さんに「おい、お前って金持ちなのか……」と小さな声で聞いた。

「ぇえ、そうよ。両親がね、海外ですごく活躍してるの……」

 ということは……両親とは住んでいないのか……。

「そ、そうか……それで、俺をここに呼んだのは? 後、ご飯貰っていいのか?」

「ええ、貰っていいわよ。ここに呼んだのは、が変わった瞬間になればわかるわ」

 な、なんだそりゃぁ……。

 日付けが変わった瞬間……?

 全く意味がわからないが、のちのちわかるのだろう。

「そ、そうか……」

 そのまま、俺は櫻井さんの部屋に招待された。

 童貞なだけあり、異性の家は……いや、俺はもう童貞ではなかったな……。

 とても緊張した。

 櫻井さんの部屋は真ん中に大きな天井付きのベッドがあった。

 あとは、別にそこまで他の女の子の部屋とは変わらなそうな感じだ。

 いや……。

「広ッ!?」

「そうかしら?」

「めちゃくちゃ広い……」

 櫻井さんの部屋は教室ひとつ分ほどあった。

 そのせいか、少し周りが寂しく感じてしまう。

「まぁ、いいわ。とりあえず、ご飯を食べて日付けが変わるのを待ちましょう……」

「は、はぁ……」

 そのまま、俺は櫻井さんにご馳走してもらった。

 夕食はなんか高そうなステーキが出てきた。

 まじモンの金持ちだな……いや、大金持ちだ。

 もしかしたら、二度とこんなに豪華なステーキを食べれる機会はないと思いながらとても味わって食べた。

 その後はずっと勉強をしていた。

 櫻井さんに「お風呂入る?」と言われたが流石に遠慮しておいた。
 
 今思うと入っておけばよかったけど……なんせ、美少女の残り湯だぞ?

「そろそろね……」とボソッと櫻井さんは言うと部屋の鍵を閉めた。

 え? なになに……日付けが変わるとオオカミになるとかか!?

「変なこと考えてるでしょ?」

「考えてません……」

「なら、いいわ……」

 そのまま、心臓をバクンバクンと鳴らしていると……ついに日付けが変わった。

 次の瞬間、櫻井さんは気絶するように倒れた。

「さ、櫻井さん……」

 そして、「う、うん……」と立ち上がる櫻井さん。

「おひゃひょうございましゅ……」と寝ぼけている櫻井さんはとても可愛らしかった。

 おいおい、まだ1分も寝てねーぞ……。

 櫻井さんは猫のように可愛らしく目を擦りながら俺を見る。

「俊くん……? えっ────、俊くん!?」と驚く櫻井さん。

「いやいや、そんなに驚くか? お前が俺をここに……」

ぶりです!! おはようございます。俊くん」

 そう櫻井さんは笑顔で言った。

「はい?」

 言っている意味がさっぱさわからなかった。

 1日ぶり……?

 櫻井さんの雰囲気は先程までのツンっとした感じと違って見えた。

 天然? というか……甘い感じの雰囲気だ。

「1日ぶりとは……?」と俺は戸惑いながら言った。

「だから、1日ぶりだね! あの……告白以来……」

「待て待て、言っている意味がわからないぞ? 今日だって一緒にいたし……」

 その瞬間、俺は思い出した。

 放課後に櫻井さんが「もう1人の私」と言っていたことを……。

 いやいや、そんな事があるはず……いや、しかし……今ここには先程までの記憶のない櫻井さんがいる訳だし……いやいや、それでもこんな二次元みたいなこと起こる物なのか!?

 俺は唾をゴクリと飲んで「あ、あなたは……俺とした……俺の彼女の……先程までの櫻井さんではない。もう1人の櫻井さんですか……?」

 はっきり言って自分でも言っている意味がわからないことぐらい十分承知だ。

 すると、櫻井さんは笑顔で「そうです」と言った。

「ほんと……ですか……?」

 これは夢だな……。

 なんたって、二重人格なんて存在するはずがない……。

 でも、今ここに二重人格の少女がいるのだ……夢に決まってる……。

 そう思うと俺は思いっきり壁に頭を叩きつけた。

「いったぁッ!? ……あれ……夢じゃ……ない……」

 すると、櫻井さんは俺を胸で挟んで頭を「痛い痛いの飛んでけ!」 と言わんばかりに撫で撫でした。

「い、いきなりどうしたんですか!? 俊くん……」

 いってぇええ……夢じゃないだと……?

 しかし、こうやって学年一の美少女の胸に挟まるとは……なんと罪深いことをしているんだ俺は……しかしも、学年一の美少女としたんだぞ……。

 そう思うと全校の男子に申し訳ないと思った。

 そして、親友にも……。

 俺は一旦大きく深呼吸をして、櫻井さんに聞いた。

「待ってくれ……『今の櫻井さんとは別にもう1人の櫻井さんがいる』ということであってるか……?」

「さすがです!!」

「な、なるほど……」

 仕方ない……いや、もう信じるしかないな……。

「じゃぁ、俺とその……行為を……したぁ? 櫻井さんで……」

「うん、そうですよ。わたしは俊くんとセックスをした櫻井彩芽です」

 おいおい、美少女がセックスとか……言わないでくれよ……。

「なるほど……じゃぁ、今の櫻井さんを1としてもう1人の櫻井さんを2とすると、交互に日を跨いで人格が入れ替わってるってことで合ってるか?」

「さすがです!! やっぱり、俊くんは天才ですね!」とニコッと言う櫻井さんに少しドキドキする俺。

 いや、こんな笑顔を見てドキドキしない男の子の方がやばいな……だって、天使だもん……。

 その後は少し雑談をして帰ることにした。

「じゃ、じゃぁ……俺は帰るぞ……?」

 時間はすでに1時だ。

 明日は学校だし……全く……。
  
 いや待てよ……櫻井さんは人格が1日に交互に入れ替わっていると言うことはーー普通に周りの人から性格が違うとかで怪しまれるんじゃ──。

 まぁ、いいや。
 
 そこら辺は明日観察するとしよう。

 今のこの子に聞いてもそこら辺までは考えてなさそうだし、もう1人の櫻井さんに聞くことにしよう。

 俺がドアを開けようとしたその時だった。

「ちょ、ちょっと待ってください……」

「ん?」

 俺は櫻井さんの方を振り返ると服を脱ぎ始める櫻井さん……。

「ちょっ」

 俺は慌ててそっぽを向いた。

「か、彼女なんですから……別にいいじゃないですか……?」

 そ、それもそっかぁ~。

 俺は欲に負けて櫻井さんの方を向いた。

 ほほ、やはりすごく綺麗だ……。

「帰る前に一度……」と下着を脱ごうとした櫻井さんを俺は止めた。

「それは流石に……。一応、もう1人のお前は俺の親友と付き合ってるわけだしさ……やめておくよ……」

 流石に親友に申し訳ない……。

「そ、それなら……代わりにお別れのキスを……」

 まぁ、キスぐらいなら……いいよな?

 一応、俺の彼女でもあるわけだし。

 そして、俺は櫻井さんとキスをして家に帰った。



 彩芽は俊が帰るとベッドにダイブした。

 そして、彩芽は枕をぽこぽこと殴りながら。

「恥ずかしいです……俊くん……わたしたち付き合ってるんだから……しても良かったのに……」



 放課後。 

 結局、次の日は櫻井さんに会う事はなかった。

 一応、付き合ってる? 

 みたいなものだし話しかけても良かったかもな……。

 しかし、ひとつ疑問に思う事がある。

 それは、宏も櫻井さんが二重人格ということを知っているかどうかだ。
 
 でも、聞いたら聞いたで「知らない」と言われた時の対処法が見つからないしもう1人の櫻井さんに聞くとしよう。

 というものの……。

 俺はスマホでLINEを開いて友達を見た。

 櫻井さんと友達になってない……。

 なっておくべきだったな……。

 するとそこに、「よぉ、どうしたよ? そんなに落ち込んでよ?」と宏が俺の顔を脇で挟んだ。

 うわっ!!

 俺は慌ててスマホの画面を切った。

「ん? いやなぁ……疲れてよ……」

「ははは、そうか。まぁ、今日で休日だしよ!! しっかり休日は休め!」

「ああ、そうするよ。ん? それより、今日お前部活は?」

 宏は野球部に所属しており次期キャプテン候補として挙げられている。

 4番ピッチャーと俺の自慢の親友だ。

「今日は休みだよ。櫻井さんと一緒に帰るんだ!」

「そ、そうなんだ……」

 あれ? 少し不安になってきたぞ?

 櫻井さんの人格が違う訳だし、不思議に思ったりはしないのか?

「じゃぁな!!」と宏は手を振りどこかへ行ってしまった。

 はぁ……よし!!

 俺も帰るとしよう。



 家に帰りいつもの様に少し復習をして、夜ご飯を食べお風呂に入った。

 そして、予習に入った時だった。

 よーし、明日は休みだし少し遅くまでやるか。

 しかし、やはり櫻井さんのことが気になり全く集中できなかった。

 俺はシャーペンを一旦手から離して、考えた。

 やっぱり気になるよなぁ……櫻井さんのこ
と……。

 時計を見るとすでに日が変わっていた。

「ハァ……よーし、櫻井さんに聞きに行くか……迷惑だが、仕方ない……」

 そう、俺はもう1人の櫻井さんに色々と聞きに行くためにパジャマから私服へと着替えた。

 そして、俺は玄関で靴を履いた。

 両親はめちゃくちゃ甘く、別に深夜だろうが外に出るのを許してくれる。

 よし、櫻井さんの家に向かうとしよう。

 ここから櫻井さんの家まではざっと15分ほどだな。

 俺は玄関を出た。

「あ」

 しかし、玄関を開けるとそこには腕を組んで待ちくたびれた櫻井さんが……。

 え?

「遅いわね……やっと出てきたわ!! ほら、LINE追加……」とスマホを俺に見せながらいう櫻井さん。

「お、おう……」

 こうして、俺は櫻井さんとLINEを交換した。

 は、初めての女の子のLINEアカウント……それも、学年一の美少女の!!

「場所を変えましょ?」と真剣な顔で櫻井さんは言った。

 真面目な話だな……。

 そして、俺たちは近所の公園のベンチに座った。

「なんでいるんだ?」

「そんなの、あなたがうちに来る事ぐらい読めてたからよ? 他に理由でも……?」

「………いや、すげぇわ……」

 やはり、こちらの櫻井さんの方が賢そうだ。

 いや、賢いな。

「あなたが聞きたい事は、もう1人の櫻井さんと性格を合わせないと周りから不自然に思われるって事でしょ?」と見破るのが「当たり前よ?」と言わんばかりの態度で言う櫻井さん。

「す、すげぇ……ビンゴです」

「その件なら大丈夫よ? 一応、学校だと私はもう1人の彩芽を演じているもの」

「す、すげぇ……」

 なるほど、だから周りは違和感を感じないのか……。

 しかし、どうやってだ?

 どうやってもう1人の櫻井さんを演じているんだ?

「どうやって、もう1人の櫻井さんを……?」

「私には見えるの」

「え?」

「私にはね、あの子の景色が見えるの……」

「え?」

「つまりね、あの子は私の景色を見ることができないけど私はあの子の景色を見ることができるの。それで、大体のことは知ってるの」

「え? でも、昨日……俺のことを──」

「それは、ただ昼寝をしていたからよ」

「な、なるほど……」

「昼寝をしていて良かったわ。あなたとしてるのなんて見たくないもの……」

 こ、こいつ……。

「なんだと!? 後もう一つ聞きたいことがあるんだが……俺はもう1人の櫻井さんと付き合ってるだろ? そんな中、櫻井さんが……」

「宏くんの事ね? それなら、あの子自身がなんとか宏くんとの関係を築いてくれてるわ。まぁ、他の女に任せてるみたいで変な気分だけど……。一応、少しの操作なら効くみたいだしね……後、櫻井さん、櫻井さん、うるさいから私のことを【シロ】、あの子のことを【クロ】と呼んで」

「お、おう……なぁ、現状のところお前の今の状況を知っているのは──」

「あなただけよ」

 まじか……これは、2人だけの秘密……いや、3人だけの秘密というやつか。

「そこでなんだけど……あなたに手伝って欲しいことがあるの」

 櫻井さんはベンチから立ち上がり俺の正面に立った。

「お、おう……」

「私が二重人格になったのは、静浜高校に通うようになってからなの」

 静浜高校とはうちの高校の名前だ。

「まて、今の言い方からするとお前が元からいた姿なのか?」

「そうね、そこら辺はよく覚えていないの……私自信過去の記憶が無いし、あの子も無いって言ってたわ……」

「な、なるほど……」

 少し安心する俺。

 なんせ、初彼女だ。

 もし、こっちが本物だったら俺の初彼女はいつか消えてしまう可能性がある。

 まぁ、どっちにしろどちらが本物かわからないのか。

「それでね、この高校に入ってからって事は……」

 なるほど、そういうことか。

「この高校が原因と……」

「その通りね!! さすが、俊くんです!」ともう1人……クロの様に言うシロ。

「つまり……」

「そう、【私】と【わたし】が二重人格でなくなるためにこの高校の謎を解くのを手伝って欲しいの」

「でも、どうやって?」

「そうね。とりあえず、生徒会が良さそうね」

「はい?」

「だから、生徒会に侵入して【学校の歴史】の載ったノートというものが存在するらしいから、そこで謎を解くわよ」

「まじすか……」

 ぇえー、正直嫌だ。

「あなたしか頼れる人がいないのよ? だから……」と可愛らしい仕草をしながら言う櫻井さん。

 ちくしょー、美少女からそんな可愛い事されたら断れないだろ?

 ずるい。

「くそ、わかったよ……」

「じゃぁ、月曜日に生徒会役員になりに生徒会室に行くわよ」

「お、おう……」

 そう、これは櫻井彩芽が何故二重人格になったのか謎を解く話である。



 

 













 
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